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剣なき英雄譚 〜魔道具研究開発録〜  作者: 博雅
第二章 旅立ちと入所編
18/69

要

 部屋を出ると、部門長が「こっちだ」と言って階段の方に向かった。

 体がでかいからか、せっかちなのかわからないが、一歩がやたらと大きい。ついていくために、おれは早歩きになる。


「魔道具が見たいって、あの靴が見たいのか?」

「そういうわけではないんですが。靴の魔道具は見たことなかったので、特に見たいと思いまして」

「魔道具全般が見たいのか。なんでだ?」

「なんでですか……」


 歩きながら、答えようとしたが言葉が出なくて、口を閉じる。

 そう言われると、なぜなんだろう。

 不思議な効果があるからか、珍しいからなのか……。


「言葉にするのが難しいです。いろいろと思い浮かぶのですが、なぜかと言われるとしっくりこなくて」

「おいおい、なんだよ。せっかく見せてやるって言ってんのに、しまらねえな」

 

 顔をしかめながら部門長が歩く。

 おれ自身、答えることができなかったことに少し驚き、何も返せずついていく。

 その様子を振り返りながらちらりと見て、「さっきまでとは別人だな」と部門長がつぶやく。


 理由を考えていると、部屋の前に着く。

 白い壁に木造の豪華な扉が際立つ。


 扉を開けて入るように促されて、中に入ると今までとは違う内装に面食らった。

 まず、広い。奥にデスクが一つあるだけなので、一人部屋なのだろう。

 それに部屋の壁と床、さらに天井が木で作られていた。少し実家の宿屋を思わせるような造りをしている。


「まぁ座れよ」

 

 部屋の手前に置かれた、おそらく来客用の椅子を勧められる。

 席に座ると、机の上にドンと松風のじいさんが履いていたものに近い靴が置かれた。

 

「わっ!」

「ほい。これが見たかったんだろ。ちょっと古いが綺麗なはずだ」

「ありがとうございます!触っても?」

「別にいいぜ」

「失礼します!」

 

 ずっと気になっていたこともあり、ようやく手で触って観察できることになり、感無量だ。

 両手で丁寧に持ち上げる。


「おぉ!重い!これは……靴底が魔道具なのか」

「お!よくわかるな。見た目ではわかりにくいけどな、土の魔道具だ」

「土……土でなんであんなに足が速くなるんですか。松風のじいさん、すごい速さでした」

「詳しくはしらねぇが、中に入っている板が肝らしい。土の魔道具で板の硬さを変えてバネのように跳ね返らせるとかだったかな。走る時だけ足が速くなる魔道具だ」


 靴裏が見えるように置いて、腕を組む。

 話だけ聞いてもどういう仕組みかわからない。土の魔道具にそんな使い方があるなんて。

 新しい魔道具に気分が高揚して笑みがこぼれる。

 そんなおれの様子を、奥の机に腰掛けて部門長は見ていた。


「嬉しそうだな」

「はい!新しい魔道具が見られて満足です。これまでこんな魔道具見たことないです」

「それはそうだろうな。これは討伐隊専用の魔道具だからな」

「専用!」


 討伐隊専用の魔道具なんてあるのか!

 言われてみれば確かに、魔物と戦うんだから専用のものがあってもおかしくない。

 ……待てよ。


「もしかして、武器のような魔道具もあるんですか?」

「あぁ。あるな」

「やっぱり!それもここに!?」

「いやさすがにねぇよ。その靴は俺がお願いして討伐隊からもらったやつだからな」

 

 さすがにこんなところに武器が置いてあるわけないか。

 ふぅーと息を吐いて、気を落ち着けさせる。

 そこでふと疑問がわき、首をかしげる。


「それなら、なぜ松風のじいさんは持ってるんですか?」

「あの爺さんは元討伐隊だからな」

「へぇーそうなんですか。だからあんなに好戦的だったんですね」

「好戦的?」

「問答無用で捕縛されそうになったので」

「はっ!それでじいさんはこけたのか!なんで靴を使ったのかと思ってたが、お前を捕まえようとしていたのか」


 部門長が楽しそうに手を叩く。

 おれは、最初にジジイと会った時のことを思い出しながら、身振り手振りで話す。


「いやいや、笑えなかったですよ!ハサミを持ったまま、捕まえる!新人が入るなど聞いておらん!って走ってきたんですから」

「うはっ!すげえ状況だなそりゃ!まぁ、あの爺さんは研究所の全員の顔を知っているし、新人が入るときは事前に通達されるからな」


 本当に全員の顔を覚えているのか。すごいなジジイ。


「お前みたいに推薦権で入るやつは少ないからな。この研究所は誰かに腕を認められた奴か、外で名を上げた奴がほとんどだ」

「自分もそう聞いていま……」

「だから、お前みたいな素性の知れないやつは珍しいんだよ」


 空気が変わった。そんな気がする。

 部門長は前傾姿勢になっただけだ。

 それなのに、この部屋に居たくない。


「ここはいくつかの研究所が集まっている」

「はい。そう聞きました」

「その各研究所には、それぞれの理念が掲げられている。お前が入ろうとしている第2研究所の理念は知っているか?」

「いえ」

「『第2研究所の魔道具開発は人類存亡の要である』だ」

「人類存亡……」

「そう。人類存亡だ。人は今、魔物との勢力争いの真っ最中だ。命がけでな。そのために魔物や素材の研究は欠かせない」


 今までは、魔物のことを素材としてしか見ておらず、明確に争っているとは思っていなかった。

 ただ言われてみると、その通りだと思う。だからこそ討伐隊専用の魔道具があるのだろう。


 「だからこそ、研究所は、自分たちの活動が人類存亡の要だと自負している。その誇りを失わないために、すべての研究所を総称して要機関というんだ」


 要機関と言う名前は初めて聞いた。また、理念もだ。


「木蓮が推薦してんだ。出自や能力は確認済みだろうな。ただ、お前からは意志が見えねえ」

「意志ですか?」

「そうだ、なんのために研究所に来たのかって意志がな」

「……意志はあります。おれは自分の開発していたものをもっと知りたい。そのために……」


 ガァンッ


 突然の音にビクッとなる。 

 部門長が腰掛けていた机を蹴ったのだ。


「研究所は、お前の知識欲を満たす場所じゃねぇぞ!」


 部門長が立ち上がる。

 

「ここは、そんな意志しか持ってねぇやつが来る場所じゃねぇんだよ!」


 部門長の言葉が部屋中にこだました。

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