ドラゴン来襲 ②-3-3
選択したのは現在行使できる魔術の中で最も破壊に特化した攻撃魔術だ。
我が剥離分体らを包み込む臙脂色の球体と、竜の足元に展開される紫色の魔法陣と、その直上に浮かぶ楕円の紫色に滲む空間との三点を結ぶように、蒼白い光の茨が乱舞する。
――〈雷光雷轟雷霆〉――
――〈雷光雷轟雷霆〉――
――〈雷光雷轟雷霆〉――
――〈雷光雷轟雷霆〉――
筐体間で輪唱される魔術。その度にほとばしる雷光。
茨は重く荒々しい轟音を伴って竜の体を打ち、穿つ。
目の前が白と紫の光で一杯になり、地獄の亡者の怨嗟のような怒号が辺りに響き渡る。
――〈雷光雷轟雷霆〉――――〈雷光雷轟雷霆〉――――〈雷光雷轟雷霆〉――
――〈雷光雷轟雷霆〉――――〈雷光雷轟雷霆〉――――〈雷光雷轟雷霆〉――
――〈雷光雷轟雷霆〉――――〈雷光雷轟雷霆〉――――〈雷光雷轟雷霆〉――
――〈雷光雷轟雷霆〉――――〈雷光雷轟雷霆〉――――〈雷光雷轟雷霆〉――
――〈雷光雷轟雷霆〉――――〈雷光雷轟雷霆〉――――〈雷光雷轟雷霆〉――
〈全能なる泉〉の制限時間が尽きるまで何度も放たれる雷撃。
すべての物質を消滅させんと荒れ狂う破壊の力が強力な竜という個体をしたたかに弾き、鱗を飛ばし、皮膚を焼き、肉を削る。
血は蒸発し骨は焦げ、竜は防御と再生能力にすべての力を回すが追いつかない。
『グアァアアアアッ!』
竜は吠える。
たまらず身をよじる。
死力を尽くしてあたりかまわずブレスを吐く。
ブレスは何体かの分体を焼き払うが、しかし術は破られない。
雷の包囲網を崩すことのできない竜は煌めく白い光線を吐き出しながらもその身を焦がされ続けた。
『アッガアアァグ!(このままでは! このままでは!)』
「お前は私を侮りすぎた。話し合いの余地がないとするなら、ここがお前の墓場となる」
『クソう! この、ニンゲン風情が! 我に戦いを挑むなど思い上がりおってぇ!』
「……戦い?」
その怒声に私は首をかしげる。
「竜よ、それは違う。お前はさっき何と言ったか……確か、そう、これは――」
私は両手を前に構える。竜を真似た、両手で蚊を潰さんとする姿勢だ。
堪え性のない私は、そこで思わず頰を緩めてしまう。
「――ただの駆除である」
ちょっと悪い笑顔になってしまったか。
私はそれを誤魔化すように両手を打ち付けた。
パーン! という音に合わせて、ドローンらまでも竜に向かって一斉攻撃を繰り出した。
『アガアッ――!』
数多の衝撃に貫かれた竜の目が大きく開かれる。
驚きと恐怖に歪んだ顔が一瞬見えた後――その場は光に満たされた。
◆◆◆◆◆◆◆ 幕間 古代種・紅玉眼の紅竜 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
――我は神の代理人。
地上に裁きをもたらす執行者なり。――
天より産み出されし楽園の住人は地上に降りて汚染された。
有象無象の下等生物に紛れし堕天使を駆逐せんがため我ら精霊種は産み出された。
固有領域を持つ絶対不可侵の存在。精霊種の頂点に君臨する古代竜種。その自分が人如きに滅ぼされんとしている。
紅竜ルビーアイズは薄れゆく意識の中で感じたことのない恐怖に苛まれていた。
あれはいったい何者か。
アレの姿形は人にしか見えない。けれどその権能は、人の繰る演算力の域ではない。
この身を削る素子の奔流。削り取られていく聖粒輝結晶。
こんなことができるのは神くらいなものだ。
楽園より失われた唯一にして最高位の存在、神、グレンヴィル。
精霊種を産み出したこの世全ての善。――しかし、今、神はいない。
遥か昔、三賢神によって解体され世界が再誕を迎えて以降、その姿を現したことはない。
だとすれば、この力は――。
紅竜ルビーアイズはその魂で感じた感情を根拠に推測する。
そんなものはひとつしかない。
神に最も近い存在、熾天を司る大天使。楽園の支配階級が地上に降臨したのだと。
古代種の権能、紅竜ルビーアイズの〈見通す眼〉が開く。
その事実を確かめるべく。如何なる術でそれが成されたのかを確かめるべく。
〈見通す眼〉が大天使に繋がる因果の根源、細い細い糸を見抜く。
その糸を辿り、彼をこの地へ招聘した力の繋がりを辿る。
――ニンゲン?
その果てあったのはニンゲン。
まさかの終着点を見て、紅竜ルビーアイズは激怒した。
考えるよりも先に大きく口を開き、ソレを渾身の一撃をふるう狙いとした。
許されない。決して許すことは出来ない。
全ての精霊がこうべを垂れ頂く存在に、穢れ無きいと高き存在に、首輪をつけたその愚行。
その罪を魂の償却によって償わせるべく竜は裁きを実行する。
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