A Maging③-3-3
アンフィトリオンは私のいるこの魔法のある惑星から三番目に近い天体周辺に駐留しているという。
その地点がこの惑星に近づけるギリギリの距離であり、そこを越えると船体が惑星の持つ未知の力によって引っ張られてしまうらしい。
最大拡張時全長三千メートルを超えるリジューヴェネイト(rejuvenate)級の船が万一未知の力によって制御を失いこの星に落ちるようなことになれば惑星上の生物は死滅する。
そうなれば帰還どころの話ではない。
船を呼べない以上船の備える牽引設備は使えない。
脱出したいならこちらで宇宙に上がるための施設を用意しなければ。
――電磁力式航空機発射機構を建設できればシャトルの推進力を補うことができる。通常ならそれで帰還することができるはずだが……。
とはいえ、果たして通常の手法でこの星から脱出することができるのだろうか。
謎の力とやらが未知過ぎて具体的対策を立てられない。宇宙に飛び出した瞬間謎の力で惑星に引きずり戻された、なんてことになったら笑い話ではすまない。
――魔法の解析は引き続き行うとして、調査のために艦の設備をフル活用する必要があるな。アンフィトリオンにも指示を出すか。
‘K。アンフィトリオンに搭載されている設備をリストアップしてくれ’
私はいくつかのプランを見据え、惑星の静止軌道上に宇宙基地を建設するため使えそうな設備がないか確認する目的で工作艦の人工知能体に問う。
“グラドールは現在、惑星の静止軌道上に【植民惑星管理衛星群アルクメーネー】を配備すべく準備しています”
‘なんだと? ……アンフィトリオンにはそんなものまで搭載されていたというのか’
その思いかけない答えに私は面食らわされた。
え、移民船って、惑星植民化装備まで積んでるの?
それって予算やばくない? という「とんでもないもの貰っちゃった」感で頭がいっぱいになった。
植民惑星管理衛星群といえば宇宙要塞に匹敵する軍事施設だ。建造には莫大なコストと時間がかかる代物で、いかに貴族とはいえ個人で所有運用するようなものではない。
‘植民惑星管理衛星群はかなりの大きさになると思うのだが、どうやって積載していたのだ?’
“アンフィトリオンに装備されたアルクメーネーは植民惑星管理衛星群の中でも最新科学の粋を極めた特殊なものです。複数のブロックを分割した状態で艦に搭載し、現地で組み立てる仕様です”
‘組み立てるって、建材が……いや、なるほど。アレにはそれができるというか。そういうことか’
“この惑星が引き付ける質量がどの範囲のものかは現在検証中ですが、衛星個々に影響がみられないのは確認済みです。作業を続行させますか?”
‘そうか、ならば任せよう。植民惑星管理衛星群があるなら望みは繋がった。マスキャッチャーを置くにも軌道エレベータを建てるにも、まずは宇宙港が必要になる。宇宙港建設とマスキャッチャー配備もプランに組み込むよう通達してくれ’
‘御意にございます閣下’
――よしいいぞ。これ思ったより早く帰れるかもな。後は地上での設備建設についてだが……。
宇宙へ上がる為の施設建設に必要な物資と労働力。
それらをどう工面すべきか。
一からことを起こすにはどうしたって人手が必要になる。
計画を進めていけば機械化が進み、やがてマンパワーは必要なくなっていくだろうけれど、そこまでを私一人でやるというのは現実的ではない。
‘私一人でコツコツ作業をするのと、現地の使えそうな子供を攫って教育を施し作業させるのとではどちらが早いだろうな’
“この星の生物データを元にした【ELF】の生成許可をいただければ直近の問題は解決できます。それには工作艦人工知能体に専用筐体を使用する許可をお与えください”
‘ふむ? ELFか。あれは事前に申請をしないと帝国の教会がうるさいのだがな’
ELFとは、主に未開拓惑星に生息する現地生命体の遺伝子を用いて作り出す人造人間の通称だ。
出来上がった検体を調べることでその星に適応した生命体の仕組みを明らかにし、それが優れたものであれば生殖機能を付与して新人類の礎とすることもある。
軍での運用は主に現地で用いる先兵だ。特に魔法などという扱いづらいものを持った生命体を討伐する際には、同じ条件を備えた生命体を量産し、物量で制圧するという戦術を帝国陸軍は好む。
とはいえベースが非文明人だとしても、人間種を使った人体実験であることに違いはないので、惑星国家によっては倫理観を理由に禁忌指定されているのがELFだ。
人型をしたボットの骨組みが、露出していようが肉に覆われていようが差のない話という帝国の認識でELFを量産すれば、将来この国が文明国家として認められた時、ELFの存在を巡って人権問題が発生する可能性が生まれてしまう。
だからこそ、その芽を摘むために事前の手続きが必要なのだ。
‘ELFを使うなら【DRF】を先に量産してくれ。手が欲しい’
“次善案として、工作艦のサブホスト人工知能体にDRFの【エコーシステム】リンクし、閣下の専用筐体の蒸着外装を流体素形外装にコンバートする際組み込んではいかがでしょうか”
‘なるほど。お前をスタンドアローンで使うならそれはいい案かもしれんな。ウェアラブルデバイス化するなら私の妨げにもなるまい。作業リソースとグレインソリッドと人工知能体の演算能力を多少払ってでもやる価値はあるか’
“グレインソリッドについては本船で精製可能です。本星に着陸する過程でいくつかの資源衛星を鹵獲済みです。したがって枯渇する可能性は限りなく皆無だと判断します”
‘ふむ。お前がそこまで言うなら私に否はない。リアルタイムで【多視点多層解析】出来るメリットは大きい’
工作艦だからモノづくりにリソースを集中させ運用すべきと思っていたが、考えてみればここは未知の惑星で銀河帝国の常識が通用しないデンジャラスゾーンだ。我が身の安全を考えれば今回の運用のほうが良いだろう。
“ELFの申請も出しておけ。返答が得られ次第許可する。超高速秘匿通信も使用して構わない”
ELFについては帝国の公人としてぎりぎり常識的な指示を出しはしたものの、本音を言えばそんなもの無視でいいと思っている。
緊急事態なんだから使えるものは何でも使いたいというのがぶっちゃけた私の感想だ。
っていうか倫理観など知ったことか。私の命の方が銀河にとっては何倍も重要だっての。なんなら教会を無視して見切り発車して戦争になってもいいくらいだ。コイツ気をまわして忖度してくれねーかな。などと思う次第。
そういうわけで、私は工作艦の提案を全面的に採用した。




