5.目を焼いたのは君という光③
元恋人の『裏切り』に傷つき、
純粋に感情表現ができなくなってしまった火星。
男の話を聞く限りだと、
人間不信になってしまったのではないか、
と地球は感じた。
それなら、今の生徒会での距離感も納得できる。
それに友達には偽りなく笑えるということは、
おそらく1年の時の付き合いなんだろうし、
きっと火星の過去も知っているのだろう。
(笑っている表情、綺麗なのにな…)
しかし過去のトラウマのせいで、
意識しているのは無意識なのかは知らないが、
火星自身が感情を抑えているのだとしたら
それはもったいない、とさえ感じた。
「やっぱ、信頼関係、か…」
地球がボソッと呟いた瞬間、
男のスマホからピロンッと通知音が流れた。
男はスマホ画面を見て、先ほど来たメッセージに
慣れた手つきで返信を打っていた。
「さあて、と…
そろそろ行くかな~」
「…色々と聞いて悪かったな」
男は返信を打ち終えると立ち上がり、
この場から去ろうとしていたので、地球も立ち上がった。
終始男は、人をからかう感じで苛立つ態度だが
話す限り何だかんだ良い奴、だということは分かった。
「別に~、お前が『火星のこと聞きたくてたまりません!』
みたいな顔していたから、話しただけだし~」
「は?」
「誤魔化すなって。
お前、火星のこと『好き』なんだろ?」
「…え?」
一瞬、頭がフリーズする。
(今、こいつ…何て言った?)
「俺が、火星のこと…?好き?」
認識が追い付かず、聞き返すように話す。
「そうだよ、恋愛感情で好きなんだろ?」
「…」
「おいおい、冗談やめろって…。
いや、…マジで言ってんの?」
男は、最初は冗談かと思っていたようだが
地球の驚いた表情や黙り込むのを見て、
咄嗟に冗談じゃないということに気づいた。
男はマジか…と、少しため息をつきながら
地球の頭に片手を置いて、
わしゃわしゃと無造作に撫でた。
「自覚なしだったのかよ…。
でもまあ、……頑張れよ」
男はボソッと呟いた後、フッと笑った。
そして撫でていた手をそっと放し、
じゃあな、と言いこの場を立ち去った。
地球は、男が去ったあとも
その場で立ち尽くしていた。
そして男に言われたことに対し、
今までのことを思い返す。
(こないだから、もしかして…)
火星の笑顔に見入ってしまったこと。
火星がいると目で追ってしまっていたこと。
火星の声を聞こえただけで興味を持ってしまい、
自然と足が動いてしまったこと。
(そういう、ことかよ…)
自分でも不思議だった。
なんでこんなに気を取られてしまうのだろう、と。
しかも、日常生活に支障きたすレベルで。
「まじで、最悪…なんだけど…」
今までの行動が全部、恋心から来ていると自覚した途端、
自分の顔が茹でたタコのように、真っ赤になるのが分かった。
さらには、それを今日の今日まで自分では気づかず、
見ず知らずの他人に気づかされることになるとは。
地球は、段々と自分に苛立ちさえ覚え始めた。
「くそ…」
先ほど男に撫でられた頭を、
さらに自分でぐしゃぐしゃにして、
深くため息をつきながらその場に座りこむ。
(明日から俺、火星に対してどう接したらいいんだ…)
今まで他人に興味もなく、ましてや恋愛なんて
自分から疎遠だと思っていたのに。
(とんでもないことになってしまった…)
他人にとっては正直こんなこと、
大したことのないかもしれない。
しかし、今まで対人関係を疎かにしていた地球にとっては、
由々しき事態になってしまったのだった。
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