第43話 錬金術師は疑惑の目を向けられる
兵士の顔に疑念が浮かぶ。
こちらに向ける視線は明らかに変質し、私の一挙一動を観察していた。
敵意とまではいかないまでも、友好的とは言えない態度である。
「あんた……何か隠し持っているのか?」
「何も隠してない」
「じゃあどうして瘴気反応があるんだ。今度は間違いなく故障じゃない」
「それは……」
私は言い淀む。
反論が思い浮かばなかった。
周りの兵士達も何事かとこちらを眺めている。
既に武器に触れている者もおり、場の空気は張り詰めていた。
(吸血鬼は体内で瘴気を生み出しているのか?)
そもそも瘴気とは、魔性の性質に偏った魔力を指す。
人間にとって有毒であり、主に呪術等の闇の魔術に用いられる物質だ。
吸血鬼の詳しい生態は分からないが、自力で瘴気を生成できる生物なのだろうか。
少なくともサラはそのようなことを言っていなかった。
やはり一般的な吸血鬼の特徴ではないのだと思う。
しかし、瘴気検知の魔道具は作動した。
さすがに故障ではないはずだ。
考えられる可能性としては、特性の強まった吸血鬼は瘴気を生み出せるのかもしれない。
私が考察していると、兵士が慎重な口調で手招きしてくる。
「とにかく、ついてきてくれ。中で詳しい検査をする」
「急いでいるんだ。私は本当に何も持っていない。見逃してくれないか」
「それはできない。規則なんだ」
兵士が首を振って言う。
その手が魔道具を置いて、静かに剣を引き抜いた。
すぐに仕掛けてくる気配はない。
だが、こちらの動き次第で攻撃してくるだろう。
(説得は困難だな)
私は見切りをつけて兵士達の位置を把握する。
このような状況でも私は冷静だった。
五感が研ぎ澄ませて集中し、現状を打破するための動きを脳裏に描いていく。
その末に私は背嚢と掴むと、目の前の兵士を押し退けながら走り出した。
「すまない」
「あ、おいっ!」
押された兵士が尻餅をつく。
振り回された剣が外套の端を切り裂くも、私自身に当たることはなかった。
そのまま疾風のように駆け抜ける。
目指す先は砦の開かれた門だ。
強引に公国へと侵入するつもりだった。
詳細な検査をされた場合、吸血鬼であることが露呈してしまう。
ここで捕まるわけにはいかなかった。
「止めろ! 瘴気反応が出たっ!」
兵士が叫び、他の兵士達も進路を阻もうとする。
大急ぎで門が閉ざされていく。
(……間に合わないな)
私は視線を左右に巡らせて、兵士の放つ矢を躱しながら跳躍した。
石壁を駆け登って砦の内部へ滑り込む。




