幕間③ BAD-ENDルート。もしくは。
一日十時間研究。
一日の睡眠時間は三時間。
部活動を行わないかわりに図書館通い。
授業中は講義を受けつつ予習ないし復習を並行して行う。
体技授業中は暗記内容をそらんじて過ごす。
勉強、勉強、勉強の日々。授業終了次第直帰。学園は勉強をする施設。
自分を助けるのは自分。勉強した分だけ知識は自分に応える。その思いだけが彼女を突き動かす。
吸収した知識は、複数の理論を有機的に結合し考えるための土台となった。
【スポイラーの原理】を用いて晶石に属性を単独付与できる理屈を解明できたのもその土台があったればこそだ。これによって彼女は、属性を単独付与された晶石の展延制御技法の確立に成功する。
構築に高い熟練度を要する術式陣だが、この技術を用いれば設計通りに誤差無く術式陣を描くことができた。それは地道な知識の上積みによってなしえた発見である。
その後も彼女は閉館まで図書館に張り付き、帰ってからも借りた本にかじりついていた。週末は特待生権限で研究室を借り徹夜で実験までしていた。
それら努力は召喚術式の触媒【六色晶灯】を完成させた。
【クック・クダッセ理論】の干渉触媒【ニギルの枝】を完成させた。
召喚術式の最高技術【積層型五芒星】召喚陣まで完成させた。
彼女は勢いに乗っていた。
余勢をかって星月の巡りを読み、白星の降った翌日に召喚術式による進級テストを申請した。
彼女が進級テストに選んだ科目は召喚――召喚は魔術師にとっては鬼門とされ、難易度のわりに配点は高いが、多くの生徒が避けて通る科目である。
早すぎる挑戦は、形だけのまがい物、己の実力がわからぬ愚か者、などというそしりを、圧倒的な実力を見せつけることでねじ伏せたかったからだろう。
きっと周りにとって彼女――特待生アンジェリカは、得体の知れない存在だったのだ。
彼女は終始悪い噂を無視し続けて、学びを優先し人を遠ざけ誤解を解かなかった。
本来ならそうなる前に彼女は王太子と出会い、お互いがお互いによって変わっていく運命を敷かれていたはずだった。
だが何者かによって、辿るべきだったその運命は歪められた。
定められていた運命の契機を奪われたアンジェリカは変化のきっかけを逃した。
彼女への誤解は膨らみ続け、悪意は日々増え続け、いじめはエスカレートしていく。
運命が捻じ曲げられているとも知らずに、結果彼女は、世界が予定していた時間よりも早くその儀式へと手を伸ばしてしまった。
その先にあるのが、この世界のBAD-ENDルートであるとも知らずに。
試験日。
彼女は神殿の秘儀である守護天使召喚の儀式を執り行う。
いくつもの魔道具が噛み合う歯車のように動き出し、場が光に満たされ彩られた。
展開し回り始めた幾重もの魔術式。
それらは徐々に積み重なり、やがて見たこともない大きさの多層型魔法陣へと置き換わっていく。
結界内に広がる圧倒的な光量。
大きすぎる気圧の変化。
震えだした時空芯。
視覚化できるほど濃縮された渦巻く聖粒輝。
愛も恋もない、寄り道をせず真っ直ぐに歩んだ探究者の本気がそこにはあった。
魔道具を用いた壮大な仕掛けが全ての生徒たちに息を飲ませ、その度肝を抜く。
やがて光は祭壇に収束し、その末に召喚されたソレは――村人。
魔法は完結し空間は元の状態へと戻る。
全ての異常がその場から消え失せた。
台座に横たわっているのは、村人。
どう見ても天使には見えない。
その光景に誰もが安堵し、その場にいた者らの口からは、等しく笑いが漏れた。




