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魔法使いのバイエル―銀河帝国宇宙軍を退役した英雄元帥魔法の存在する惑星で乙女ゲーの守護天使にされる  作者: にーりあ
銀河帝国宇宙軍を退役した英雄元帥魔法の存在する惑星で乙女ゲーのイベントに巻き込まれる

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海賊の虫船 ①-1-2

それは工作艦が降りてきた日のこと。


私がまず行ったのはログ確認だ。


それによれば、長距離航行中の我が艦隊を襲ったのは氷塊の群だったと記されていた。


アンフィトリオンに張り付き事件を観測していた工作艦が見たものは、軍艦に被害をもたらす氷塊。


無論、ただの氷の塊などではない。それらは高度な技術によって脆いデブリに似せ加工された超低温の液体金属塊――その正体は航行虫バグエージング。宇宙海賊ハードロックらが開発した兵装だ。


‘なるほど。あれが出てきたのでは対処は難しいな’


航行虫バグエージングがまとっている氷塊の正体――超低温の液体金属塊の原料は、ノヴァマテリアルと呼ばれる未知の物質である。


ノヴァマテリアルとは、海賊らの大拠点であるイング星でのみ産出される謎の物質だ。あらゆる光学兵器を弾きあらゆる物理衝撃をも拡散無効化する原理不明の兵装の素体であり、その防御性能は鉄壁と謳われていて、例え帝国の大戦艦の攻撃をもってしても航行虫バグエージングを撃沈することは叶わないだろうと言われるほどだ。


それでいて航行虫バグエージングは一般的な駆逐艦よりも小さいため小回りが利き、ビームを乱反射させながら体当たりをしてくる。その様から宇宙を飛ぶ蚤と揶揄される非常に厄介で危険な存在なのだ。


“公国軍では犯行を宇宙海賊ハードロックの一派によるものと断定し現在対応しております”


`ん? いや……それは撤回させろ。アンフィトリオンとの通信を回復させ次第本件の対応は凍結。私の命令を待て。アンフィトリオンから通信可能な友軍に連絡を取らせろ‘


確かに航行虫バグエージングを開発したのは奴だ。そしてもっとも航行虫バグエージングを持っているのも奴だろう。


AIの出した結論はデータに基づいた至極妥当なものだと言える。


だがそれは早計というものだ。何故ならば航行虫バグエージングは、今や自由海賊同盟の中核を成す三巨頭にある程度融通される取り決めがかわされたという噂を私は先日耳にしたばかりだ。


そのくだんのハードロックから。ルビィ=アスへの借りを返すという名目で。


AIらのデータにはその情報がない。一見反目しあう海賊の彼らと地方に覇権を築いた私とが、実は魂の錬成を目指す海賊同盟の黒幕との共闘関係にあるという秘密データも。


‘私は狙われる心当たりには事欠かない身だが、使われたのが航行虫バグエージングだというのならハードロックではないと私は考えている。さらにいえば、今回については犯人が絞れんこともない’


“それはどういう意味でしょう閣下。閣下はこの事態を想定されていらっしゃったのでしょうか?”


真逆まさか。今のような事態に陥るなんてことは夢にも思ってはいなかったさ。だが襲撃される可能性については考えていた’


元帥を降りれば帝国軍が私の帰路を護衛する道理はなくなる。私に自領地に帰られてしまえば、あまりのセキュリティの高さにちょっとちょっかいを出すのさえ相当に難しくなるだろう。


やるなら帰路しかない。だから私も自前の最高戦力たる精鋭艦隊を率いていたのだ。


にもかかわらず私を狙ったとなると、黒幕は恐らく私が奈落の渦作戦オペレーションナラクウィズインの立案者であったことを知っているハードロック以外の輩だろう。


理屈よりも感情に走った何者か。そしてハードロックと私の共倒れを望んだ何者か。或いは……。


――あれはいつだったか。


ノヴァマテリアルを使用した艤装を持つ海賊艦隊の一部が調子に乗って暴れまわっていたので、私が直接陛下に上申し軍事行動を起こしたことがあった。


高速艦オンリーの少数艦隊と戦略兵器による海賊駆逐作戦、その名も奈落の渦作戦オペレーションナラクウィズインと呼ばれる大虐殺だ。


帝国の誇る超科学による産物【空間歪曲型戦略兵器ヘイムダル】を用いて自由海賊同盟のほぼすべての艦隊を無限牢獄ブラック・シーに閉じ込め事実上壊滅させ、その直後同じく帝国の誇る超科学による産物【衛星群型戦略兵器ニーベルンゲンリング】を用いて自由海賊同盟の旧首都星を近隣惑星ごと干上がらせてやった。

あの時自由海賊同盟は帝国によるあまりの苛烈な制裁に大混乱を起こし、帝国へどう対応すべきかで内輪もめを起こした。


結末として当時自由海賊同盟のホープであったハードロックが盟主にされ帝国に差し出されたのだが、私は人身御供にされたハードロックを赦免し、土産として復仇免許状を持たせて返してやったのだ。


‘面倒ごとと一緒に消したかったハードロックが力を増して戻されて。自由海賊同盟の重鎮幹部どもはさぞ慌てたろうよ。その際ハードロックに略奪の限りを尽くされ壊滅した組織も多かったと聞いた。私への逆恨みも相当なものだったろうな’


“復讐の対象として申し分ない働きです。命を狙われる理由に事欠かないとは、流石閣下であらせられます”


‘公務だったが褒められるような内容ではないぞ。いやお前、さてはわかっていて言っているな?’


“任務を完遂した閣下にいったい何の落ち度がありましょう。元帥の地位にふさわしい賞賛に値する働きをなされたと認識します。閣下が私を非難する意図については計りかねますが”


‘なるほど。それはお前がAIだからということか。覚えておこう。


それで、このありさまについては、お前はどう説明してくれるんだ?’


“このありさまとは? 閣下。ログにある行動こそ最善でした。我々は逃げる以外手がありませんでしたので”


‘ふむ。それはわかるが、それと私がここにいるのと、どう結びつくのだ?’


“それをご説明することは非常に困難です。ここに至るまでの全てが巡り合わせである、といった次第です”


‘ほう? お前たちがそんな高尚なものの言い方をするとは知らなかった。このログから私はどうやってお前の真意を測ればいいのか、実に悩ましいものだ’


艦隊を指揮していたグラドールは緊急事態マニュアルに従いプランを立てていた。


襲撃状況確認後、即時離脱を目的とした目標宙域の変更を随行艦隊に打診。


空母に無人攻撃機をばらまかせ囮にしている間に離脱の準備時間を稼ぐ。


ここまではごく一般的な対応だろう。


理解できないのは、この後の船の挙動である。


`特にこの、最速の移動手段を持って離脱するというマニュアルプランを忠実に実行した結果、移民船は随行艦隊を振り切って予定宙域より遥か先へ飛んでしまったという挙動だ。人の身である私には理解することが難しくてな。これは、たぶんアレか、要約すると――‘


遥か先へ飛んでしまったってなんだろう。何を言っているのかわからない。


そりゃあ帝国最新鋭移民船アンフィトリオンには半重力励起エンジンが搭載されているのだから、本気を出せばそうなるだろう。惑星間の長距離航行を前提に設計された移民船には時空歪曲航行システムが存在しており、速度を含めた航行性能は他の軍艦を遥かに凌駕している。


だが、だからといって、どうして、単艦で、全力ぶっちぎりダッシュしているのか。


‘――つまりグラドールは不良品ということなのか?’


戦闘宙域離脱は僚艦と連携するだろ普通。マニュアルを忠実に実行したと書かれているが、これでは子供の使いレベルではないか。


そういうのをうまくやるのが最新世代のAIとしての能力の見せどころなのではないのか。気がつくと周りには誰もいませんでしたなどという冗談は娯楽小説の中だけにすべきではないのか。そういうのはかまいたちの夜だけでお腹一杯だとAIの生みの親に強く強く言ってやりたい叶うなら今すぐに届けこの想い。


“クラドールの計算は完璧です。問題が起こった原因は未知の力の干渉によるものです”


‘未知の力? なにを馬鹿な、そんなものがあるわけ……。む。むぅーむ。あるわけないと決めつけられない根拠が、今の状態であるわけか。いや、考えてみれば海賊らの使うノヴァマテリアルだって未知の塊と言えなくはないが……’


確かに未知の力の解明もままならぬうちにグラドールが不良品であると断定するのは片手落ちと言えなくもない。いくら産みの親のアオイ中将が頭のおかしいクソッタレだとしても、いやだからこそ先入観が勝ちすぎているというのはあるだろう。リコールするにはもう少し証拠と、それを裏付ける様々な検証が必要だ。


“閣下。私は閣下のご期待に応えるべく今後も最善を尽くさせていただく所存です。グラドールの失態をも取り返すだけの働きをお見せ致しますのでご期待ください”


「…………」


それは私の不良品発言に対しての発言フォローなのか。皮肉に頑張ってマジレスされてもこちらとしては一層困惑するだけなのだが。


もしやアンフィトリオンにペタっとくっついていた工作艦としては、グラドールは上位ホストAIでもあるし、親をけなされたような思考挙動になっているのかもしれない。とすると――。


`まぁ、期待しよう’


グラドールだけじゃなく、Kまで不良品臭がしてきた私である。口の達者加減だけ次世代すぎるとか、こうなると最新式という言葉そのものが残念に思えてくるから不思議だ。


おい帝国の誇る技術部よ。力を入れるところ間違っているぞ。才能の無駄遣いはやめろ。趣味で仕事をするなこの給料泥棒どもめが。


‘では確認だが、アンフィトリオンはその未知なる力の影響で帝国の支配宙域外に緊急的に侵入してしまったということだな? それならばここがどの国の宙域であったとしても外交問題には発展するまい。そして私を惑星に降下させたのは戦闘行為に巻き込まれた艦の損傷か何かで船内に異常をきたしたから、というあたりか?’


人員が船内で生存できない環境に晒された場合、AIはあらゆる手段をもって人員の生命を守ることを優先する。それはどのような船でもおおむね共通していることだ。


本来いかに快適に生命体を船内で過ごさせるかを命題にしている移民船AIの場合でも、緊急時には船外に生命体を放り出し生存できるかどうかという選択肢が追加される。


近くに居住可能な惑星があり生存に問題がないと判断できれば、躊躇なく脱出ポッドで生命体を射出してしまえるのはAIならではと言えるだろう。


私は脱出ポッドの発見とポッドの浮遊機構の修理についてを考えながらAIに尋ねる。この地に落ちて召喚なる事故に見舞われたのは不幸な出来事という他ないが、嘆いてばかりいても仕方がない。有用な道具はさっさと見つけてさっさと治してさっさと宇宙にあがって船に戻ってウチに帰りたい。なるはやで。


‘まぁいい。及第点だろう。ポッドの射出座標を送ってくれ。それから――’

“いいえそうではありません閣下。アンフィトリオンは航行虫バグエージングの攻撃を受けてはおりません。船内は出港時よりずっと生命体が居住するのに何ら問題ない状態でした。従って避難用ポッドの射出も行われてはおりません”


‘……なんだと?’


“閣下が何故その惑星にいるのかという問いに対し端的にお答えしますと、それは閣下が未知の力によって誘拐されてしまったからです”


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