6.足りない心を埋めてあげたい②
「それ…俺じゃなくて、直接火星に言えば?」
「でも、親しくないやつに
いきなりこんなこと言われて嫌じゃない?」
「ハハッ、意外とそういうの気にすんだ(笑)」
「…うるさいな」
今までの俺なら他人にどう思われようが気にしないし、
他人が仮に悩んでいても気にも留めていなかっただろう。
でも火星のことになると、
今までのように素通りすることが出来ない。
こんなこと今まで経験したことがないから、
自分自身どうすればいいのか、分からないのだ。
「嫌なわけないだろ?」
「え?」
「自分のことそこまで考えてくれるなんて、
普通なら嬉しいと思うぜ」
男の言葉に、そういうものなのか…と
少し肩の荷が下りたような感覚を覚える。
「お前だって、過去に心配されたことくらいあるだろ?」
そういえば最近、あった。
『何か、…あったの?』
火星が、不安な表情をしながら。
「火星が、してくれた」
「まあ、アイツ優しいしな~。
で、悪い気はしなかっただろ?」
「…そうだね」
「それと同じだろ。
…違うか?」
確かにそうなのかもしれない。
自分は好きな人だから、尚更だったけど。
「確かにね…」
「ま、自信もてよ~!少年!」
「いちいち腹立つな…」
言い方は癇に障るが、この男なりの励ましなのだろう。
そして『他人に変えてもらう』のではなく
『自分で行動を起こせ』と言われたような気がした。
「気が済むまで、自分が思うようにやってみろよ」
先ほどの茶化すような表情ではなく
自然な表情で笑う男に、地球は頷いた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━
地球は男にお礼を言い、帰ろうとしたが
火星に会っていかないのか?と聞いてきた。
「いや、また生徒会でも会えるし」
「多分、もう来るぞ?」
「…」
少しすると、噂の張本人である火星が部室に入ってきた。
「お疲れ様で、す…って、地球?!」
部室から出ようとしていたが、見つかってしまったのもあり
どこか寄ってから来たのだろうと思われる火星に声をかけた。
「…お疲れ様」
「なんでここに、地球が…?
あ、ベスタ先輩お疲れ様です」
「お疲れ様~」
火星は、先ほどまで地球と話していた男
——ベスタと呼ばれた人間がいる事にも気づき、話しかける。
「地球と知り合いだったんですか?」
「まあね~、そういやお前の名前知らなかったな」
「…確かに。ということより先輩なのも今知った」
「ハハッ!いや、それはわかるでしょ~!」
会いに行ったのにも関わらず、他人に興味なさ過ぎて
名前やどこのクラスなのかも探ろうとしなかった。
(なんだかんだ、奇跡的に会えたからよかったけど)
「え???本当に知り合いなんですか?」
不思議そうに、俺とベスタを交互にみる火星。
「顔見知り程度だから」
「え~、つれないこと言うなって。
あんなことやこんなこと…いっぱい話しあったじゃん?(笑)」
わざとらしく話すベスタに、すぐ睨むが
そんなことはお構いなしの感じでニヤニヤし始めた。
「そうなの?」
火星も冗談だと思っていないのか、俺に尋ねる。
否定するのも面倒くさくなり、深くため息をついた。
「火星」
そして話を変えるために、視線を火星に向ける。
「どうしたの…?」
真剣な眼差しで見つめられた火星は
【なにかあったのか?】と言わんばかりの表情をしていた。
「何か悩んでるなら…
俺でよければ聞くからね」
「…!」
先ほどまで俺の事を不思議そうに眺めていた火星は、
一瞬にして目を丸くし驚いている。
「まあ、言いたくないなら無理には聞かないけど。
…じゃあ、また」
「えっ、ちょっ…!」
そして火星の返事も聞かずに、
俺はそのまま軽音部の部室を後にした。
━━━━━━━━━━━━━━━━━
(はっず…!!!!)
部室を出た後、早歩き気味になる。
慣れないことをしたので、咄嗟に恥ずかしさがこみあげてきた。
しかし恥ずかしさはありつつも、
後悔はしていなかった。
そして火星が話すことで少しでも気が楽になるなら
俺は、何でもしたいと思う。
―――例えそれが、俺の役目じゃなかったとしても。
(話してくれると、いいんだけど…)
そもそも、火星が果たして俺に話をしてくれるのか?
―――分からないし、想像もつかない。
(普段の行いからは、普通に考えて無理か…)
しかし先ほどの一連の言動が無意味ではなく、
『俺が今出来ることはした』と自分に言い聞かせた地球は
自宅へ帰るため、校舎を出たのだった。
.




