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魔法使いのバイエル―銀河帝国宇宙軍を退役した英雄元帥魔法の存在する惑星で乙女ゲーの守護天使にされる  作者: にーりあ
銀河帝国宇宙軍を退役した英雄元帥魔法の存在する惑星で乙女ゲーの守護天使にされる

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異世界の洗礼②-3-3

少女――アンジェリカの声によって私にかけられていた魔法が発動したのか、私の首元から赤い光が発せられたのと同時に拳から光が失われた。


その様子に周りの生徒達が安堵の声を上げる。


――なんだこの異能は……聖粒輝が散らされたな。他に受けた損害はないようだが……。


どうやら彼女の魔法はこちらの異能制御に干渉するものであるらしい。


――むぅ。実害はほぼ無いと言えるが気持ち悪い。寄生虫に体を犯されているような気分だ。しばらくバイタルデータもモニタリングしておく必要があるな。


私が筐体のデータを解析しているうちに、アンジェリカが教師に伴われ目の前にやってきた。


彼女は私を見つけるなり全速力で駆け寄り、その黒い瞳を潤ませながら私の頬に平手打ちをした。


「この馬鹿!」


何となく空気を読んであえてそれを受けてみたが、助走があった分予想より威力が有り私はバランスを崩して後ろにヨロヨロと倒れ尻餅をつく。


痛くはなかったけど侮っていた分少し驚いた。筐体が軽くなっているというのを忘れていたのもあるのが、意外と筋力あるのねこの娘。


一方事の一部始終を目撃していた群衆は、そのやり取りで暗いどよめきを起こしていた。


どの目にもアンジェリカが「(とんでもない事をしでかしてくれた!)」と、映ったようだ。


「どうしてこんな事をするの!?」


「私は振りかかる火の粉を払っただけだが」


「あなたは村人なのよ?! 貴族に逆らうなんて許されないわ! まして守護天使なら尚更よ! 貴族に危害を加えるなんてどういうつもり?! 私はそんな命令してない!」


アンジェリカは顔を紅潮させ柳眉を逆立てると、勢いに任せ怒鳴りつけた。


「待て。お前は何を言っている? いや、お前の言は滅茶苦茶だ。まず私は村人ではない。お前たちの言う所の守護天使でもないが、そうだな、何から話すか――」

「必要ない! 言い訳しないで! 今すぐ謝って! 殿下にお詫びなさい! 土下座!!」


なんということだ。


こっちが話し合いをしようと穏やかな声を発しているというのにまるで取り付く島がない。


あー、これ無理だ。こういう精神状態に陥った女には言葉が意味を成さない。ヒステリックに叫ぶアンジェリカとの対話を私は早々に諦める。


「おい、そこの殿下」


そして代案を思いつき実行する。


私は今まで対峙していた――腰を抜かしいまだに地面に座っている――金髪の少年を睨みつけた。


「ひぁいっ!」


二人の様子を伺っていた金髪少年が私の声に反応し、バネ仕掛け人形のようにビクンと跳ね裏返った声で返事をする。


「この女を何とかしろ。私の後ろ盾になるのだろう?」


「はっ、あう、あ……」


金髪少年はその意図を汲み絶句した。


私を怒鳴りつけているヒステリック女を自分が何とかする――その意味を理解し、動揺が極まったのか、言葉にならない声で金髪少年は何かを主張しようとする。


「ルベリウス! いい加減にしなさい!」


「殿下ァッ!」


「はいーッ!!」


私に土下座をさせようとアンジェリカが叫び、アンジェリカを抑えさせようと私が金髪少年に怒声を浴びせる。


恫喝された金髪少年はまだ腰が抜けて立ち上がれないのか、それでも必死に這ってアンジェリカの足元に絡みついた。


「や、やめ、やめたま、やめてくれたまえリモージュ君、頼む!」


「止めないでください殿下! コイツは私の守護天使です! つけあがったら制御出来なくなりますので!」


「いぁいあいや無理だ! 君には、いや、誰だって無理だ! コイッ、こ――この方を止める事が出来るのは、学園長を置いて他にない!」


金髪少年は必死にアンジェリカの足にしがみついて嘆願する。


「守護天使に言う事を聞かせられるのは召喚者だけです!」


「それは君か君の先祖が彼を上回る霊格を備えている場合だけだ! 彼は異質だ、普通じゃない! そうだせんせ――先生方! 先生方も彼女を止めてください!」


言い合いをする二人の元に七分ハゲの髭面教師他数名が割って入る。


イジメ黙認教師こと髭面ハゲのハゲネはなだめるようにやんわりとアンジェリカを説得するが、怒り心頭な彼女は中々聞き分けない。


あのハゲあんな態度も取れるのか、と思いながらハゲネに喚き散らすアンジェリカの姿を見ているうちに、私はすっかり毒気を抜かれ、地面に座ったままぼんやりとそのやり取りを眺めていた。


「ほっほっほ。すみませんなお若い方」


と、そこにそっと近づいてきたのは立派な白い顎鬚を蓄えた老人だ。


彼は私に一礼し微笑みかけてくる。


「儂はこの学園の長をしておりますオズ=スガワラと申します」


「……これはどうもご丁寧に。ルベリウス=ヴェリサリウスです」


偉い人が来た。


私は一瞬眉をひそめたものの、学園の長と聞き慌てて返礼をする。


「出し抜けでつかぬことをお伺いしますが、ルベリウス殿は異世界から来られたのですかな?」


「……失礼ですが、あなたは――」


ほんとに出し抜けだな。とは思ったが聞き捨てならない質問に非礼を責める気が失せた。


憎めない笑顔の人の良さそうな雰囲気を持つ、その老人が発した「異世界」というワード。


異世界――つまりは、自分たちの生きている世界とは別の世界が存在しているという概念。


今いる世界とは別に、もうひとつ世界があるという概念は、蛮行がまかり通っている獣世界のようなおよそ未発達の文明に生まれうるものではない。


「おっとっと、心配ご無用ですじゃ。儂は異世界から来られた方々への理解についてはこの国の誰より深いと自負しておりますれば、ルベリウス殿の心配も当然じゃろうと思うておりますじゃ」


おどける老人。


好々爺としたその態度。


敵意がないことを表明してのものと思われるが、果たしてどう対応するべきか。


――揺さぶってみるか?


「もしかすると、あなたも私と同じ――」


あえて、どこかの星系からやってきたのか。と言いかけて、私は言葉を飲み込んだ。


――いや待て。この質問はいささか性急すぎる。


相手が正体不明な存在なのだ。もうワンクッション置く必要があるだろう。


異世界などという発想はその下地がなければ思いつくようなことではないし、ましてや初対面の相手に問うような話ではない。そういうものがあるという確信がなければぶつけられない疑問だ。この星由来でない何物かがこの星にあるからそういう発想に至っているという可能性がある。


――下手を打てばイニシアティブを奪われるかもしれない。


「まぁ、そうですなぁ、こんなところで話す話でもないですなぁ。ルベリウス殿。もしよければ、茶でもご馳走させてくれませんじゃろうか。ついでにこの件も儂に預けていただけたら尚良なんじゃが、いかがですかな?」


何かを悟ったのか。相好を崩す正体不明の老人からのお誘い。


私は即座にこれを拒否するメリットデメリットを計る。


仮にも相手はこの施設のトップと思われる人物。


情報を渡すことを嫌い反目するより、迎合したほうが利は勝るか。


――このような回りくどい芝居をするくらいにはこちらを警戒しているというのはわかるが……。


一瞬で浮かんだ分岐は17。


だがどの仮説にも裏付けはない。


状況を加味すれば、老人が露骨な手のひら返しをするようには思えない。


――それをしてくる愚か者なら逆に御しやすくもある……。


短く逡巡し、決断する。


「そういうことでしたら、ご相伴にあずからせていただきましょう。この一件もお任せします。ご迷惑をおかけしますが何卒宜しくお願いします」


私は老人の誘いに頷きその場から立ち上がると、この星の礼儀に倣い、老人に対して一礼してみせた。


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