5.目を焼いたのは君という光②
そこ座れよ、と男は地球に座るように促す。
地球は目の前に座れるスペースがあったので、そこに腰かけた。
地球が座ったのを見た男は、ゆっくり話し始めた。
聞くところによると1年前に火星は、軽音部に入部して
そこで部活の1個上の先輩と出逢い付き合っていた、
というよくある恋愛話だった。
「元々そいつはチャラかったし、
過去に付き合ってたやつ、誰も長続きしなかったけどな」
しかも話を聞く感じだと、
あんまりいい相手ではなかったらしい。
「そもそも…あいつ男いけるのも知らなかったけど」
ハハッと笑いながら話す目の前の男も大概だが、
そう思われても仕方がない先輩だったのだろうと、地球は推測した。
「アンタは、そもそも男同士で嫌悪感とかなかったわけ?」
「嫌悪感、ね~…
当時はそこまであいつらのこと意識して見てなかったからな」
「…」
本当にそう思ってなかったのか、
はたまた濁して話されているのか
相手の意図がよくわからないが、
それ以上深く当時の心境を聞いても無意味だと思い、
目の前の男にどう思ったのか聞くのはやめることにした。
「まあでも、火星と相性が良かったのか、
なんだかんだ結構続いていたわけ」
男曰く、その先輩とやらは
普段はもっても、3ヶ月くらいで別れると話していた。
その経緯を知っているあたり、
どうやらこの男と火星の元恋人との関係性は、親しい間柄なのだろう。
「珍しいこともあるもんだな、とあの時は思ったな。
…でも突然、別れた」
先程の出来事から何となくそうだったんだろうな、
と地球は思った。
でなきゃ『裏切った』などと言ったワードが
そもそも出てくることは無いに等しいだろう。
「その理由、知りたいだろ?」
「…そこまで知ってるんだ」
「じゃなきゃ、話さないだろ普通」
男は最初ニヤニヤしていたが、
当たり前のことを聞き返したのが気に食わなかったのか、
ハァ~とため息をついた。
「さっき、少し聞こえちゃったけど、火星のあの感じからして
円満な別れ方ではなかったのは、なんとなく分かる」
「そうだな」
いつもクールで、何をしても怒らなさそうな火星が、
あんなに感情的になるなんて、余程のことだと感じていた。
「あいつ、別れるときに
火星になんていったと思う?」
「…?」
目の前の男は、先ほどの様子とは違い、
真顔になった。
「…あいつ、
『女ぽいからいけると思ったけど、やっぱ無理だわ』
そう、言ったんだとよ」
「…」
地球は驚きを隠せず、目を大きく見開いた。
「しかも、追い打ちをかけるように
『もう新しい相手いるから、俺の目の前から消えてほしい』と
…そう火星に言ったんだとよ」
「…は、最低じゃん…」
当時火星が、仮にも付き合っていた恋人に
そんなことを言われたのだとしたら
相当ショッキングなことだっただろう、と思った。
そして性別のことや二股発言?はおろか、
存在否定に繋がるようなことも言われて
火星はどんなに辛かったことだろう。
その時の火星のことを考えるだけで、
胸が締め付けられた。
「…さっきお前、俺に『嫌悪感あったか?』と聞いたな」
「…うん」
「俺は別に知り合いが、誰と付き合って別れようが、
正直知っちゃこっちゃないわけ」
「…まあ、確かにね」
地球自身も今まで他人に興味がなかったので、
この男がそう言うのも理解できた。
「いくら知り合いとは言え、当事者間のことを
外野がどうこう言うのもおかしいしな。
本人たちが良ければ、俺はそれでいいと思ってる」
「…」
「だから仮に嫌悪感があったとしても、
俺は何も言わなかっただろうし
別れたと聞いた時も、何も言わなかった」
「…なんで、俺に話したの」
しかし他人に興味のないこの男が、
何故見ず知らずの自分に
火星の過去を話すのかは、理解できなかった。
「さぁな」
「は?とぼけないでよ」
はぐらかされて、少しムッとなる地球に
またニヤニヤしながら男は続ける。
「お前、火星があんなに感情剝き出しになっているところ、
知らなかっただろ?」
「知らないけど…それが何なの」
からかわれているのが気に食わないので、
口調が強くなってしまう。
でもそれ以上に、何も知らない自分にも苛立っていた。
「そんなに怒るなって。
昔はもっと感情豊かだったんだよ、アイツは」
「…それは、誰に対しても?」
こないだ友人(らしき人物)たちと
楽しそうに笑っているのは見たので
本当はそうなんだろうな、と薄々感じていた。
「ああ。けど、別れた後からだったな。
火星が、感情を表に出さなくなったのは」
━━━━━━━━━━━━━━━━━




