アイドルとしてインタビューを受けた。質問って怖いわあ
語り手は明日谷大和君です。変身をする前の一人称は「俺」です。大和君が変身すると「キラナデシコ」に化けます。そのときの一人称は「私」に代わります。ではきらめく世界をお楽しみください。本日もお読みいただき、ありがとうございます。あなたに良きできごとが起こりますよう、心からお祈りします。
声を上げ、俺から私へ姿を変える。私の中にいる「大和」の姉と妹は何度も瞬きを行い、口を大きく開け、立っていた。
体からたくさんの汗が流れる。緊張しているのか、『彼』の姉と妹に事実を見られたからか。
「ドーターズ、あと1分で出番です。今すぐ舞台袖に上がってください」
スタッフが私たちに告げる。
「ほら、アスナ、ナデシコ」
ココアに手を握られ、私たちはステージ前に立つ。
「お次はシリウスイチゴ豊漁の立役者、キラメキドーターズが登場します。どうぞ、拍手でお出迎えください」
桃色の子熊が台本を持ち、私たちに目を向けた。舞台に上がると、多くの動物が手を叩いて喜んでいる。甘い香りが漂い、熊たちは顔が真っ赤に染まり、がばがばワインを飲んでいる。
「キラメキドーターズ、本日はお忙しい中、お越しいただきありがとうございます」
「いえいえ」
私たちは頭を下げる。留奈と美鈴が手を振り、私は返す。
「姉ちゃん、スカートめくって」
子熊がジョッキをもって叫ぶ。嫌よ。
「キラメキドーターズは、夢世界アルムで生まれたアイドルヒロイングループで、キラメキの力を通し、元気を与えます。数日前、シリウスイチゴを取る際、お世話になりました」
私たちは頭を下げると、あちこちから喜びの声が上がる。
「早速ですが、ドーターズの裏話をいくつかお聞きしたいと思います。聞くところによると、キラナデシコ、キラアスナとキラココアがシミ病で苦しんでいたとき、別の惑星アルデバランにある険しい山へ登ったそうですね」
なぜそれを知っている?
「は、はい。一部分だけひょうがふって、当たると雪だるまに変わったり、道の見えない場所があったり、変なクイズがあったりと、アスレチックを楽しむかのような山でした」
「大変ですねえ。アイドルの仕事もアスレチックだらけでしょ」
おそらく、良いこともあれば悪いこともあるという意味で、彼女は述べたのだろう。
「え、ええ」
「では一つ、みなさんにクイズを出します。アスナ、ココア、お答えください。シミ病を治すために、ナデシコたちがとった草はなんという名前でしょう。会場の皆さん、わかりますか? 正解者にはキラメキドーターズのサイン色紙をお渡しします」
熊たちが手を挙げた。
「スミレ」
「レガレッタ」
「タンポポ」
「タンポン」
「ポンポコソウ」
「ウソダソウ」
「タケイソウ」
「バイブ」
草や花の名前に交じって、変なのもある。下ネタに吹いちゃったんだけど。
「どれも不正解、答えはアスナにココア、声を合わせてください」
「「エンタメンゼン」」
わーっと子熊たちが騒ぐ。
「あのエンタメンゼンをとったのか」
「エンタメンゼンって何?」
「知らない、なんかすごい草なんだろうよ」
観客の反応はこんなものか。
「エンタメンゼンをとって仲間を助ける、百合ゆりな気持ちで、アスナやココアもナデシコを助けたのですね。乙女惑星スピカにて、初めてのアイドルライブを行ったとき、ある事件をきっかにナデシコが消され、アスナとココアは二人、力を合わせて彼女を助けました」
大和は何か言いたそう。
「アスナとココアは二人で歌いながら、氷漬けにされそうな女の子を温めました。そのとき、どんな気持ちを抱いていたのですか?」
熊はアスナにマイクを渡す。
「うーん、この子が温かくなればいいなって思ったよ」
かわいい。マイクはココアに渡される。
「冷たい体や心を温めるのが私たちの仕事です。その子が凍えなくてよかった」
礼儀正しいなあ。
「アスナとココアはお互いの体を温めあう機会はないのですか」
「体を……馬鹿なことを言わないでください」
ココアが顔を真っ赤に染める。
「ねえ、勇者様たちが体を温めあえば、私たちは盛り上がりますよね」
会場が乱れ、耳が痛い。
「昨日、いやんやんな漫画を読んでいたら財布が凍ってしまって」
「あなたの使い方が悪いだけでしょ」
突っ込んでしまった。どっと笑いがおこる。
「だから雪女が現れたのか! 雪女の心をドーターズが溶かしたと聞きますが」
「はい、雪女は過去に傷があって、私たちが希望を与えました」
「へえ、口づけしたの? 雪女の唾液はどんな味でした?」
「キズでなくキスでしょ」
「キスをてんぷらにするとおいしいのですよ、雪女はてんぷらにしたら、すぐ溶けてしまいそうですね」
「できるわけないでしょ。キスって魚と間違えないの」
「正月に食べると」
「数の子か」
「化け物が東京都の渋谷を歩いて」
「バケモノの子か、韻すら踏んでいないし、よく東京を知っているな」
会場が揺れ、空気の境目が見えた。
「東京は知らないけれど、アルム御世界にいるお姫様なら知っています。植物に食べられたアルムの世界にいるお姫様を、お救いになったと聞きます。お姫様はどのような人ですか? かわいい以外の表現でお願いします。お姫様はかわいいので」
アスナは「うーん、きれい」言った。
「品があり、おしとやかで、人懐っこい子ですわ」ココアが手を軽く叩く。
「姫様はこちらでは怖いですよ。何しろ体に触れたら、ぶっ飛ばされるので」
「そりゃあなたたち、人の胸やお尻などを触っていますもの。士鶴ちゃんにも同じところを触ったのでしょ」
「ええ、なんでそれが失礼に当たるのか、さっぱりわかりません。私たちの世界では、相手の体に触れるという行為は、敬意を抱いているのです」
私たちの基準だと、触れる場所によって、セクハラになってしまう。文化の違いというものか……
「会場にいるみなさんに尋ねます。姫様からムチでぶたれたいと願う人」
司会者が手を上げると、観客の4割が手を挙げた。
「優しい声でぶたれたいですよね。ここで、ドーターズの癒される声を披露してもらいます。今から歌う曲は」
なんて強引な展開だ。
「快楽地獄、質問攻めフルコース」
お読みいただきありがとうございます。「脚本」に沿ってステージ進行を行う。大変です。見ている側だと、サクサク進んでいるように見えて、舞台に上がっている側だと、アクシデントが起きないか、ひやりとしますね。
次回はより深い質問責めに会う予定です。