第42話 錬金術師は検査を受ける
兵士は私の雰囲気に仄暗いものを感じ取ったのか、それ以上は言及しなかった。
微妙な表情で同僚を顔を見合わせる。
特にこちらを不審がっているわけではない。
どこか憐憫に近い感情を向けられているようだった。
それでも彼らは持ち物検査を続行した。
やがて革袋から白い結晶を取り出そうとしたので、私は反射的に手で制する。
行動してから少し後悔した。
明らかに怪しまれる行動だろう。
兵士は少し眉を寄せて訊く。
「この結晶は何だ?」
「妻の形見だ」
「……そうか。すまない」
その兵士は気まずげな顔をして、結晶を外から覗くだけに留める。
こちらを気遣った行動であった。
あまり触れるべき物ではないと察したのだろう。
その配慮がありがたかった。
私は兵士の優しさを痛感する。
退屈な仕事だろうに、こちらの事情を鑑みて勤めているようだった。
やがて背嚢の中身を調べ終えた兵士は、達成感を見せながら言う。
「うん、特に怪しい物は持っていないようだな」
兵士は同僚から金属製の棒を受け取る。
表面に術式が刻み込まれていた。
内部を魔力が循環している。
魔道具であるのは一目で分かるが、具体的な効果までは不明だった。
「それは何だ」
「瘴気を感知する魔道具だ。体内に呪具を隠した者がたまにいるからな。あんたは持っていないだろうが、ここまで調べるのが規則なんだ」
兵士は気軽な調子で瘴気検知の魔道具を向けると、私の身体に沿わせるようにして動かした。
その途端、魔道具が赤く発光する。
かなり強い光だった。
兵士は動きを止めて息を呑む。
先ほどより明らかに緊張を孕んだ声音であった。
「……何か隠し持っている、のか?」
「持っている分は残らず見せた。魔道具の故障だと思うが」
「そうだよな。すまん、別の器具で調べてみよう」
謝った兵士は同僚に指示をして、別の瘴気検知の魔道具を持って来させようとする。
(咄嗟に故障だと言ったが……)
少し嫌な予感がする。
しかし、ここで動き出すわけにはいかなかった。
そうすれば、いよいよ厄介なことになるだろう。
だから私は黙って兵士達を見守る。
「魔道具の修理は金がかかるんだよなぁ。経費もあまり多くないってのに」
愚痴る兵士が魔道具の具合を確かめる。
試しに自分の身体に沿わせているが、特に反応はしない。
瘴気に類する物を所持していないということだろう。
次に魔道具を私の身体へと近付ける。
「よし、今度は大丈夫だ。動かないでくれよ……えっ」
兵士の顔が凍り付く。
瘴気検知の魔道具は毒々しい赤い光を放っていた。




