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剣なき英雄譚 〜魔道具研究開発録〜  作者: 博雅
第二章 旅立ちと入所編
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入所

「おい。いつまでそうしてんだよっ!」


 しゃがみ込むおれは、握手していた手を思いっきり引っ張られて、無理やり立たされた。


「いってぇ!何するんですか!」


 肩が外れるかと思った!なんて力だよ!


「俺が合格だって言ってやってんのに、いつまでもしゃがんでるからだろ。もっと泣いて喜べよ!」

「喜んでたんですよ!こう、しゃがんでしみじみと!」

「地味だ!派手に喜べ!」

「横暴だ!」


 肩を回して異常が起きてないか確認していると、木蓮さんが近寄って来た。


「よく合格を勝ち取りましたね」

「はい!ありがとうございます」

「本来ならこんな試験なくてもよかったはずなのですが、それを正面から挑んでの合格です。誇って良いですよ」


 確かに、もともとは簡単な面接だけだと言われていた。なんでこうなったんだ!


 木蓮さんの話を聞いて、自分が理不尽なことをされたとわかってきた。


 なんか腹が立ってきたな。


 横でその話を聞いていた統括長が、気まずそうに鼻を掻く。


「あぁ。面接では、結果的に騙す形になってしまったのは悪かったな」

「そうですよ!魔道具を見せてくれるって話をしていたのに、突然話が変わって焦りましたよ!」


 文句を言うような形になってしまったが、構わなかった。どんどん腹が立ってきた。


「それにあんな状況でいきなり意志を話せと言われても無理です!正直どこまで話していいのかも分からなかったですから!」

「いや、だから悪かったって。それに結果として、お前は合格だから。そ、そうだ。合格祝いだ。この飛脚靴をお前にやるよ」

「え!」


 な、なんてタイミングで言うんだ。こっちは怒りのボルテージが上がってきているのに。


「そんなこと言って今日のことは覚えておきますからね!油断も隙もない。ただ合格を頂けたのは嬉しいです。ありがとうございました。さぁ木蓮さん。統括長の気が変わる前に宿舎に行きましょう」


 口早に捲し立てて、立ち上がる。

 木蓮さんはキョトンとしており、目を閉じたり開けたりしている。そして、いつもの表情になった。


「ふふふ。そうですね。では統括長。合格ということで進めていいですね」


 統括長はおれの右手を見て、呆れ笑いをしながら答える。


「あぁ。問題ない。シルベ!明日から開発員として出てこいよ!」

「はい!この月燈標、第2研究所に恥じないよう勤めます。よろしくお願いします!」


 そう言っておれは扉から出ていった。

 おれの右手には、しっかりと飛脚靴が握られていた。



◇

 飛脚靴を持った月燈の背中を、統括長と木蓮が見守っていた。


「いいもの拾ったじゃねぇか」

「ええ。彼は優秀な開発者になります」

「そうだな。それにしても、まさか魔道具まで正解するとはな。本来は、素材が中に入っていることを見抜いた時点で、おおよそ合格なんだけどな」


 くっくっくと統括長が笑う。


「ええ。彼には本当に驚かされます」

「それに、あいつの価値はそれだけじゃないからな。例の報告読んだぜ。魔力を補充できるって粉。本当に下級素材で出来てるのか?」

「ええ。この目で見てますから」


 統括長が声を低くする。


「あの発明はやばい。想定される影響が大きすぎてどうなるかわからん。おそらく慎重に進める案が多く出るだろう。だが、あれが広まるのは早ければ早い方がいい。それだけ恩恵を受けるのが早くなる」

「はい。私もそのつもりです」

「だから、なんかあれば俺に言え。動いてやる」

「あなたに動かれるのは、怖いのですが?」

「なんだと?じゃあ勝手に動いてやろうか?」


 木蓮は、息を大きく吐く。


「はぁ。今日のことで、あなたが勝手に動く方が怖いと身にしみました。こちらからちゃんと連絡するようにします」

「そうしておけ。悪いようにはしねぇよ。とにかく、あいつはまだ未熟なのに周りからの期待は大きくなるだろう。ちゃんと管理しろよ」

「わかっています。それでは」


 木蓮は扉から出て行った。


「確か、討伐隊が来る予定があったな……。一応、時期だけでも確認しておくか」

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