3話 アルフレドという少年
「若様、夕食をお持ちしました。本日は皆様がお疲れのご様子なので、集まりは明日の朝食時になるとの事です」
「あ、はい。かしこまりました。ありがとうございます」
アルフレドが去った後、使用人が夕食を持って来た。防音魔法はいつのまにか期限が切れていたようだ。リーマンは涙を拭いて礼を言った。
「若様……?」
(そっか。僕はもう、アルフレドくんなんだ)
社内で困っていた人を安心させる時のように、柔らかく笑うと、使用人は一礼して去っていった。
蓋を取ると、スープからは湯気がたちのぼる。
「まずはお腹いっぱいになってから考えよう。食べないと、僕までネガティブになっちゃうもんね。いただきまーす!」
(代わりに生きてほしいってことは、僕にはアルフレドくんを幸せにする義務があるんだから)
一口食べる毎に、アルフレドの世界の味がリーマンに染み渡っていった。
「うまっ!高級ホテルのご飯って、こんな感じなのかな?お肉も柔らかーい!」
あっという間に完食した彼は、戸惑った。
「これって厨房まで返しに行った方が良いのかな?」
(従業員のご飯の準備もあるだろうし、その方が良いよね?)
食器を重ねて運んでいる途中、廊下を歩いていた使用人が目を見開いて駆け寄ってきた。
「若様!私がやりますから、お部屋に戻っていてくださいっ」
慌てて受け取った彼は、食器に視線を落として呟いた。
「今日は全部召し上がられたのですね。良かった…」
(そういえば。アルフレドくん、初陣からご飯があまり食べられなくなってたんだっけ)
「これからはちゃんと食べるよ。心配かけちゃって、ごめんね。作ってくれた人に、美味しかった。ありがとうって伝えておいてくれる?」
「はい。厨房の者は皆、喜ぶと思います」
「エディくん。いつもありがとう」
「若様……」
(使用人の人達は良い人そうだなあ。怖い人はアルフレドくんのパパだけなのかな?一見優しげなイケオジに見えるけど、イカれてるよねえ…)
部屋に戻ると、リーマンは机や本棚を物色した。
「アルフレドくん、領民の事が大好きだったんだな」
残された資料を見ると、初陣の時には味方を無駄死にさせないために、エリアヒール部隊を編成して5分おきに戦場全体にかけさせる仕組みを作っていたことが書いてあった。エリアヒール漏れの無いように、全兵士に魔力登録を義務付けていたようだ。
(あ、領地の良いところマップも作ってる…)
ここの屋台は美味いとか、ここの鍛冶屋のおっちゃんは気難しいけど丁寧に仕事をしてくれるとか、ここに行ったらこの商品を手に入れるべき、とか。ところどころに走り書きがあった。
『ここのパン屋は絶品だった。おっちゃんも温かい人だった。俺のせいで、こぼれ落ちた』
「ここ、もしかして戦死したパン屋のおっちゃんのお店?」
(待って、この子……。初陣後に戦死した味方兵士の家族向けに私財から弔慰金出して、自分で謝りに行ってたの!?)
初陣の報告書の控えや帝国新聞記事を見ると、彼が短期決戦で勝利した事が書いてあった。
「また戦争が起こったら。僕、アルフレドくんみたいに取りこぼさない戦い方が出来るのかな……」
(あ、本に何か挟まってる)
開くとクラリスの絵が挟まっていた。裏には走り書きがあった。
『優しくて、とても可愛い人。血に塗れた俺はもう、触れてはいけない人』




