異世界の洗礼②-3-1
子供のワガママを許せないでは大人としての度量が問われる。
しかしながら、子供の過ぎた悪戯を放置するでは大人としての器量が問われる。
子供が殺傷能力のある玩具を振るうとなれば、大人は子供に対し――否。社会の先達として後進に対し、行動をもってそれを示さねばならない。
この場合――成し得るはすなわち、躾である。
子供の行動は巡り巡れば大人へと帰結する。
社会で起こるあれやこれやが巡り巡って政治に帰結するように、その循環は必ず秩序を成して巡る。
この場合――結実の時はすなわち、今である。
太古より人は、集落を作り食べ物と労働を分け与えながら命を守ってきた。
人はその為に知恵を得て、持つ者は持たぬ者に知恵を伝え、或いは施してきた。
それは情においても同じである。
少年よ。
私は敬愛すべき先達に習い、後進たるお前に今、愛を持って殺伐の力を振おう。
『〈スローネシステム――詩篇旋法起動〉』
体内を満たすナノマシンを統括するシステム・ジュダスの騎士の異能が、この世界に満ちる謎の粒子を取り込む。
改修によって獲得した新筐体制御機構――スキルツリープロトコルの影響か。筐体から虹色の光がうっすらと漏れ出る。
エネルギー変換効率が悪く、ロスが光となっているのか。だが筐体駆動に支障はない。体の発光は後で再調整すれば解決できるだろう。
私は金髪少年の操る木偶人形――精霊騎士・武者――が剣を振り下ろすより一瞬前に、大きく一歩を踏み出す。
《 ―― ジュダスの騎士の能力〈近未来予知〉が発動! ―― 》
振り下ろされんとした武者の剣――その手首を私は正確に捉え右の掌で押す。
「左手は添えるだけ」
そうして武者の剣の軌道を逸らせ、そのまま左の掌を武者の胴に押し当てると、静かに異能の力を解き放った。
《 ――〈刻譜旋法・聖釘〉―― 》
「اذان adhān!!」
聞き慣れない不明瞭な音を発した武者が動きを止める。
およそ一秒後。
武者は全身に亀裂を走らせた。
その後、その体はぼろぼろと加速度的に崩れゆき、あっという間に瓦解して白い砂の山となる。
「っ!?」
その光景に息を飲んだのは目の前の少年だけではない。
あちこちから声にならない息遣いが聞こえた。
――奇っ怪。――それが目撃者らの抱いた感想、視覚的感触だろう。
ジュダスの騎士の異能を初めて目にした者は、だいたいそんな反応をする。
誰もが何が起こったのかを理解できない。
いかに魔術を学ぶ学生たちであろうとも、どうやらそれは同じであるようだ。
「ふむ。魔法とやらも悪くない、か」
「な、なな、何だ今の!?」
「ん? なんだ、と言われてもな。知らんのか? ジュダスの騎士の理力『フォーム:聖遺像=覇力』だ。宝纏・大聖詩篇が一丁、《聖釘》は、如何なる外皮も貫きその内部を破壊する。それをこの星仕様にしてみたのだが――」
「こ、このっ、ば、化け物め!」
パニックを起した金髪少年が猛烈な勢いで軍配を振るい始める。すると直後、彼の周りの地が黄色い光を帯び、そこかしこから五体の精霊騎士が現れた。
精霊騎士らが主の意を受け、出現するなり一斉に私へと襲い来る。
――やっていることは脅威的なのに、なんて稚拙な動きなんだ。まぁ魔法の練習台としては丁度いいのだが。
「コマンド選択〈百烈拳〉実行」
音声入力をテストするため私はキーワードを発する。と、時差無く私の両拳に黄金の輝きが宿る。
――これも問題なく魔法仕様化できたようだな。
魔法という奇跡を仲介する謎粒子。
その謎粒子が変質することで生まれるこの質量のない光形状の物質は、アオイ中将の資料によると【聖粒輝】と呼ばれているらしい。
今私の手に集まっているこの光の正体は、ナノマシンによって導かれ整形・形成された光粒子の弾丸の集合体だ。
魔法と科学の融合。先ほど聖釘の感染媒体としても聖粒輝を用いたが、この粒子、なかなかに覇力との親和性に優れているように思える。
私は両足を縦に開き、腰を落とし、襲い来る精霊騎士の方向に向けて右正拳突きを放った。
『哈っ!』
突如訪れる渦巻く風。
黄金の光を伴い空気を激しく撹拌する旋風は、巨大な破壊の衝撃波となって上空に飛んだ三体の精霊騎士を粉々に砕く。
同時にその余波は、真下にいた二体の精霊騎士を巻き込みその上半身をも粉々に砕いた。
体半分を失った精霊騎士はゆっくりとその場に崩れ落ち、白い砂となった。
「な、ななな、なッ!?」
――ふむ。想定より派手だったな。聖粒輝は暴れ馬のようで手加減が難しい。
その光景に、場からどよめきが上がる。
術式が見えないだの魔力の流れを感じないだのという言葉がちらほらあったので、魔術じゃないですただの魔法版百歩神拳ですよと言いかけ、やめる。
見ればわかることをわからない輩に一から説明するのには多大な労力がかかる。
せいぜい誤解を重ね恐怖を膨らませるがいい。
私はあちこちで押し殺したような悲鳴を上げ怯え縮こまっている少年ら睥睨してから、ゆっくりと、たっぷりめに、わざとらしく視線を金髪少年戻し、努めて低く、静かに言う。
「次は、お前がそうなる」




