第41話 錬金術師は国境に着く
私は公都を目指して移動を続ける。
街道に沿って進むうちに、石造りの砦が見えてきた。
進路を阻むように建てられており、左右に延々と壁が続いている。
地図上の地形を考えるなら、山々に繋がる辺りまで築かれているのだろう。
あの砦こそが国境となる施設だった。
向こう側からはナリア公国の領土となる。
遠目にも兵士が待っているのが見えた。
彼らはここで国境付近の警備を担当しているのだろう。
軍部の左遷先として有名だと聞いたことがあるが、重要な仕事ではないのか。
今のところは戦争の予定もなく、緊張するような状況ではないのかもしれない。
平和が何よりなので、この地の兵士が怠慢でいられるのは良いことなのだと思う。
馬に乗った私は砦へと近付いていく。
特に誰も並んでおらず、すぐに通過できそうだった。
互いの顔が分かる程度の距離になると、馬から降りるように指示された。
断る理由もないので私はそれに従う。
そのまま砦へと徒歩で赴いた。
到着するとすぐに兵士が話しかけてくる。
「検査に協力してほしい」
「何の検査だ」
「違法な物品を所持していないかを確かめる。近頃はそういった売人の出入りが深刻化しているんでな」
「分かった」
ここで逆らえば、まず不審がられる。
私は後ろめたい事情をいくつか抱えているが、だからこそ従順になるべきだろう。
別に見られて不味い者は持っていない……はずだ。
妻の遺骨もすぐさま判別できる代物ではない。
そもそも吸血鬼の骨を持っていたところで違法ではなかった。
だから何も問題ないのだ。
指定された籠に荷物を入れる最中、兵士の一人が私を指差した。
「その外套の血はどうした」
「賞金首のものだ。仕事中に汚れてしまった」
明らかな嘘だが看破されることはあるまい。
否定できる材料を兵士達は持っていないのだから。
賞金首を殺害すること自体、別に珍しいことでもなかった。
私の答えを聞いた兵士は意外そうな顔をする。
「賞金稼ぎをやっているのか」
「そうだ。家を失ってやむを得ず始めた」
今度は真実も混ざっている。
私の自宅は傭兵達に燃やされた。
全身各所が微かに疼く。
あの時に撃たれた感覚が蘇ってきた気がした。
灰色の簡素な拳銃を見て兵士が首を傾げる。
「この銃は何だ」
「精霊が宿る魔術武器らしい」
「ほう、それは珍しいな」
兵士は特に疑いを持つことなく視線を外す。
魔術武器は高価だが、怪しまれるような代物でもない。
一個人が所持していたとしても、それだけで不審だと判断される材料にはなり得なかった。
「賞金稼ぎってのは儲かるのか? 報酬次第で転職したいくらいだ」
「……あまり勧められないな。厳しい道だ」
言い淀んだ末、私は正直に答えた。




