人間としてのオワリ Ⅱ
蘇るえげつない光景を振り払うように、乙喜は走った。
鞄は腕に抱えたまま。
早く家に帰りたかった乙喜は、いつもは通らない細い路地に入った。
路地は薄暗く、じっとりとしている。隣にあるアパートの軒下にあるらしく、雨はあまり入って来ていない。
屋根から落ちてきた水滴で、たまに水溜まりが動くだけだ。
乙喜は足を止め、しばらくそれを見た。
やがて歩きだした。
しばらく歩くと、異変に気付いた。
動物が1匹もいないのだ。
こんな雨の日だ。蛙の1匹くらい居ても良さそうなのに。
不気味に思ったが、家まではあと少し。
足速に進む。
家の前の通りに抜けようとした時だった。
首根っこを掴まれ、路地に引き戻された。
「きゃあっ!!」
引き戻された勢いで、地面に放り投げられた。
「おい、コイツか?」
「ああ。間違いねぇ」
そこにいたのは、とても人とは呼べない、不気味な化け物だった。
皮膚は深い緑色をしていて、目玉は大きく開き、長く鋭い爪を持っている。
幽霊なんかはよく見てきたが、こういうのを見るのは初めてだった。本気で身の危険を感じたのも初めてだ。
なんとか逃げようともがくが、足が思うように動かない。
「美味そうな人間だなぁ~。やっぱ女がいいよ。男の肉は硬くてよぉ~」
「阿保か。今回は普通に殺さなきゃ意味がないんだよ。俺らが喰ったらあっちへ行けなくなるんだぞ」
2匹の化け物は、しばらくコソコソと話合った後、再び乙喜のほうを向いた。
そして1匹が、ジリジリと乙喜との間合いを縮めてくる。
「……やだっ!! 」
力を振り絞って、地面の砂を掴んで投げたが、化け物は動じない。
「ちょっと苦しいけど、すぐ終わるからね~」
「あっ……!!」
首を掴まれ、締め上げられる。
身体は高く上げられていて、足が地面に着きそうにない。
首を締めている手を掴み、離そうと力をいれるが、少しも動かない。
「……お……にいちゃ……」
薄暗い路地の景色がだんだん霞んでいく。
やがて何も見えなくなった。




