ドラゴン来襲 ②-3-2
「ゲフィオンクラフト出力最大!」
きわどいタイミングだった。浮遊魔術とゲフィオンクラフトとを組み合わせることで私の体は空を素早く滑らかに飛翔し、炎の範囲外へ移動することに成功する。
――交渉決裂だな。やむを得ぬ。
竜の闘争心にはいまだ火が付いたままだ。その興奮を対話で鎮められるとは思えない。この場を収めるには伸びた鼻をへし折ってやるしかないだろう。
‘ドローン全機、標的に対し牽制攻撃を開始せよ’
上空に展開し私の攻撃命令を待っていたドローン群が、迷彩を維持したまま一斉に竜を狙撃し始める。
『ぬ?!』
意図せぬ方向からの攻撃に巨体がひるんだ。ブレスのひと吹きでカタが付くだろうと考えていたのか、竜はその不意打ちに大層驚き、たまらずよろよろと数歩下がる。
そこへドローンの電磁加速砲から小型徹甲弾の第二波が放たれた。
『グァ?!』
弾は竜の展開する魔術的防御を貫通し、その体を覆う厚い鱗を易々と食い破った。
痛みによる反応が大きいのは食物連鎖の最上位に君臨していたためか。不可視のドローン群によってもたらされたダメージはこちらの想像以上に竜の身を委縮させ、その行動を停滞させた。
――効いているな。ならばこのまま徹甲弾釣る瓶打ちと魔法で仕上げるか。
何が起きたのかわからないという疑問と驚きで戸惑う竜に対し、私は追撃の一手をうつ。
《 ―― ジュダスの騎士の能力〈近未来予知〉が発動! ―― 》
《 ―― スローネシステム〈拡張技能〉――――〈全能なる泉〉が発動! ―― 》
立て続けに実行されていたサブパレットのスキルがカウントダウンを消化し次々とその効果を発現させていく。対話能力を持つ知的生命体の命を刈り取ろうという行動だが私に良心の呵責はない。相手は一方的に対話を打ち切るだけでなくあろうことか暴力に訴え出てきた野蛮生物だ。刑の執行は帝国貴族として当然のノブレスオブリージュである。
《 ―― K・サブホスト人工知能体〈鎧衣駆動〉――――〈剥離分体〉が発動! ―― 》
「コマンド選択〈八咫鏡の腕輪〉実行」
私はナノマシンを剥離消費することで生成する実体を伴う残像〈剥離分体〉をまき散らし、同じくばら撒くいた八咫鏡の腕輪の端末を残像に埋め込む。そして工作艦AIに八咫鏡の腕輪の光端末網で残像分体を制御させ即席の独立駆動分体群を作り上げた。
《 ―― スローネシステム〈聖痕技能〉――――〈万神殿〉が発動! ―― 》
“設定完了しました。陰ゲフィオン粒子に特殊干渉するため音声波動による暗号アクセスが必要です。キーワードは――”
「コマンド音声入力。『〈Judicanti responsura Coget omnes ante thronum. Juste judex ultionis Dona eis requiem.(我は眷属を座前に集める。我に仇なす蒙昧なるものどもに裁きをもって永久の安息を与えん)〉』実行」
お分かりだろうか。
残像を撒き散らすだけではただの手品か目くらましにしかならないが、帝国科学の粋を結集したデバイスを重ね使えば即席で戦術兵器――魔法使い部隊の出現である。
工作艦のAIは元々スキルツリーシステムの半分、サブパレットを制御している。ゆえに私のセットしたサブパレットの魔術を独自に行使することが可能だ。それはつまり、分体は魔術を発現させるためのエネルギー供給さえ受けられれば、サブパレットの魔術を行使できるということ。
そして私が発動させた奇跡〈全能なる泉〉は――三十秒間ゲフィオン粒子を無制限に引き出せる権能である。
工作艦AIと私がリンク確立で一心同体となったこの状況――即ち今、分体群は魔術行使に必要な条件を全て満たした。
――スキル選択、実行。
一対一の戦闘であったなら到底稼げない準備時間も、ドローン相手に翻弄され混乱している相手ならばその捻出も容易い。
急に私が増えてそこら中に展開したことに今更ながら驚く竜。未知の恐怖にさらされたのか、その思考を止め硬直している。
竜が混乱から抜け出す機会を掴めなかった要因は慢心である。
その僅かな油断が、生物としての能力差を覆す、普通なら決して起こりえるはずのない番狂わせを呼び寄せた。
《 ―― ジュダスの騎士の理力〈フォーム:竪琴領域=覇力〉が発動! ――
――領域内に於いて〈制想剛心〉の効果を得ます。
――領域内に於いて〈明鏡止水〉の効果を得ます。
――領域内に於いて〈位相視界〉の効果を得ます。
――領域内に於いて〈狂騒誘引〉の効果を与えます。》
――〈雷光雷轟雷霆〉――




