海賊の虫船 ①-1-3
――もしかして、海賊船も召喚魔法でこの惑星に引かれた、ということなのか?
目の前にある航行虫モドキ。普段なら一笑に付すような妄想も、今ならば夢物語ではないと思える。
少し前のKとのやり取りを思い出しながら、私は航行虫モドキをじっくりと観察した。
「……いや、似てはいるが……似ているだけ、か?」
違う。
よく見れば海賊どもの乗っていた虫船とは程遠い。
土台になっている可能性は感じるが、プロトタイプと呼ぶにもおこがましい出来に思える。
それでもこの地の文明レベルを考えれば、オーパーツであることに違いはない。この蛮族巣くう辺境惑星でこれが偶然発明されたというのはとても信じがたい。
――しかしだとすると、未知の力と海賊どもは繋がっている可能性が出てくるわけだが。
あり得ない、とは言い切れない。
恐るべきはそう思わせるこの惑星に存在する魔法の懐の深さよ。一体どこまで摂理を歪められる異能なのか。
「あなた、もう大丈夫なの?」
「――ッ!」
この惑星には間違いなく何かある。宇宙の存在すら揺るがすほどの何かが――などなど様々に思考を巡らせ頭を沸騰させていた私は、不意に背中から声をかけられ必要以上の勢いで振り向いてしまった。
「え? なに?」
「う、……あぁ」
そこにいたのはバックパックを背負うアンジェリカ。
彼女は少し控えめな――否。おっかなびっくりという態度で私の様子をうかがっていた。
「お前か。う、うむ。私は問題ない。それよりも、すまなかったな、色々と不便をかけたようで」
「え? あ、うん。それは、いいのよ」
「……?」
――なんだ?
私の態度もなかなかにアレだったが、彼女も彼女でいつもと態度がまるで違っていた。
いつもなら開口一番罵詈雑言の乱射を浴びせてくるはずなのに、今はまるでそんな素振りがない。
――なにが、あった? コイツも色々あって脳がエラーでも起こしているのか?
こちらの顔をじっと見つめたかと思うと俯いくアンジェリカ。
その態度に私は内心で首をかしげる。
どこかしおらしい仕草がかなり気持ち悪い。
「でもおかげでチャンスを拾えたわ。なんたってドルニエ閣下から勅命をもらえたのだもの。人生はどう転ぶかわからないわね」
私の訝し気な視線に何か思うことがあったのか、彼女はそう言うとぷいっと視線を航行虫モドキ――飛空艇に向ける。
「……ん、どういうことだ?」
お前そういうキャラではなかっただろ。なにがあった? と聞きたくなりはしたが、同時に面倒ごとになりそうな予感もしたので私はその問いを飲み込んだ。
「えっと、あなたにもわかるように言うと、今回の話って――」
「あら! アンジェリカじゃない!」
そこへ、大声で割り込んできたのは見覚えのある女だ。
元いじめっ子の金髪巻き髪ツインテ女。
名は確か、マルレーネといったか。
「マルレーネ……どうしてここに」
「今日のノルマが終わったから帰ってきたとこ。そういうあなたこそどうしたのこんなところで。さてはもう百点とっちゃった?」
「え、あ、いや」
困惑するアンジェリカにマルレーネはにこやかな笑顔で話しかける。
いつぞやのいじめが嘘のようだ。
仲良くするよう依頼した身で言うのもなんだが、その変わりようたるや吐き気がするほど。まるで別人である。
女とはかくも打算的な生き物なのか。
「もしよかったらどう? 私たちのグループに参加しない? いらっしゃいよ、どうせ来たばかりで当てなんてないでしょ?」
「あの、うん、あてはないけど……」
――ん? どういうことだ?
なぜ彼女は誘われているだろう。
晶石回収任務はソロ活動での課題ではなかったのか。
もしかすると。アンジェリカが勝手にソロ活動に甘んじていただけで彼女がソロ活動である必要は元々なかったというオチなのでは。
だとしたら。このメンヘラはどれだけ内向的なのだろう。決して安全とは言えないこの実習にそんなつまらない感情でリスクを負ったというのか。
――信じられん。バカなのか? 死んでいたかも知れなかったというのに……いやそれは結果論だが、だとしても、どれだけいじめられっ子気質をこじらせているのだ。
「入れてもらったらどうだ。ソロ活動にこだわる理由はないのだろう?」
「あ、あんたは黙ってなさいよ!」
「うん、じゃあ決まりね! 守護天使も面倒見るわ」
そう言ってアンジェリカの両手を両手で握りこむ巻き髪。彼女はアンジェリカに何かを渡していた。
「それは?」
見えたのは環型の物体。初めて目にするものだ。
「え? これ? これはパーティーリングよ? 術の効果を共鳴させて装備者に術の恩恵を分け与えるの。あなたにも必要かしら」
そういうとマルレーネは制服のポケットに手を突っ込みそこから環型の物体を取り出す。そして今度は私に、アンジェリカと同じように私の両手をわざわざ包み込むよう握り渡す。
「はいこれ! これで私たちは同じグループ。よろしくね!」
これでもかという作り笑顔。
両手を握る行為にあざとさを感じる。ちょっと苦手な部類の女だよこいつ。
「さて、それじゃあ二人は私たちのロッジへ、って、……え?」
二人を伴って移動しようとしたマルレーネが急に立ち止まった。
その視線の先を辿れば、そこにいたのはこちらに近づいてくる髭中年の姿。
「あれ? あれって――総長閣下じゃない?」
フリーズしている二人の元へ近づいてくるのは、まごうことなく元帥総長公爵閣下その人だ。奴は既に二人と面識があるのか特にその態度を崩すことなく、堂々とこちらへと近づいてくる。
「来たか。では行くぞ。こっちだ」
「これはお前の船か?」
「ああ。私の専用艦だ。旧世界の遺物に私が手を加えたものでな。見た目は武骨だが、まぁちょっとしたものだぞ」
「え? あなた……え? え?」
私と髭中年との短いやり取りにぎょっとしたままマルレーネは、慌ててアンジェリカの手を掴み問う。
「えぇっと、これってどういうことなのアンジェリカ」
「あ、えっと、私に言われても……?」
質問されたアンジェリカもしどろもどろな対応をするばかりで、金髪女の質問に全く応えられない。何が起こっているのか理解できていないのはアンジェリカも同様だ。
――あぁそうだ。よいことを思いついた。
「おいお前」
「なんだ?」
「彼女と彼女のグループもメンバーに入れてくれ。それを同行する条件としよう」
「なに?」
私の言葉に顔色を悪くするマルレーネ。明らかに挙動不審となり血の気が引いていく様は見ていてなかなかに楽しい。
たいして髭中年は、マルレーネを見てその顔に理解の色を浮かべた。
「おお、貴様は確か――」
「お、お久しぶりですドルニエ閣下。エドワード=フォン=ヴィンディッシュが長女、マルレーネ=ツード=ヴィンディッシュでございます」
「うむ。憶えているぞエドワードの娘。貴様も志願するか。よかろう! 同行を許す。貴様も船に乗るがいい」
「え、いや、あの――」
「遠慮は無用だ。貴様も父に倣いこの機会を物にし、武勲を立てるがいい。貴様のチーム全員の参加も許可しよう。とはいえ、そういうことならば筋を通す必要があるのでな、学園に寄る。合宿所にいないチームメイトがいるなら呼んで来るがいい、全員の面倒を見よう。では、私は先に乗り込んで待っているぞ」
何かを言いかけるマルレーネの言葉を待たず颯爽と一人歩きだす髭中年。
その後ろでは、断りたくても断れなかった金髪女の巻き髪がプルプルと震えていた。




