第44話 錬金術師は魔弾を用いる
すぐそばに兵士が立っていた。
驚愕した様子で銃を構えて発砲する。
飛び出した弾丸が徐々にこちらへと迫る。
その動きは非常に遅々としていた。
目でしっかりと軌道を追うことができている。
傭兵を殺した時のように、時間感覚が引き延ばされているようだ。
私は身を沈めて弾丸を回避すると、兵士を軽く押して壁にぶつけた。
かなり手加減したので死ぬことはないだろう。
痛がる兵士を横目に、私は近くの部屋に飛び込んだ。
木製扉をすぐに閉めて、室内の棚を引きずって扉の前で横倒しにする。
これでしばらくは時間が稼げるはずだ。
私は室内を見回す。
ここは誰かの私室らしい。
脱ぎ散らかされた衣服や飲みかけの酒瓶が置いてある。
手入れされた剣も保管されていた。
外から慌ただしい声と足音がする。
兵士達が続々とこちらへやってきているようだ。
敵対行動を取ってしまった以上、彼らは容赦なく攻撃してくるだろう。
さすがにこの状況から穏便に解決するのは不可能である。
(殺し尽くすか。いや駄目だ)
危険な方向へ傾きかけた思考を否定する。
きっと今の私ならそれも可能だが、無実の人々を傷付けたくない。
私は人間なのだ。
理性を失った怪物ではない。
かと言って捕まるつもりもなかった。
兵士達を蹴散らしながら脱出するしかないだろう。
(こんな時のための備えはある)
私は背嚢から魔弾を取り出して、拳銃に装填した。
これは身体強化の魔弾である。
今まで使う機会がなかったが、現状においては最適解なのではないか。
私は銃口を腕に当てて引き金を引く。
弾丸が肉を抉って血が噴き出したが、すぐに再生能力で治癒する。
被弾した腕から異変が生じた。
体内の魔力が爆発的に増大して全身に浸透する。
ほどなくして力が漲ってきた。
身体強化は問題なく作用したようだ。
銃声と共に、木製扉にいくつもの穴が開いた。
外の兵士が銃撃を始めたらしい。
間もなく突入してくるつもりだろう。
その前に私は扉を蹴破り、銃撃を躱しながら走り出した。
背中に衝撃が伝わって息が詰まる。
どうやら撃たれたらしいが、大した痛みではない。
背中に手を回すと、潰れた弾丸が外套を貫いて地肌に張り付いていた。
身体強化によって肉体が頑強になり、弾を通さなくなっているようだった。
これなら上手く犠牲を出さずに脱出できそうだ。




