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剣なき英雄譚 〜魔道具研究開発録〜  作者: 博雅
第三章 粉実証試験編 -監視所の異変-
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秘密にしないと

「それでは、私は部屋に戻ります。夕顔さん、後は任せますね」


 木蓮さんは私にそう言い残して、部屋を出ていった。

 途端に、初めて粉を見た三人が詰め寄る。


「月燈くん、もう一回やってよ!凄いよ、それ!」

「待て。他の属性でもできるのか?」

「この粉、原料は何?」

「いいですよ……え?えっと属性は関係ない……え?原料ですか?」


 三人がそれぞれ別の質問を月燈くんにしている。

 月燈くんは、困った顔をしているが、自分の開発品が褒められて嬉しそうだ。

 その姿に、私も嬉しくなった。


 さて、木蓮さんに頼まれてたんだから、仕切らないと!

 私は手を鳴らす。


「はい!一旦、質問止めて下さい!」

 

 全員がこちらを見る。


「その粉が気になるのは、とてもよくわかります。なので、月燈くん。一度、最初からその粉を作るところを見せて?そうすればみんなの疑問もある程度解決するし、報告書の書き方も決められるから」

「そ、そうだな!でも、材料持ってないぞ」

「ここは研究所だよ。ある程度は揃うから。じゃあ加工室でさっそく作りましょう」


 方針が決まって動きだそうとすると、ノッポさんから待ったがかかる。


「夕顔ちゃん。この技術は報告前なんでしょ?なら、加工室で作業するのはダメだ。他の室の人がいる」

「あ。そうですね。じゃあ……材料だけ取りに行きましょうか」

「そうだね。それくらいならいいんじゃないかな」


 そこに月燈くんが、割って入る。

 

「なぁ、ユウガオ。同じ研究所なのにそんなに秘密にしないといけないのか?」


 月燈くんの質問に、ノッポさんが苦い顔をする。そうなるのも分かる。私も同じ顔をしていると思う。


「開発権を守るためなの。凄い開発は高く評価されるんだよね。だから、昔は技術を盗むってことが頻繁にあったんだよ。これは私の開発ですって同じ内容を公表するみたいな」

「開発を盗む奴なんているのか?」

「いる。評価されたい。出世したい。そういう理由がほとんどよ」

「研究所の中でも、そんな事件が起きるのか」


 ノッポさんがため息混じりに答える。


「人間だからね。基本は同じだよ。ただ、盗んだ場合は割りと決着がつきやすい。開発において、開発した本人が一番詳しいからね。調べれば間違いなくバレる」

「それは、そうですよね。おれもこの粉が盗まれても、この粉については負ける気がしない」

「いい自信だね。ただ、面倒なのは盗まれた場合じゃない。似ていた場合なんだ」

「似ていた場合?」


 月燈くんが首を傾げる。


「そう。つまり、開発の内容が同じじゃないけど似ていた場合だ。ある開発が公表された時に、それが自身の開発と似ていた場合、その人はどう考えると思うかい?」

「……盗まれたと考えるかもしれません」

「そうなんだ。自分と似た開発が先に公表されたという焦りもあり、盗まれたんじゃないかを疑ってしまうんだ。悲しいことにね」

「……分かる気がします。自分の作ったものは大事ですから」

「うん。でもこうなると厄介なんだ。本当に盗んでいたとしても、ある程度詳しく話せるから盗んだかどうかわからない。そうなると、いつも結果は一緒。疑われた方と疑った方、両方とも辞めてしまうんだ」

「え?何でですか?」

「居心地が悪くなるんだよ。あいつは技術を盗んだ。あいつは妬ましさから開発者を貶めたって噂が流れるからね。ずっと研究所にいる僕たちにとって、それは軽い話じゃないんだ」


 嫌な話だけど、そういうことなんだよね。


「だから、報告までは秘密にしなければいけないの。これは、開発者を守るためでもあるのよ」

「わかった。自分の開発がそんなことで否定されたら、嫌な気持ちになるのは確実だからな」

 

 月燈くんが神妙な顔つきで頷き、重い空気が流れた。


「月燈後輩。お話もいいですが、小生は早く粉を作るところが見たいです」


 そんな中、紫陽ちゃんが口を尖らせる。

 相変わらずのマイペースだが、ここは乗っかろう!


「そ、そうだよ!話はこれくらいで、加工室に材料を取りに行こう!早くしないと夜になっちゃう!」

「そうだね!じゃあ僕も、いやみんなで行こうか!加工室も案内しないとね!」

「小生は行きません」

「え?あぁ、まあみんなで行く必要はないか。じゃあ僕と夕顔ちゃんと月燈くんで行こう」


 ノッポさんも気を利かせて乗っかるが、紫陽ちゃんに一蹴される。いつもの流れだ。


「加工室は一階です。行きましょう」

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