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結界の外

「そろそろ結界の外に出ますね」


 外を見ていた木蓮さんが呟く。


 おれは窓の外を見る。風に揺れる木しか見えないが、結界が終わるらしい。


「結界を越える時には何かするんですか?」

「何もしないわ。そのまま通り過ぎて終わり」


 メンタルを立て直したガオちゃんが教えてくれた。

 言葉遣いが少しラフになっている。


「そうなのか。てっきり壁みたいになっていて、特別な方法で通り抜けるのかと思った」

「結界といっても壁じゃないから。結界核からは、魔力自体が出ていると考えられているの。その強大な魔力に魔物が恐れて近づいてこない」


 なるほど。動物の縄張りみたいなものと考える。マーキングした縄張りには弱い獣は近寄らない。そんなところか。


 ガオちゃんがカバンから何やら取り出す。


「見てて」と言われたそれは知らないものだった。薄い板に扇状の印が付いており、その上を赤い針がピクピク動いている。


「なんだこれ?」

「いいから見てて。そろそろだから」


 なんだよと思って見ていると、揺れていた針が扇の端でぴたりと止まった。


「今、結界の外に出たわ」

「え?」


 おれは窓の外を見る。景色は変わっていない。

 馬車内に視点を戻す。


「なんでわかったんだ?」

「これ、魔力を測定する道具なの。さっき揺れてた針が止まったでしょ。魔力がないと針が止まる。つまり、結界の外に出たって事よ」


言われたことを反芻する。

 

「……つまり、結界の中では結界核の魔力があったが、結界の外に出たからその魔力がなくなり、針が止まった」

「正解。結界は目に見えにくいから、こうやってどこまでが結界なのかを調べるのよ」


 面白い。結界も測定の道具も仕組みが全くわからない。別世界に踏み込んだみたいだ。

 

「なるほどな。それがないとどこまでが安全なのかわからないってことか」

「そう。どの魔道具についても同じことがいえるわ。効果を把握しないと、思わぬ危険がある」

「ガオちゃんの本領発揮だ」

「……ユウガオにして」

「……わかったよ。ユウガオの本領発揮だ」

 本当に嫌そうだったので、さすがにやめといた。これから一緒に働くわけだしな。

 正面の木蓮さんに向き直す。


「この後はどういう予定なんですか?」

「そろそろ湿地帯に入ります。湿地帯を越えた所に町があります。そこで一泊して、その日の昼過ぎには研究所に着くでしょう」

「湿地帯……見たことないです。どんな場所なんですか?」

「水が豊富で、一面が沼のようになっている場所です」

「一面が水で?農作物が育ちそうですね」

「いえ、難しいでしょう。湿地は水の量が変わりやすいですし、動物も集まりやすいので管理が大変です。湿地自体に住むのはおすすめしません」


 想像できないな。どんな場所なんだ。

 そんな風景一つとっても、楽しみだ。


 それから、風鈴羽の交換で小休憩したりしながら馬車は進んだ。しばらくすると、いつのまにか大きな木が景色からなくなり、少し蒸し暑くなった。土の湿った匂いがする。

 これはもしかして。


「おぉー!水が張ってる!」


 窓の外をみると、一面に水が張っており、ところどころに背の高い草が生えている。あと鳥や動物がたくさんだ。水のない場所は泥のようになっており、様々な動物の足跡が残っている。


「確かにこれは住めないなって……ん?」


 そこでふと疑問に思う。なんで、この馬車普通に走ってるんだ……?こんな水が張った泥、普通なら沈む。


 疑問に思い、後ろを向くと、ニヤニヤしながらユウガオがこちらを見ている。


「なんで馬車は動いてるんだろうね?」

「……」


 このガオちゃんめ。こっちの疑問を先回りしていやがった。呼び方戻してやろうか。

 聞くつもりで後ろを見たが、聞きたくなくなったので、ユウガオの顔をじっと見る。


「ちょ、ちょっと睨まないでよ。冗談じゃない。教えるから!ほら。窓から馬の足と車輪を見て」


 焦るユウガオを見て満足に思い、窓から言われた通りまずは馬の足を見る。

 馬の蹄鉄に出発の時にはなかった小さな板のようなものが付けられている。その板で泥を踏むと、踏まれた土が黄色に光る。


 あれは、土属性の光だ。つまり、あの板は魔道具なのか。


「あれは、土堅板(ドケンバン)。家や畑を耕すのにも使われるから知っているでしょう。それを発動させる事で、触れた土が固まって、泥道でも歩けるようにしているのよ。車輪にも同じものがついてるわ」

「あれが土堅板……おれは布に貼ってあって、ぬかるんだ地面を一気に固めるやつしか見た事ないな」

「その方が珍しい使い方よ。主には歩く時のサポートや建築で使われているわ。ちなみに、この車輪を開発したのは木蓮所長よ」

「えっ、この車輪を?」

「そう。結構前だったはずよ」


 木蓮さんをみると、ニコニコしたまま、こっちを見ている。


「ふふふ。それまではこの湿地帯を迂回していたから、移動が大変でした」

「……凄ぇ」


 心の声が漏れた。

 魔道具を本当に作っている人たちなんだと、実物を見て実感する。

 ただ泥道を進めるようにするだけで、移動にかかる時間も危険も大きく減る。

 魔道具はやっぱり、人の生活を変えるものなのだ。

 そんな魔道具開発に仲間入りすることを改めて凄いことだと思った。

 

 木蓮さんが作った車輪が、泥の上に道を作りながら進んでいく。

 その先にある研究所が、ますます楽しみになった。

 明日には研究所だ。

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