出逢い Ⅳ
「あいたたた・・・・・・」
上を見ると、空しかない。
本当に自分はあそこから落ちてきたのだろうか。
そのわりには、体が思ったほど痛くない。
「………………」
辺りを見渡したが、乙喜のいた町とは違う。
乙喜は小高い丘の上にいるようだ。少し離れた所に町が見える。
が、ビルのように鉄筋で作られた建物は少なく思える。
ほとんどが木造で、高くても3か4階建てくらいだろう。
地面もコンクリートじゃない。
ここが元いた世界には到底思えない。
町の方に行こうとも思ったが、そちらに道はない。
草むらを掻き分けたような粗い道は、乙喜の後ろに、町とは反対の方に続いていた。
さっきのように、丘から飛び降りるわけにはいかないので、乙喜はその道に沿うことにした。
しばらく進んだ。
だんだんと、景色が変わっていった。
道は下り坂になっていき、木々が少なくなってきた。
やがて大きな川の前に着いた。
「うわぁ……」
それは見たこともないほどの大きな川だった。
架かっている橋は木で出来ており、黒地に紅い模様が細かく描かれている。
とても上品で雰囲気があるが、新しいものではない風に思えた。
どこか煤けているような。
先に見た町よりも古い時代のものに見える。
橋の先には、これまた大きな建物があった。
7階はあるだろうか。
琉球の国にありそうな、旅館のような建物だ。
建物の側面からは、煙りの出ていない煙突が幾つか飛び出ている。
おそらく右から読むのだろう。
正面にある玄関の上には大きく『屋喜百』と書かれた看板が下げてある。
その建物も、橋と同じように、どこか古臭さを感じた。
乙喜は橋を渡り、百喜屋に近づいた。
辺りをみても、人の気配はない。
(中にいるのかな?)
玄関の鍵は開いている。
戸を開け、呼んでみた。
「すいませーん!!」
「………………」
が、返事はない。
町へ行こうか。そう思って戸を閉めようとした時だった。
「死に装束で妖ノ界観光とは、いかした奴だなぁ芦川乙喜ちゃんよ」
「へっ?」
突然背後で声がした。
振り返ってみると、そこには1人の青年がいた。
背は180前後くらい。歳は乙喜よりも少し上に見える。
深い紫色の肩までありそうな髪を、上半分だけ結っている。耳には3つずつピアスをつけて、指にもいくつかシルバーの指輪をしている。
左の目の下には傷痕が横長にあり、口にはタバコをくわえている。
白の着物の上から黒っぽいスカジャンを着ていて、着物の下は長ズボンにブーツという不思議な格好をしている。
耳は、少し尖っているように見える。
「あのー……あなたは?」
「人に名前を訊ねるときは、まず自分からだろう」
「私の名前知ってませんでしたっけ?」
「おお、そっか!! 俺は桜。女っぽい名前だけど、いちおー男な!! 閻魔王庁が直属精鋭部隊の隊員兼ここ百喜屋の店長をやってる」
もし私があの時、普通に死んでいたなら、井戸に飛び込まなかったら、この人たちには出逢わずに普通に天国で暮らしていたのだろう。
でも、飛び込まなければ知ることもなかった。
人を信じること、愛すること、何かに命をかけること、その儚さと美しさ。
お兄ちゃんのこと。
『私』の生きる意味。
この日からすべてがはじまったんだ。




