海賊の虫船 ①-2-1
船は合宿所から学園へ。
学園に着いたのは夜。就寝時刻だろうというのに待ち構えていた多数の学園職員によって、着陸と同時に船へと様々な物資の搬入が行われた。
このまま準備を整え意気揚々と出陣か、と私は考えていたのだが、出発後の船内ロビーではけだるい時間を過ごさせられる羽目となった。
事の発端は金髪巻き髪女が仲間への事前連絡を怠ったせいだ。
仲間を迎えに行くのにマルレーネに付き合うことを乞われた主人は、当然のように私を伴わせた。
船内内部を見て回りたい私は最初丁重にお断りしたのだが、いつの間にか調子を取り戻していた暴君アンジェリカによって私は連行され、上級貴族の宿舎に至った。
宿舎三階ワンフロアを貸し切る構造のエンデルクの部屋の扉には三重に鍵がかけられていたが、物理鍵など覇力を扱うジュダスの騎士にとっては無いにも等しい。
あ。今気がついてしまったが、ご主人様に私の力の一端を見せつけてやろうというイタズラ心を持ってしまった私にももしかしたら非があるのか。この世界の住人には簡単に解錠できない仕様であるような雰囲気を二人が出していたし。それを簡単に解錠してちょっといい気になった自分がいなかったかと問われれば正直あやふやにしたい自分がいるのは確かだ。だが私は顧みない。
でだ。
中に入るとすぐに、マルレーネが弾かれたかのように体をビクンと一度震わせ、かと思えば全力でダッシュ。
何が起こったかわからない私は、すわ緊急事態かとアンジェリカとともに走って後を追いかけたのだが。
「なんで! なんでそんなことになってるのよ!」
「いや、その、も、申し訳ない!」
「申し訳ないじゃないわよ! 私のいないところではしないでって何度言えばわかるの!」
どうやら金髪巻き髪女、男女の機微を営むエンデルクとクロエの生配信を目撃してしまったらしい。
平謝りするエンデルク。
目を伏せているクロエ。
激高するマルレーネ。
アンジェリカに至ってはショックが強すぎたのか目が死んでいた。
恐らくだが、今日の予定はもう何もないと思っていたエンデルクであろう。マルレーネの突撃は青天の霹靂であったに違いない。
私は同情する。若い二人が裸の付き合いで一日の疲れを癒そうとするのは自然なことであり無理からぬことだ。
ただ彼の不幸は、目撃者たる金髪巻き髪女が彼の一号さんであったという一点に尽きる。おかげで犬も食わない痴話げんか崩れの大問答大会勃発である。
「その、最初はそんなつもりではなかったのだけど、なんというか流れというか」
「雰囲気があった。仕方がなかった」
「仕方ないことなんかないわよ! そもそもなんでクロエはエンデルクの部屋にいるのよ!」
「待ってくれ、彼女は悪くない、ちょっと明日の打ち合わせで立ち話もなんだからと僕が誘ってだね」
「やっぱりあなたが連れ込んだんじゃない!」
エンデルクの言い訳が全く効果を上げていない。お気の毒様の一言に尽きる。
もしこの場にアオイ中将がいたら“メシウマっすね☆彡”などと言って私を複雑な気持ちにさせていたことだろう。
――なんというか、若いというのはいいものだな。青春劇もたまには悪くない。しかし、まさかゴール直後を押さえられるとは。不運だったな、我が後見人よ。
自分の後ろ盾になってくれている男が現在進行形で大ピンチという構図だが、私はこの戦況をあえて見守るにとどめたい。人間を人間たらしめるドラマに水を差すなどとんでもないことだ。
自分の部屋に連れ込んで一発キメようという強い行動力は得難い才能である。衝動に身をゆだねる素直さは歳を重ねるとなかなか出来なくなるものなので、そういう意味では少し羨ましさも感じなくはない。そこには儚くも美しい雅なるものに通ずる趣がある。
見ろ、髭中年なぞ下手な擁護をして飛び火されるのは割に合わないとばかりに見て見ぬふりをし早々とブリッジへ直行したではないか。まったく愉快な男だな。
「ねぇ、そんなにシたいの? そんなにシないと収まらないの?」
「いや、それはだね」
「もう病気なんじゃない? どれだけ暴れ足りないのよあなたの下半身は!」
「いや、そういうワケではなくてだね」
――いやいやそういうワケ以外の何物でもないだろうエンデルクよ。そしてマルレーネとやら。若い男の下半身とはそういうものだ。見逃してやるがいい。
終わりの見えない巻き髪女の説教を眺めながら、私は知らず知らずのうちにニヤニヤしていたと後でチェックした筐体管理ログに記録されていたので即削除した。




