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剣なき英雄譚 〜魔道具研究開発録〜  作者: 博雅
第三章 粉実証試験編 -監視所の異変-
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課題

 統括長の部屋を出ると、壁際で両手を合わせて祈りながら立っているユウガオをみつけた。

 ユウガオもこちらに気づいて顔を上げる。


「お。待たせたな」

「か、軽いわね……。面接だったんでしょ?どうだったの?」

「合格をもらえたよ」

「よかったぁぁ。管理部に行ったら、統括長に部屋へ連れてかれたって。そしたら、木蓮所長が面接は明日のはずって管理部を飛び出して。何がどうなってるのかわからなかったわ」

「それは心配かけたな。おれもよくわからなかったから、混乱するのも当然だ」

「さぁ。立ち話はそれくらいして。宿舎に向かいましょうか」


 少し遅れて部屋から出て来た木蓮さんが、おれの肩を軽く叩き、前を歩き始めた。慌てて追いかける。

 そのまま、管理棟を出て、何があったのかを二人に話しながら宿舎へ向かった。

 

「ねぇ。さっきからずっと気になってるんだけど、その靴なに?」

「飛脚靴って言うらしいぞ」

「そうじゃなくて。なんで持ってるの?」

「統括長から合格祝いとしてもらったんだ」

「へー。ずいぶんと古い型式ね。二世代前くらいかな」

「そうなのか?え、まさか使えない?」

「見てみる。貸して」

「返してね」


 「返すわよ」と睨みながら、ユウガオは飛脚靴を受け取る。

 靴の中を覗いた後、こちらをみる。


「魔道具としてはまだ使えそう。ただ、靴の方が古いから、履くのは難しいかも」


 はいと言って、靴を返してくれた。


「そうなのか。まぁいいかな。後でちょっと履いてみたいだけだし」

「まぁ、それくらいならいいんじゃない。討伐隊専用って言っても、持ってる人結構いるし」

「そうなんだ。どうやって手に入れるんだ?」

「普通に買えるわよ。魔道具屋で」

「ま、ま、ま、ま、魔道具屋!?」


 ユウガオに詰め寄る。

 ユウガオは、わかっていたかのように距離を空ける。


「まぁ、そう来るよね。あなたにも慣れてきたわ」

「そんなことどうでもよくて!どこにあるんだ、その店は?」


 絶対行かないと!聞いてないぞ、そんな店!

 

「街にあるわ。そのうち関わることになるから、その時に教えてあげる」

「絶対だぞ!」


 思わず足取りが弾む。

 教えてあげるって言ってたが、連れて行ってもらおう。


「あれが、宿舎です」


 会話が途切れたところで、木蓮さんが正面の建物を指差す。


 宿舎は、町にある宿屋をそのまま大きくしたような建物だった。


「鍵に書いてある番号の部屋が月燈さんの部屋です。部屋は自由に使ってください。食事は宿舎の食堂で食べられます」


 入り口から中に入る。中には管理人がおり、木蓮さんの紹介を受けて挨拶を交わす。


「今日からお世話になる月燈標です。よろしくお願いします」

「はいはい。私は丸宿(マルヤド)だよ。管理人と呼んどくれ」


 母さんより年上のおばさんだった。話しやすそうだ。


「荷物はそこに置いてあるから、持っていきな」

「はい。ありがとうございます」


 そういうと管理人さんは、奥の部屋に入っていった。


「では、月燈さん。今日はもう休んでもらって、明日の朝、研究所に来てもらいます」

「あの……その話なんですが、今から研究所に行くのは駄目ですか?」

「今からですか?私たちは向かいますので構いませんが、お疲れでは?」

「いや。それよりも早く見てみたいんです」

「わかりました。それではいきましょう。私たちも荷物を置いてくるので、ここで待ち合わせましょう」

「ありがとうございます」


 おれは、届けられていたカバンを持ち、急いで部屋に向かった。宿舎は見た目以上に広かったが、部屋はすぐに見つかった。


「ここか。さて、どんな部屋かな……おぉ。普通の部屋だな」


 うちの宿と同じくらいの部屋だ。寝たりちょっとした作業には充分だ。

 大きなカバンを放り投げ、もらった飛脚靴だけは丁寧に置く。

 小さなカバンは持ったまま、部屋に鍵をかけて入り口に戻る。


 まだ誰もいなかったが、ユウガオ、続けて木蓮さんもすぐに来たので、研究所に出発した。


「第2研究所はどこなんだ?」

「あの遠くに見えてる建物。大体十分くらい歩けば着くと思う」


 そう言うと、行きとは違い、直線の道から外れて細い道に入る。近道なんだろう。迷わないようについていく。


「大きい道は分かりやすかったけど、こっちの道は全然わからないな」

「そこは慣れね。こっちの方が近いから、意外と歩いている人は多いわ」


 ユウガオの言うとおり、十分程で研究所にたどり着いた。


 ようやくだ。改めて外観を見る。


 大きな屋敷のようで、扉のところには、金槌とノコギリの描かれた模様が書いてある。

 横には広場があり、数人が何かしているのが見える。

 いろいろと見たかったが、二人が先に入っていったので、急いで追いかける。


 閉じかけていた扉を、自ら開けて中に入った。


 中へ入った途端、何かが焦げたような匂いが鼻をついた。奥からは、ガンガンと何かを叩く音が響いている。

 入ったところはホールになっていて、正面には階段がある。

 ホールの上部は半球状のガラス製の屋根が付いており、空が見えていた。


 どうやって作ったんだろうか。


「こっちよ」


 上を見ていたおれに、ユウガオが声をかける。我に返り、小走りで追いかける。


 階段を上ると、二階には長い廊下が続いていて、等間隔に扉が並んでいた。


 階段から数えて一つ目の、『所長室』と書かれた部屋の前で止まる。


「二人とも中に入ってください」


 木蓮さんが鍵を開けて扉をあけた。二人に続いて、中に入る。


「すっげぇ……」


 部屋の中は、窓と扉以外の壁全てが本棚で埋め尽くされていた。

 こんなに多くの本を見るのは初めてだ。

 置かれている家具は、執務机と客用の机、観葉植物、それに白衣の掛かった外套掛けくらいだった。

 木蓮さんは、そこへ着ていたコートを掛ける。


「さて。改めて第2研究所にようこそ、月燈さん。研究所はどうですか?」

「楽しいです!すべてが新鮮で!」

「それは何よりです。それでは明日にするつもりでしたが、今やってしまいましょう」

「何をですか?」

「月燈さんの仕事、つまり開発目標の設定です」

「開発……目標!」


 ついに来た!開発という言葉に、自然と背筋が伸びる。


 「あなたは、開発者として何もわからない状態です。そのため、誰かの助手として、仕事を覚えるのが普通です」

 「はい。そう思います」


 宿屋でもそうだ。新人は誰かについて仕事を覚える。


「しかし、あなたの持つ粉は、すぐにでも確立させて応用したい技術です。それに、推薦権で採用されたので、月燈さんは始めから研究員という立場です。したがって、助手だけをやらせるわけにはいきません」

「は、はい」

 

 つまり、どういうことになるのだろうか。

 

「そのため、月燈さんには3つの課題を与えます」

 

 木蓮さんが指を一本立てる。


「一つ目。『一室』に所属する研究員の仕事を手伝うこと」


 二本目の指が立つ。


「二つ目。粉について、これまでの検証結果、製造方法、効果をまとめた報告書を作ること」


 そして、三本目。


「三つ目。夕顔さんとチームを組み、彼女の課題に協力することです」


 三つの課題を頭の中で整理していると、木蓮さんが視線を移す。


「夕顔さん。これを機にあなたを助手から研究員に昇進させます」


 隣でユウガオが目を見開いた。

 

 「そして、業務と課題を追加します。追加する業務は、月燈さんの指導です。そして新たな課題として、太陽結界核の魔力消費が進んでいた原因を調べてもらいます」

 

 おれとユウガオはお互いを見る。


「あなたたちであればこの課題が達成できると信じています。さあ、質問はありますか?」


 木蓮さんはにこりと笑った。

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