研究所入所試験
10分の試験が始まった。
統括長が投げてきたのは、ひんやりとした黒い塊。
この素材の効果を調べることが、今回の問題だ。
まずは、手の中で素材をグルグルと回して観察する。
表面はごつごつしており、どこを見ても真っ黒だった。普通素材であれば、属性の色がついているはずだ。それなのに一面黒いため、属性すらわからない。
素材なのか、これ?
机の上にいったん置いてみる。
「何してんだ?」
統括長が普通に話しかけてくる。
「試験中も普通に話しかけてきますね」
「暇だからな」
人の人生がかかってるのにコイツ……。……っと。いけない、いけない。集中しないと。
「それなら、一つ聞きたいんですけど」
「なんだ?」
「これは、効果を使ってみても大丈夫ですか?中には、火を出す素材もあると思うのですが」
統括長がにぃと口角を上げる。
「いいぜ。危険な効果じゃないからな。そのまま手を当てれば使えるはずだ」
「わかりました」
おれは、机の上の塊に手を当てて、魔道具を使う要領で力を込める。
——
——
何も起きない。これじゃあ、予測も何もないじゃないか。
「大体3分経ったな。お手上げか?」
「3分……!」
早い!思ってた以上に時間が足りない!
焦って、もう一度塊を持って力を込める。
やはり色も変わらないし、何も起こらない。
これじゃあ発動しているかどうかもわからない。
本当に分かるのかよ、これ!
音を聞いた。何も聞こえない。
匂いを嗅いだ。何も匂わない。
温度が変わらないか。変わらない。
味はしないか。土みたいな味だ。思わず、顔をしかめる。
ダメだ。発動前後で比較しても、何も変わってない。
「うへー。お前、よく舐めたりできるな」
「なんの助言もないんだから、しょうがないでしょう!」
「褒めてんだよ。必死でいいぜ。時間は半分を切ったがな」
「っ!……やばいな」
全くわからない!
全然何も起きない!
普通なら、使えば淡く光るし、何かしらの効果がでるだろ!
これ本当に……。
……。
待てよ。
「これ、どこの部位なんだ?」
「っ!」
おれの呟きに、木蓮さんと統括長がわずかに反応した気がした。だけど、かまってられない。
今の疑問は突破口な気がする。
素材とは、骨や牙などの魔物の体の一部だ。魔物の身体のうち、魔力で色が付いた部分が、特殊な効果を発揮する。魔道具はその効果を活用しているはずだ。
だけど、この塊は不定形で硬い。
そして、魔物の体から切り離した跡がない。
つまり、この塊は。
統括長を見る。
「これは、素材じゃない?」
「は!いい読みだが、お前が持っているのは確かに素材だぜ?」
「そう……ですか」
「さて、あと3分だぜ?」
ひっかけ問題じゃないのか試すために聞いてみたが、統括長の答えは変わらなかった。
絶対に素材じゃないと思ったのに。
もう無理だろ。
読みが外れて、気持ちが折れそうになる。
ふと、目を横にそらすと、木蓮さんが真剣な目でこちらを見ていた。
……そうだ。木蓮さんは言っていた。あまりにも理不尽なら止めると。
ということは、この問題は解けるはずなんだ!
発想を変えろ!
とても外観からは素材とは思えない。それなのにこれは素材だと言う。
素材であることが本当なら、間違っていたのは。
「外観の方か!」
つまり、この見た目は本当の素材じゃない!
「素材は!この中だ!」
そのまま、腕を振り上げて、黒い塊を床に叩きつける。
ガァン
黒い塊にヒビが入り、真っ二つにゆっくりと分かれていく。
思えば、手がかりはあった。
手を当てれば使えると言った。でも光は見えない。つまり、見えない場所で光ってたんだ。
効果はあると言っていた。つまり、渡された時点ですでに効果が発動していたんだ。
舐めたら土のような味がした。当たり前だ。おれが舐めた場所は土なんだから。
割れた塊から、馬車の中で見た馬の足についていたものと同じ黄色く光る板が顔を出していた。
「この素材は、『土堅板』に使われているもので、その効果は『土を硬くする』だ!」
統括長はおれの答えを聞いて立ち上がる。
「くっ」
統括長から声が漏れる。
「だぁーはっはっは!まさか叩き割るとはなぁ!やるじゃねえか、シルベ!大正解だ!」
「やりましたね!月燈さん!」
木蓮さんが話しかけてきたが、おれは統括長から目を離さずに聞いた。
おれはまだ緊張していた。
「それで……。試験の結果は?」
統括長がこっちにきて、おれの手を無理やり掴んで握手する。
「合格に決まってんだろ!見事な洞察力と思い切りだ!お前は今日から要研究所の開発者だ!」
「よ」
「よ?」
「よかったぁぁ」
緊張の糸が切れて、おれは統括長に手を握られたまま、その場にしゃがみ込んだ。




