生者でもなく死者でもなく Ⅰ
「ところでよ、お前これからどうすんだ?」
「どうって・・・・・・」
さっき閻魔王庁の前にいたときは、あの井戸に飛び込めば生き返ることが出来るのではないかと思っていた。しかし、辿り着いたこの世界も元いたところとは違う。
生き返りたいという大きな願望だけは漠然とそこにあるが、具体的に『どうするか』なんて分からない。
どうするかを考えるには、この世界についての知識が少なすぎるのだ。
それに、もしかしたら閻魔王庁から追手が来ているかもしれない。
(・・・・・・ん?)
「あのー、桜さんでしたっけ? あなたさっき閻魔なんたらのなんたらって言いませんでしたっけ?」
「閻魔王庁の直属部隊。 軍人みたいなもんさ」
ということは、ということなのだ。
乙喜の憶測だが、おそらく追手であろう。
よくよく考えると、今日出逢ったばかりの人が、乙喜の名前を知っているはずがない。
(逃げなきゃ!!)
乙喜はジリジリと桜との距離を離していく。きっと捕まったら強制的に天国へ連れて行かれる。乙喜の話を聞いてくれるということも無いだろう。
乙喜は意地でもそうなるわけにはいかない。
が、乙喜の後ろは百喜屋の玄関だ。
橋の下を流れる川は、左右に長々と続いているが、ほかに橋らしきものは見当たらない。通ってきた橋を渡るしかないのだが、その方向には桜が立っている。
これではどうにもできない。
黙って考え込んでいると、桜が口を開いた。
「そんな怖い顔しなくても、捕まえたりしないよ」
「やっぱり!! 私を追っかけて来たん・・・・・・え?」
「だから、捕まえねえっていってんだろ? 上からは『処分はそちらに任せる』とか言われたけど、ぶっちゃけ王庁まで連れてって手続きするの、色々と面倒なんだよなぁ」
「処分って・・・・・・」
「別に殺したりしねぇよ。 何も悪くないガキ殺したら寝覚めが悪くなっちまう。 ・・・・・・どうしようかなぁ」
「お願いです!! 私、まだ天国になんて行きたくありません!! やらなきゃいけないことがあるんです!! それが終わってからなら、どこへだって行きますから!! お願いします!!」
乙喜には、どうしても天国に行きたくない理由があった。
乙喜の兄は、普通では考えられない死に方をした。
だが、兄の不可解な死に方を見ていたのは、当時7歳だった乙喜だけだった。どれだけ説明しても、医者も警察も信じてはくれなかった。きっと、兄の死を受け入れたくない気持ちが大きすぎて幻覚を見たのだろうと。そう言っていた。子供の戯言だと思っていたのだろう。
信じてもらえなかったから、乙喜も信じなかった。
1人でずっと探してきた。けれど1人の脳みそでは得られる知識は少なく、何も手がかりはなかった。なかったけれども探さないわけにはいかなかった。やめてしまえば、自分自身が何のために生きているのかが分からなくなってしまいそうで。
乙喜は探さなければいけない。
天国に行くわけにはいかないのだ。




