秘密にしないと
「それでは、私は部屋に戻ります。夕顔さん、後は任せますね」
木蓮さんは私にそう言い残して、部屋を出ていった。
途端に、初めて粉を見た三人が詰め寄る。
「月燈くん、もう一回やってよ!凄いよ、それ!」
「待て。他の属性でもできるのか?」
「この粉、原料は何?」
「いいですよ……え?えっと属性は関係ない……え?原料ですか?」
三人がそれぞれ別の質問を月燈くんにしている。
月燈くんは、困った顔をしているが、自分の開発品が褒められて嬉しそうだ。
その姿に、私も嬉しくなった。
さて、木蓮さんに頼まれてたんだから、仕切らないと!
私は手を鳴らす。
「はい!一旦、質問止めて下さい!」
全員がこちらを見る。
「その粉が気になるのは、とてもよくわかります。なので、月燈くん。一度、最初からその粉を作るところを見せて?そうすればみんなの疑問もある程度解決するし、報告書の書き方も決められるから」
「そ、そうだな!でも、材料持ってないぞ」
「ここは研究所だよ。ある程度は揃うから。じゃあ加工室でさっそく作りましょう」
方針が決まって動きだそうとすると、ノッポさんから待ったがかかる。
「夕顔ちゃん。この技術は報告前なんでしょ?なら、加工室で作業するのはダメだ。他の室の人がいる」
「あ。そうですね。じゃあ……材料だけ取りに行きましょうか」
「そうだね。それくらいならいいんじゃないかな」
そこに月燈くんが、割って入る。
「なぁ、ユウガオ。同じ研究所なのにそんなに秘密にしないといけないのか?」
月燈くんの質問に、ノッポさんが苦い顔をする。そうなるのも分かる。私も同じ顔をしていると思う。
「開発権を守るためなの。凄い開発は高く評価されるんだよね。だから、昔は技術を盗むってことが頻繁にあったんだよ。これは私の開発ですって同じ内容を公表するみたいな」
「開発を盗む奴なんているのか?」
「いる。評価されたい。出世したい。そういう理由がほとんどよ」
「研究所の中でも、そんな事件が起きるのか」
ノッポさんがため息混じりに答える。
「人間だからね。基本は同じだよ。ただ、盗んだ場合は割りと決着がつきやすい。開発において、開発した本人が一番詳しいからね。調べれば間違いなくバレる」
「それは、そうですよね。おれもこの粉が盗まれても、この粉については負ける気がしない」
「いい自信だね。ただ、面倒なのは盗まれた場合じゃない。似ていた場合なんだ」
「似ていた場合?」
月燈くんが首を傾げる。
「そう。つまり、開発の内容が同じじゃないけど似ていた場合だ。ある開発が公表された時に、それが自身の開発と似ていた場合、その人はどう考えると思うかい?」
「……盗まれたと考えるかもしれません」
「そうなんだ。自分と似た開発が先に公表されたという焦りもあり、盗まれたんじゃないかを疑ってしまうんだ。悲しいことにね」
「……分かる気がします。自分の作ったものは大事ですから」
「うん。でもこうなると厄介なんだ。本当に盗んでいたとしても、ある程度詳しく話せるから盗んだかどうかわからない。そうなると、いつも結果は一緒。疑われた方と疑った方、両方とも辞めてしまうんだ」
「え?何でですか?」
「居心地が悪くなるんだよ。あいつは技術を盗んだ。あいつは妬ましさから開発者を貶めたって噂が流れるからね。ずっと研究所にいる僕たちにとって、それは軽い話じゃないんだ」
嫌な話だけど、そういうことなんだよね。
「だから、報告までは秘密にしなければいけないの。これは、開発者を守るためでもあるのよ」
「わかった。自分の開発がそんなことで否定されたら、嫌な気持ちになるのは確実だからな」
月燈くんが神妙な顔つきで頷き、重い空気が流れた。
「月燈後輩。お話もいいですが、小生は早く粉を作るところが見たいです」
そんな中、紫陽ちゃんが口を尖らせる。
相変わらずのマイペースだが、ここは乗っかろう!
「そ、そうだよ!話はこれくらいで、加工室に材料を取りに行こう!早くしないと夜になっちゃう!」
「そうだね!じゃあ僕も、いやみんなで行こうか!加工室も案内しないとね!」
「小生は行きません」
「え?あぁ、まあみんなで行く必要はないか。じゃあ僕と夕顔ちゃんと月燈くんで行こう」
ノッポさんも気を利かせて乗っかるが、紫陽ちゃんに一蹴される。いつもの流れだ。
「加工室は一階です。行きましょう」




