A Maging③-1-2
アンジェリカらが昼食をとっている頃。
一方私はオズ=スガワラとの何度目かの会談を行っていた。
「その異世界というものについてお聞きしたいのですが――オズ殿は異世界から来たという理解でいいのでしょうか」
「左様。先ほど申し上げた異世界人の話然り、儂もとある別の世界からこの地へやってきておりましてな。政敵に追われ無念の死を遂げたはずの儂が、気が付くとこの世界の草むらに倒れておりました。もう百年も前の話ですかのぅ」
「百年、ですか」
「異世界から渡ってきた者には皆神によって特殊な力が与えられるようでしてな。儂の場合、それが不老不死だったようで……といっても、儂が死んだのは六十過ぎ。見た目ではよくわかりませんでしょうなぁ。周りはせいぜい長生きなじいさんくらいにしか思うとりませんわい。カッカッカ」
今日は異世界と魔法についての話をしている。
いつものように陽気に笑う老人。
この人は相変わらず鵜呑みに出来ない話をし私を困惑させる。
――死んだ人間がこの世界に呼ばれ蘇生したとでもいうのか。
にわかには信じがたい。
そんなことはあり得ない。
大方、死の直前にこの星の未知の力に引かれたというオチではないのか。
人間種が何の調整もなく百年生きられるのは稀だ。ましてや六十を超えた人間がさらに百年の時を生きるなど人間種の肉体構造上あり得ない。
虚勢か。
何故私を騙そうとするのか。
理由がわからない。
それとも本当に、単なる世間話として事実を述べたにすぎないのか。
いずれにせよ、私には彼の生きたという百年間を検証する術はない。
「そうなのですか。それはすごい能力ですね。
ちなみに、オズ殿のような特殊な能力を持っている方は他にもいるのでしょうか。
そう、例えば、異世界から同じようにやってきた、というような」
「さて。儂の知るところではここ百年で数人ですかな」
「数人、ですか。あまり多くはないのですね」
「しかしその数人の影響でこの世界は確実に進化を遂げた、と言えるでしょうなぁ。
儂がここに来たばかりの頃は農作もままならない現状でしたが、今では未来の知識のおかげで随分と裕福になったと言えるでしょう。まこと大したものというべきですな」
「未来の知識ですか」
「左様。なんでも転生者は皆、異なる時代から来ているようでしてな。
儂より随分と遅い生まれだという者らは皆儂の知らない奇天烈な事を知っておりました。
それが儂にはうらやましくて……恐らくはルベリウス殿も、そういう一人なのではないかと、儂は思っておるのですが?」
「それは興味深いですね。異なる時代からやってきている転生者、ですか」
私はオズの追求をはぐらかしうやむやにする。なんとも要領を得ない話だ。
ゆえにそんな質問には答えられない。
この爺さんの言ってる事は荒唐無稽だ。オカルトに近い。はっきり言ってお化けとかおまじないとかそういうたぐいの話にしか思えない。
だいたい時代が違う、とは何を指して言っているのか。
爺さんの感性を察するに、恐らくは自分起点での未来人と過去人というのが存在しており、それらが同じ時代に来ていると主張しているのだろう。
だがそれは完全なる科学の否定だ。
いかなる論理をもってしても時間という概念は過去と未来で重なりはしない。
それができるのは言葉遊び上でだけ。もしくはファンタジーの産物だ。似たような文化の異なる惑星から召集されたと言うほうがまだ現実に近い。
――仮に爺さんの思い込みが事実だとすれば、それはとても恐ろしいことではあるが。
オズの仮説を真実とすれば、逆説的にこの惑星に住み着く未知なる何かの手は、時空を超えて伸びたということになる。
それは宇宙世界全体の危機だ。現実の崩壊だ。この世にメーヴィウスの環が実体化し世界が反転するようなものだ。
――だが魔法の存在する世界があるのだ、限りなくそれに近い何かがあってもおかしくはないのかもしれない……考えを切り捨てるのは早計か?
人類対未確認生命体という生存競争の基礎概念に時間を織り交ぜ、多角立体的に仮説を詰めていく作業が必要になるかもしれない。
――まぁ、それは今ではないな。
判断に悩む。早めにこの星を消し去った方がいいのかもしれないとも思う。
が、この話、果たしてこの星を消したくらいで解決するのだろうか? という疑問も晴れない。
――銀河汚染の例もある。謎の仕組みを解き明かすまで迂闊なことをすべきではないか。
「左様。この都市の近代的建物もそうですが、衣食住だけではなく農地やら医療やらも彼らの知識で今までとは比較にならない進化を遂げておりましてな。
儂が目指した中央政権政治も知識の宮も、彼らのおかげで形にできたといっても過言ではありませなんだ」
「なるほど。とすると、この国は建国百年の魔法の国、という事なのでしょうか」
「魔法……左様。この星で起きた小さな奇跡らをも魔法の中に括るのであれば」
「おや。とすると、この国の人々が言う魔法とは厳密には魔術の結果のみを指すのが常識と?」
「そう理解いただいて構わんでしょうな。この地でいう魔術とは技。陰陽師の使う占いなどよりはよほど技でありましょう。剣術や弓術馬術などと同じ、習い修練すれば上達する儂のいた世界にはなかった技巧……魔法は確かに奇跡ですが、儂らからするといささかズレがあるように思えますな」
「技でできてしまう奇跡の具現化と、本来の奇跡という言葉の持つニュアンスの差、と……もしよければ、魔術についてもう少し詳しくお伺いしても?」
「もちろん構いませんとも。ここは様々な学問知識と並行して魔術を研鑽する場所でもあるのですから。何かを学ぶという事は実に気持ちが良いものですぞ? ルベリウス殿もぜひ体験していかれるがよろしいでしょう」
「それはありがたい。願ってもないことです。是非お願いします」
学びが尊いというのは同感だ。学校はそうであらねば。
知識を求めるすべての者を受け入れ、時に切磋琢磨し合う智者らの闘技場となるべき施設。
ゆえに価値がある。学び舎とは決して、権威を格付けする機関でも物差しでもない。
「では我が学園で最も有望な術者に依頼を出しておきましょう。彼女ならば共通魔法と血統魔法をお見せ出来ますでの。
ただ、特質魔法は、あれはちと術とは別物でしてな。使える者はわずかしかおらずお見せすることも難しいのですじゃ」
「特質魔法、ですか。この学園には特質魔法の使い手はいないと?」
「いえいえおりますとも。特質魔法の使い手は希少な才能である為特待生として学園に招いておりますれば……」
「特待生……まさか」
私は予感めいた感覚で召喚されたその日の出来事を思い出す。
確かにあれほど魔法然とした不可思議な奇跡はないだろう、と。
「左様。ノイズゼロの召喚祭具を完成させた無名の、本人すら気づいていない天才。ルベリウス殿が主人、アンジェリカ=リモージュ君が、そのひとりですな」




