A Maging③-1-1
先の一件により微妙な立場となったのは、台風の目の主人たるアンジェリカ=リモージュにとっても同様である。
元々彼女は華族ではあったが、没落貴族という身分的な問題で周りから疎遠にされていた。
彼女の権能は彼女の一族が抱えた闇である。とりわけその影響が色濃く出てしまっている彼女には、一般的な魔術を行使できないという制約があった。
力なき者が差別を受けるのは、殊基礎魔術が使えない者が魔術学校という閉鎖的環境で蔑視されるのは当然の事であり、彼女がいじめの対象となるのはある意味必然であったと言える。
だからこそルベリウスという力を示したアンジェリカ=リモージュに対して、周りは困惑し――恐怖した。
結果彼女は今までとは違う形で疎まれ、以前にもましてクラスから孤立している。
彼女にしてみれば全ては忌々しい村人型失敗召喚物、出来損ないの似非守護天使のせいである――のだが、当の本人はといえば、実はいたっていつも通りであった。陰口はともかく、表立った侮辱や罵詈雑言がなくなった分周囲を無視できるようになり快適になったと思うくらいだ。
ただそれよりも彼女を困惑させたのは、今まで経験した事の無い孤立とは正反対の事象である。
「ねぇねぇアンジェリカ。お夕飯一緒にたべましょぅよぉ~」
数日前から――マルレーネがアンジェリカと行動を共にするようになった。
「いや、あたしは一人で――」
「今日はクロエも一緒にいいでしょう? ダメぇ?」
「いや、ダメとかじゃなく――」
「じゃあ決まりねぇ。クロエ?」
「わかった」
「ほらほら、こっちこっちー」
「あ、わぁー、待って、あー」
マルレーネはアンジェリカの腕を引き、マルレーネの友人であるクロエと呼ばれた――ボブショートヘアのメガネを掛けた色の白い華奢な体つきの――少女と三人で食堂へ向かう。
友達のいなかったアンジェリカは、ルベリウスのお節介によって自称最初の友達となったマルレーネに振り回されるようになっていた。
「ねぇ、ルベリウスはどこにいるの? 彼も一緒に誘いましょうよぉ」
「アイツは今学園長に呼ばれてるわ。あんな事を仕出かしたんだもん。お灸を据えられるのは当然よ」
「まぁ、冷たいご主人様ねぇ。そんなに冷たくしたらどこかへ行っちゃうかもよ」
「何処にでも行けばいいのよあんな奴。言う事言う事おっさん臭いし、ちょっとうざいのよ」
「おっさんって、私達と同い年くらいじゃないのぉ。おっさんはちょっとひどいんじゃなぁい? それに顔立ちは悪く無いと思うわぁ、凛々しい目元とか素敵じゃなぁい。髪型を弄れば可愛くなると思うわよぉ。ねぇ? クロエ」
少々上気した顔でマルレーネがクロエに賛同を求める。
口数の少ない黒髪の少女は、無表情のまま一言「悪くはない」と私見を述べた。
「ほらぁ」
「いいのよ。守護天使の外見なんて興味ないわ。虫の顔の出来を気にするなんて変よ」
「守護天使は、虫ではない」
「そうよぉ。虫扱いするならアタシが欲しいくらいだわぁ彼。ねぇアンジェリカ、頂戴よぉ」
「頂戴って、あんた……私に何言ったか覚えてないの?」
「あらぁ、何か言ったかしら? そんな昔の事は忘れたわぁ」
「そうやって都合良く生きていくつもり?」
「そんな先の事はわからないわぁ」
「……あんたねぇ……」
「じゃあアンジェリカ、仲直りの印に交換する? 彼とアタシの使い魔――」
「そんな事出来るわけ無いでしょ! 守護天使なんだから!」
「守護天使は神殿の【秘教密儀】。交換不可」
「冗談、冗談よぉ、冗談に決まってるじゃないのぉ、やぁねぇ」
「どうだかっ!」
三人は姦しく話をしながら食卓へつく。
アンジェリカは話の内容には少々イライラしながらも、誰かと一緒に食べる食事に少なからぬ平穏を感じていた。
それは学園入学から久しく感じる事の無かった、知らず知らずに彼女の心を満たす暖かいひと時であった。




