A Maging③-2-2
金がない。
先立つものがないというのはなかなかに深刻な問題である。
金がないということは信用がないということだ。
チップを払えなかった恥ずかしさとは、信用に答えられなかった恥ずかしさと同意である。私にとってそれは、守護天使などと言われるよりも恥ずかしいことであった。
「ふむ。金子のご相談とは、面白いことをおっしゃいますなぁ」
スガワラ氏に相談してみたら、いくらほしい?(意訳)といわれ、私はその提案を即座に断った。
私は銀河帝国の貴族である。
自領地では王である。
こんな未開の蛮族の住む星で、信用を恵んでもらうなど沽券にかかわる。それだけは許しがたき話だ。
勿論今の私は、この星に於いては有象無象の類に過ぎない。それは理解している。
だがこれは矜持の問題だ。
信用を恵んでもらうというのは、「お前はこの星で生きているだけでも価値があるよ」と言われているに等しい。この星の住人ではない私が、この星の住民から施しを受けるとは、この星の人間らを騙す行為と言わざるを得ない。
私は、私の誇りにかけて、そんな詐欺行為を行うわけにはいかない。決していかぬのである。
「この地では、私のような輩の場合どのようにして金を稼ぐのか、というのにも興味がありまして」
だから私はそれっぽいことを言って施しを回避した。苦し紛れな言い訳で。
「ほう。ルベリウス殿のような方の働き口ですか……そうですのう。ルイーザの酒場ならば或いは……」
そうしてスガワラ氏の口から出てきたのは思いもしなかった提案。
酒場?
飲食系?
皿洗いとか?
「ルイーザの酒場、ですか。……例えばどのような仕事が?」
私の答えを聞いて、スガワラ氏が驚き目を丸くし、一拍遅れで盛大に噴き出した。
「え? っと、あの、そんなにおかしなことを言ったでしょうか?」
「ふぇふぇ! ふぇふぇふぇふぇふぇ! ふぇふぇ! ふぇふぇふぇ――」
スガワラ氏、大爆笑。
しばらく会話できず。
爺が笑い過ぎてちょっと涙浮かべてる姿にこっちは大混乱。
とりあえず言葉が出ない。
まぁ確かに、ジュダスの騎士が皿洗いのバイトは滑稽だが。そこまで笑えることかな。
私生活では結構皿洗いとかするけれど。掃除だって洗濯だって、そりゃ普段はしないが、戦地では場合によっては自分でしなきゃならん時はあるからね。
「ふぇ、ぇあ、いえ、これは失礼を、ふぇふぇふぇふぇふぇ」
ちょっと爺や。嗤い過ぎですよ。息も絶え絶えでかなりツボにはまったらしいがそろそろ落ち着いたらどうだろうと思うのよ。
「私は、何というか、こう見えて家事全般はできる方だと思うのですが。そんなにおかしいでしょうか。これでも結構趣味でやったりもするのですが」
主に無人星キャンプとかでも。若い時は仕事で、偉くなってからは趣味で、だけど。
「ふぇ、す、すまなんだルベリウス殿。では、そういうことであらば、そうですのぅ、例えば、料理のレシピなどを売ってみるというのは、いかがでしょうかな?」
「レシピ、ですか」
「あとは、あそこは人材派遣業が本業ですから、狩猟の人足として働かれるのもよろしいでしょうな」
「狩猟。人足というからには、補助的な、例えば力仕事であるとかですか?」
「左様。とはいえ、具体的にはどんな仕事、とはお答えいたしかねますがのぅ。
ルイーザの酒場には、この町にある様々なギルドが素材の発注をかけるので、ある仕事はそれ次第としか。
酒場で出された依頼は素材収集業者が受けて、業者は酒場から依頼をこなすのに適した人足を都度雇い入れ、仕事を請け負わせる、といった流れが一般的らしいですからな」
「それはまた、興味深いですね。酒場という飲食業の看板を出しつつも流通卸し的な業務を行い、人材派遣もする。
酒場のみで事に当たるのでなく、別の業者を噛ませてリスクヘッジまでしていると」
酒場は仕事で人足に怪我をされても、雇い主は業者なので責任なし。業者は依頼品の利ザヤを得られ、人足は登録するだけで勝手に仕事のお声がかかる、という仕組みか。
「その通り。ですからルイーザの酒場は地元人に『冒険者ギルド』などと皮肉を言われておったりしますなぁ」
「ふふ、それはうまいこと言ってますね。人足の仕事が冒険と呼ばれるくらい危険かつ重労働と。そういった仕事にしか付けない層を扱う独占的、排他的な同業者らの組合をしてギルドと冠する、ですか」
「ふぇふぇふぇ、たしかにこれは、ふぇ! 度し難い、ふぇふぇふぇ! や、失礼、ふぇふぇ――」
また笑い出した老人。
――えっと? ……。
私は考え込む。今のどこに笑う部分がありましたかね。と。
ツボが全く分からなすぎて怖いです、スガワラさん。
そんなこんなで。私はひとしきり笑って落ち着いたスガワラに紹介状を書いてもらうと、その足でまっすぐ地元人に冒険者ギルドと称されるルイーザの酒場へと向かった。




