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剣なき英雄譚 〜魔道具研究開発録〜  作者: 博雅
第三章 粉実証試験編 -監視所の異変-
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粉の作成

 おれは腕まくりする。いつも通りいこう。


「まず、キバや角といった素材を砕いて、すりつぶして粉にします。今回はこのキバを使います」


 キバを金槌で叩いて、小石ほどの大きさまで荒くする。その後、すり鉢に移して、ゴリゴリと粉にする。


「素材は火じゃないとダメなのかい?」

「いえ、水、風でも試したことがありますが問題ありませんでした」

「属性関係ないんだ……」


 ノッポさんが顎に手を当てて、うむぅと唸る。

 ユウガオも驚いていたから、これまでの常識と外れているのだろう。


 いつもの細かさになったところで、大事なことを思い出す。

 最初から見せるなら、あの素材もいる!


「もう一つ素材が必要なのですが、最初から見せるなら、そちらも作らないといけませんでした。あるのか分かりませんが、蛍火街灯をつないでいるヒモってありますか?」


 そう。こっちはいつもストックしていた自分のものを使っていたから、忘れていた。

 蛍火街灯とか、研究所にあるのか不安になる。


「魔力線のこと?あそこにあるよ」


 奥隠先輩が指差した方をみると、棚の中でグルグル巻きになっているヒモをみつけた。


「あるんですね。よかった。蛍火街灯の一部なので、ここにあるのか心配でしたが、むしろいっぱいありますね」

「アレは蛍火街灯の一部ではない。魔力線という魔道具だ。蛍火街灯は魔力線を使った魔道具という認識が正しい」

「え?そうなんですか。てっきり一部だと思ってました。その紐は使ってもいいでしょうか」

「問題ない」


 達じいさんに承諾を得たため、魔力線と呼ばれたヒモを取る。

 これも魔道具なのか。

 だとすると何かの素材が使われていると思われる。

 後で聞いてみよう。とにかく今は粉を作らなくては。


 持ってきた魔力線をハサミで細かく切る。

 その後、別のすり鉢で、叩く様にして粉にする。


 「そっちの粉は魔力線を粉にしてたんだ。なるほどね」


 ユウガオが頷きながら、作業を見ている。

 

「なるほどねってどういう意味だ?」

「魔力線は魔力を伝える役目の魔道具なの。街灯もそうだけど、あの日素材にヒモが巻き付いていたの覚えてる?」


 あの日とは、おそらく結界核の補充をした日だろう。

 そういえば、あの時置いてあった素材は、糸でグルグル巻きにされていた。


 「あの巻いていた糸も同じ魔力線だよ。中級素材からも、あの糸を介することで魔力がゆっくりだけど補充できるから。粉を押し当てるだけでなんでと思っていたけど、魔力線の粉が媒介になっていたんだね」

 「なるほどな」


 そう言われると、確かにそうかもしれない。


 魔力線の粉を使ったのは、狙って試したからではない。身の回りにあるものを片っ端から粉にして、その中で反応したものを残しただけだ。

 知らないうちに、魔力を伝える性質を利用していたらしい。

 そんなことを考えていると、手元の粉はちょうどいいサイズになっていた。

 すりつぶす作業をやめて、先ほどつぶした素材の粉を目の前に持ってくる。

 右のすり鉢から素材の粉をひと握り取る。続いて、左のすり鉢から、その半分ほどの魔力線の粉を取った。

 両手の粉を、空いている瓶に入れて蓋をする。ある程度振って混ぜたら完成だ。


 「これで完成です」


 奥隠先輩が、流水瓶を机の上に置いた。

 

 「これで試してみてください」


 素材部分は色を失っている。


 「分かりました」


 流水瓶には魔力補充したことがあるので、素材の場所が正確にわかっている。

 できた粉を少量手に出して、なじませるように広げる。

 そのまま取っ手部分に仕込まれている素材を握ると、淡く光る。

 周りの誰かが息をのんだ。

 うまくいっているはずだと思っても、見られていると緊張する。


 そのまま、近くのコップに傾けると、流水瓶からは水が出てきた。


 「ふう。成功だな」


 一安心して、息を吐き出す。

 

 「そのようですね。本当に属性関係なく補充できるとは。驚きです」

 「やっぱりすごいよ月燈くん!これ、応用の可能性がありすぎるよ!」


 奥隠先輩やノッポさんが褒めてくれたことで、自信と一緒に声も大きくなる。


 「はい!なので、頑張って早く報告書をまとめて、もっとこの技術を広めます!」

 「いいねー!うわー楽しみだなー」

 「ちょっとまったー!」


 ノッポさんと盛り上がっていると、ユウガオが割り込む。

 ぎょっとしてユウガオを見る。


「うわ!なんだよ急に!」

「月燈くんにどーしても聞きたいことがあって。2つの粉を混ぜたよね?」

「混ぜたな」

「どのくらい混ぜました?」

「どのくらいって素材の方が握れるだけ握った量で、魔力線が半分くらい?」

「重さを測ったことは?」

「ないけど、大体この量でうまく……」

「握れる量なんて人によって違うでしょう!そんな曖昧な量で他の人が作るんですか!」


 たしかに。難しいかもしれない。

 他の人が作ることなんか考えたことがなかったから、急に言われて焦ってしまう。


「あ!じゃあおれがどのくらい握ってるかを教えれば出来るようになるよ!」

「なんの!ために!秤があると!思っているんですか!」


 ユウガオがプリプリと怒りながら、机をバンバン叩く。

 ノッポさんたちは苦笑いしている。


 「混ぜる比率を変えてみたことは?」

 「数年前、この比率でうまくいってから変えてない」


 ひぃっとユウガオが小さな悲鳴を上げる。

 

 「ゼロから測定しないといけないの!?え?一ヶ月でその結果を?なにそれ絶望……帰れるの?」


 ユウガオがブツブツ言いだして、表情が焦ったり、困ったりコロコロ変わる。

 多分おれの報告書について何か大変になりそうと予感しているのだろう。

 おれは報告書を知らないので、イメージできないが。

 見ていて面白くなってきた。

 とりあえず言葉をかける。


 「大丈夫だよ。やればできるから、頑張れよ!」

 「あなたが!頑張るのよ!」

 

 ユウガオとは対照的に、おれは笑いながらユウガオを励ましていた。

 その笑顔がユウガオと同じ絶望的な表情に変わることを、この時のおれは知らなかった。

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