入所
「おい。いつまでそうしてんだよっ!」
しゃがみ込むおれは、握手していた手を思いっきり引っ張られて、無理やり立たされた。
「いってぇ!何するんですか!」
肩が外れるかと思った!なんて力だよ!
「俺が合格だって言ってやってんのに、いつまでもしゃがんでるからだろ。もっと泣いて喜べよ!」
「喜んでたんですよ!こう、しゃがんでしみじみと!」
「地味だ!派手に喜べ!」
「横暴だ!」
肩を回して異常が起きてないか確認していると、木蓮さんが近寄って来た。
「よく合格を勝ち取りましたね」
「はい!ありがとうございます」
「本来ならこんな試験なくてもよかったはずなのですが、それを正面から挑んでの合格です。誇って良いですよ」
確かに、もともとは簡単な面接だけだと言われていた。なんでこうなったんだ!
木蓮さんの話を聞いて、自分が理不尽なことをされたとわかってきた。
なんか腹が立ってきたな。
横でその話を聞いていた統括長が、気まずそうに鼻を掻く。
「あぁ。面接では、結果的に騙す形になってしまったのは悪かったな」
「そうですよ!魔道具を見せてくれるって話をしていたのに、突然話が変わって焦りましたよ!」
文句を言うような形になってしまったが、構わなかった。どんどん腹が立ってきた。
「それにあんな状況でいきなり意志を話せと言われても無理です!正直どこまで話していいのかも分からなかったですから!」
「いや、だから悪かったって。それに結果として、お前は合格だから。そ、そうだ。合格祝いだ。この飛脚靴をお前にやるよ」
「え!」
な、なんてタイミングで言うんだ。こっちは怒りのボルテージが上がってきているのに。
「そんなこと言って今日のことは覚えておきますからね!油断も隙もない。ただ合格を頂けたのは嬉しいです。ありがとうございました。さぁ木蓮さん。統括長の気が変わる前に宿舎に行きましょう」
口早に捲し立てて、立ち上がる。
木蓮さんはキョトンとしており、目を閉じたり開けたりしている。そして、いつもの表情になった。
「ふふふ。そうですね。では統括長。合格ということで進めていいですね」
統括長はおれの右手を見て、呆れ笑いをしながら答える。
「あぁ。問題ない。シルベ!明日から開発員として出てこいよ!」
「はい!この月燈標、第2研究所に恥じないよう勤めます。よろしくお願いします!」
そう言っておれは扉から出ていった。
おれの右手には、しっかりと飛脚靴が握られていた。
◇
飛脚靴を持った月燈の背中を、統括長と木蓮が見守っていた。
「いいもの拾ったじゃねぇか」
「ええ。彼は優秀な開発者になります」
「そうだな。それにしても、まさか魔道具まで正解するとはな。本来は、素材が中に入っていることを見抜いた時点で、おおよそ合格なんだけどな」
くっくっくと統括長が笑う。
「ええ。彼には本当に驚かされます」
「それに、あいつの価値はそれだけじゃないからな。例の報告読んだぜ。魔力を補充できるって粉。本当に下級素材で出来てるのか?」
「ええ。この目で見てますから」
統括長が声を低くする。
「あの発明はやばい。想定される影響が大きすぎてどうなるかわからん。おそらく慎重に進める案が多く出るだろう。だが、あれが広まるのは早ければ早い方がいい。それだけ恩恵を受けるのが早くなる」
「はい。私もそのつもりです」
「だから、なんかあれば俺に言え。動いてやる」
「あなたに動かれるのは、怖いのですが?」
「なんだと?じゃあ勝手に動いてやろうか?」
木蓮は、息を大きく吐く。
「はぁ。今日のことで、あなたが勝手に動く方が怖いと身にしみました。こちらからちゃんと連絡するようにします」
「そうしておけ。悪いようにはしねぇよ。とにかく、あいつはまだ未熟なのに周りからの期待は大きくなるだろう。ちゃんと管理しろよ」
「わかっています。それでは」
木蓮は扉から出て行った。
「確か、討伐隊が来る予定があったな……。一応、時期だけでも確認しておくか」




