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最高品質との出会い

「よ、よかったぁぁ」


 眼鏡っ子が球体から両手を外して、腰を抜かす。伸ばした手が戻らないらしく、小刻みに震えている。


 ふと、自分の手も震えている事に気付いた。

 達成感か、緊張なのか。

 力が抜けて、おれも地面に座り込んだ。


 おばあさんが眼鏡っ子に近づいて、お疲れ様ですと手を貸している。眼鏡っ子が恐縮しながら立ち上がると、おばあさんがこちらを見る。


「貴方もありがとうございました。おかげで大惨事になるのを未然に防ぐ事ができました」

「あ、いえ、2人に比べたら別に……」

「ふふふ。とんでもないです。貴方の知識とその粉が無ければどうしようもありませんでした」


 おばあさんに話しかけられて、顔を見て答えられなかった。

 この二人が見せた活躍に萎縮する。おばあさんも魔素研の関係者なのだろう。

 さっきの言葉は、謙遜ではなく、心からの言葉だった。


「さて、山場は越えましたがまだ安心はできません。もう少し、補充したいのですが、まだ粉はありますか?」


 ふと見ると、おばあさんと眼鏡っ子の持っている瓶には粉が少ししか残っていなかった。


 眼鏡っ子は自分の持っていた瓶に少ししか残っていない事に気づいていなかったらしく、あわあわし始める。

 

「あ……ごめんなさい!こんな貴重な粉なのに、ほとんど使っちゃいました。しかも……あぁ結構こぼしてる!ごめんなさい!」

「いや、いいよ。そんな貴重なものじゃないし」

「そんなわけないです!あんな補充速度、見た事がない!残りもこれだけになっちゃったし……」

「だから大丈夫だって。それに粉なら……ある」


 おれは、その辺に置いておいた袋から粗悪素材を地面にざぁっと広げる。


「あっそれは。お店の」

「そう。ゴミだ」


 その中から、蛍火猪のキバをつかんで、平らな石の上におく。そして、持っていた金槌を思いっきり振り下ろす。


「あっ!」


 素材が真っ二つに割れ、眼鏡っ子が声を出すが、構わず二度、三度と金槌を振り下ろす。

 十回ほど繰り返すと、石の上には粉となった素材が残る。

 粉を手にとり、自分が持っていた瓶に入れ、別の瓶に入っていた粉と混ぜながら答える。


「これが粉の正体だ」

「まさか、粗悪素材の粉が?本当に?」

「そうだ、よ!」


 疑う眼鏡っ子を尻目に、球体に近づいて手でふれる。

 すると、手のひらに残っていた粉と反応し、球体が赤く光る。


「本当に、粗悪素材から出来てるんだ……」

「まぁな。だから粉については、気にしなくていい」


 先ほど素材を砕いた場所まで戻り、今度は風鈴鳩の羽を手に取って砕き始める。


「あっ、でもそれは風属性だから、補充には使えないかも」

「……あぁ、大丈夫。この粉に属性は関係ない」

「そう……なの……?」


 羽の先端を砕いた粉と手に持っていた粉を手の中でこねるように混ぜてから球体に押し付ける。すると、球体が赤く光る。

 眼鏡っ子は目を見開いており、今度はおばあさんが話しかけてきた。


「今日は驚き疲れますね。その粉は貴方が開発したの?」

「開発ってほどでもないけど、この使い方を見つけたのはおれだ」

「他にも知っている方は?」

「いない……と思う。粗悪素材を集めている人を他に聞いた事ないし。」

「貴方だけですか……」


 最後にぼそっと呟いて、おばあさんは黙り込む。何か考えてるみたいだ。

 とりあえず、粉は必要そうだから、素材をひたすら砕いた。誰も喋らないため、ガン!ガン!素材を砕く音だけが、夜に響く。


 砕いてるうちに、気持ちが落ち着いてきて、周りの景色が目に入る。なんだかんだ緊張してたみたいだ。

 冷静になってくるといくつも気になることが出てくる。

 眼鏡っ子に話しかける。


「なぁ、おれからもいいか?」

「はい、なんでしょう?」

「あんたらは魔素研の人なんだよな?」

「ええ。貴方は何故それを知っていたの?」

「予約名簿で見たからな」


 すると考え事をしていたおばあさんが割り込んでくる。

 

「予約名簿……貴方はもしかして月光亭の?」

「そう。月光亭の女将の息子だ」

「ふふふ。なるほど。貴方が。そういう事でしたか。納得しました」


 おばあさんが楽しそうに笑う。なにがおかしいんだろうか?

 

「話がそれたな。それでずっと気になっている事があるんだが……結局あの球体はなんなんだ?」

「え?あぁそうですよね。えっと……」

「あれは、結界を張る魔道具ですよ。この町を囲っている結界の核です」

「いいんですか⁈」

「いいのです。もはや彼は関係者です。流石に知る権利があるでしょう」


 眼鏡っ子とおばあさんが何か言いあっているが、何も入ってこない。

 結界?核?

 聞いたこともない魔道具だ。


 それよりも、町を囲ってる?


 どんな素材を使えばそんな威力に。


 まさか……。


「あの……あのー!因みにこの魔道具の名前は?」

「え?太陽結界核ですね」


 た、た、た、た、太陽⁈

 

 最高品質の火属性!

 思わず笑みがこぼれる。


「初めて見た……」

「ちょっと!触らないで!」

「さっきまでめちゃめちゃ触ってただろうが!」

「そうだけど……なんか今の貴方はダメよ!」

「どういう意味だよ!」

「鏡見なさいよ!」


 なんて失礼な眼鏡っ子だ!

 それに最高品質を触らせてくれない!


 最高品質を感じようとするが、眼鏡っ子が手を広げて阻止してくる。しばらく眼鏡っ子と格闘していると、街灯の先から討伐隊員がやってくる。


「おーい!第2の!どういう状況だ?」

「あ、討伐隊の……。結界はどうですか?」

「途中消えそうになってダメかと思ったが、今は大丈夫だ。魔物も強くなった結界を見て逃げていった。我が隊が周りを警戒しているところだ。何が起きてたんだ?」


 隊員がおれと祠を見たあと、眼鏡っ子をみる。


「あの。それはですね……」

「祠が予想よりも早く魔力を失っていました。そこで作業を急いだ上、今にも結界が消えそうだったので、蛍火街灯の紐で魔力を補充してなんとか凌ぎました」

「この紐か」

「えぇ。そこの青年は偶然通りかかってその紐を取ってくれた宿屋のご子息です」

「あぁ、ここから現場に向かう時、すれ違ったな。それにみた事ある顔だ。怪しいものではないだろう」


 どうやら、おばあさんはおれのことを話さないつもりのようだ。黙っておこう。


「既に作業は終わっているので、片付けたら宿屋に戻りますよ」

「承知した。帰ったら隊長にも報告してくれ。では私は先に帰る」


 討伐隊が走り去っていく。

 その足音がしなくなったことを確認するように全員が耳を澄まして、しばらく経った。


「では、今ある粉で補充したら、私たちも戻りましょうか」

「わかった。じゃあこれで最後だな」


 ほぼ全ての素材を砕き終わっている為、自然に最高品質に近づく。

 すると、眼鏡っ子がまたもや手を広げ、立ち塞がる。


「……」

「……」

「どけぇぇ!!」

「ダメです!!」


 静かな夜に2人の声はこだました。

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