A Maging③-3-2
私はご主人様たるアンジェリカの隣の部屋に居候生活している。
当然女子寮であり、男子の入寮は禁じられているのだが、私は召喚獣なので問題ないらしい。
最初の頃は寮でたまに初見さんにビクッとされたりはしたが、私の首輪を見たら全員例外なくそのまま素通りしていった。
どうやら召喚獣が人間としてみなされないという概念は頭のおかしいアンジェリカの妄言などではなく、この地に住む人間の常識であるようだ。
あれから一週間。
私は変わらぬルーチンワークの中にいた。
午前中は例によってご主人様に首輪付きで学内を連れまわされ講義を受ける。
午後は自主学習が主となるためご主人様からは解放されるが、ルイーザの酒場で半強制的な冒険者講習があるため私はそちらへと赴かねばならなかった。
その後夕方に酒場まで迎えに来たスガワラ氏に私は引き上げられ彼の邸宅へと直行。そこで催されるのは私が酒場に提供したレシピの試食会である。
会場ではレシピに関する質疑応答から始まり、その後はこの地の文化やら最近の時勢やら普段するような何気ない世間話やらという情報交換時間を過ごす。
会がお開きになったら、ようやく私の自由時間の始まりだ。
行先は図書館。閉館時間で追い出されるまで、私は片っ端から本という本を記録しまくっていく。
閉館時間丁度に必ず私の元へやってくるやたらマイペースな司書に笑顔で追い立てられ、私は後ろ髪惹かれる思いでとぼとぼと寮への帰途へと着く。帰れば待っているのは消灯時間だ。
眠る必要のない私だが、寮監のチェックをパスするため簡易ベッドに入り睡眠状態を装う。
何故か睡眠時間だけは強制を強いられる寮の謎システム。私は「召喚獣は物扱いなのではなかったか」と湧き上がる皮肉交じりな不満をグッと我慢する。ご主人様と寮監の知性が低いため対話が暴力へと移行しかねないからだ。
横になり目をつむったまま行うのは、その日得た情報のスクリーニングや過去に得た情報との統合分析などだ。
当然それにはこの星由来の魔術情報も含まれており、魔術という名のゲフィオン粒子制御プロトコルをスキルツリーシステムに組み込んでいくというプログラミング作業もこの時間に行う。
夜が明けて、指定された時間にご主人様を起こしに行けば、また新しい一日の始まりである。
そんな私のルーチンワークだが、そこに変化が訪れたのは八日目の夜のこと。
『《親方! 空から女の子が!》』
符丁を受信したのは図書館へと向かっているさなかだった。
れいのやつからだろう空に向かって一直線に伸びていた誘導ビーコン。
何の前触れもなく大気圏を突破し、既に着陸シークェンスに入っていた一隻の軍艦。
あの淡い光をこの惑星に住む人間の肉眼で捉えられるとは思わないが、知覚できないとも言い切れない。
私はビーコンを停止する信号を発しながら、一秒でも早く現場に行くため全力で走った。
現場に着陸していたのはまごうことなき帝国艦。アークワイデンズ級特型工作艦と呼ばれる全長五百メートルほどの軍艦であった。
アンチグラビテイトシステムとヴァン・デ・グラフクラフトの併用で無音着陸できる帝国の軍艦は、広域光迷彩装置の働きにより誰に察知されることもなく予定ポイントに着陸するという基本仕様を備えている。
この惑星の科学力でコレに気づかれるとは思えなかったが、念のため周囲に人の気配がないか探りつつ、私は船との通信を試みた。
『《こちらヴェリサリウス公国軍所属特型工作艦K-リュケイオン。情報照会を求めるアンノウンアバターコード――識別を完了――スーパラティヴストレーターアカウント。対象者をクアッドレイヤー銀河帝国元帥ルベリウス=ヴェリサリウス辺境伯と断定。全権限の委譲を承認します。おかえりなさいませ、閣下》』
――何だと?!
救難信号で降りてきたのがアンフィトリオンに付随していた自分の船と知り私は驚愕した。
特型工作艦新第二世代として建造された最新鋭工作艦五隻のうちの初号艦A/5Ⅱ型。
それは私の意向で惑星開拓用に全力特化させた無兵装艦である。
――なんてことだ! いくら救難信号を受信したからって降りてくるか?! どうなっている?! 普通は衛星軌道上待機だろ?!
いったい何が起こってしまったというのか。通常ではありえない艦の挙動に私の頭は真っ白になった。
よりにもよってこいつが地表に降下してしまうとは。これでは宇宙へ帰る手段がない。
特型工作艦ならば惑星周りにある資源衛星をやりくりして、時間はかかるが惑星発着用施設や専用シャトルを作らせることだって可能だったというのに。
――モノづくり特化艦に自力で宇宙に上がるための推進器なんてつけてない。兵装共々トレードオフでオミット済みだ。くそが。何がどうしてどうなったらこうなるんだ! 全部調べてやる!
「まずはタラップを降ろせ。私を収容後、迷彩を展開し第二級警戒モードへ移行せよ」
『《イエス、ユア、エクセレンシー》』
搭乗口から伸びてくる階段を眺めながら、私は重い重い溜息を吐き出した。




