2話 勝手に決めるなよ!?
「ていうか、どういう事!?僕、お布団の中で気持ち良く寝てたはずなんですけど!?明日仕事なのに!」
アルフレドの魂は、するりと体から出て、半透明な姿でリーマンに向き合い、儚げに微笑んだ。
「ありがとう……来てくれて。俺の魂を代償に、貴方の世界の時間を止めるから、代わりに生きて下さい」
「ええ!?ちょっと待って!突然そんな事言われましても!?」
「大丈夫。俺の身体が死んだ後は、自然と元の貴方の体に戻るから。貴方は困る事は無いよ」
「なんとかならないの!?他の方法は!?」
アルフレドは涙を目に溜めて、微笑んだ。それは偶然にも、死に際のザヒル王子と同じ表情だった。
「交換するのじゃダメなの!?僕の人生、特に面白くもないけど……住んでる国には戦争も無いんだ。
だから、君が少しでも穏やかに生きられるなら、それで――」
アルフレドは驚いたように目を瞬かせ、それから小さく笑った。光の粒が彼の輪郭を少しずつ薄くしていく。
「その優しさだけで、充分だよ。ありがとう。
でも……それを受け取る資格は、もう俺には無いんだ」
「そんな――!」
リーマンが手を伸ばすが、その指先は空を掴んだまま。
彼の姿は光の波に溶け、やがて静かに消え去った。
残ったのは、胸の奥を締めつけるような痛みと、溢れる涙だけだった。誰の記憶かも分からない感情が、彼の中で静かに混ざり合っていた。
その頃、書斎の窓や扉の隙間から、赤い閃光が漏れ出していた。
書斎に満ちた赤い閃光が消える頃――
セリンの姿は変わっていた。
魔の術式が彼女の肉体をねじ曲げた。亡くなったザヒルと、消えたアルフレドの歳と同じ、15歳の姿に逆行させていた。
ガクガクと這いつくばって震えるセリンを見下ろしながら、バルドリックは満足げに微笑んだ。
「これで、継承は完璧だな。」
バルドリックは微笑みながら、セリンに淡い青のドレスを差し出した。
「これを着ろ。あの子に似合っていたから、お前にも似合うだろう」
セリンは震える手で布地を受け取った。繊細な刺繍が施されているそれは、亡くなったアルフレドの姉が愛用していたものだった。
(……どういう、意味なの)
バルドリックの笑みは答えを与えない。ただ、昔を懐かしむように目を細めるだけだった。




