ep100 浴場開店、からの閉店作業
スレッタさん達やカレンさんの入浴後、時間が空いた宿の従業員や"金戦華"のメンバーが俺の浴場を訪れていた。
アハハ……
ねぇ……?
ウフフ……
浴室や脱衣所からそんな声が漏れ聞こえ、楽しんでくれていることが窺える。
そうで何よりとは思うのだが、目の前では少々困ったことになっていた。
「はい、よろしく♪」
ガバッ!ブルンッ!
勢いよく服を捲り上げ、大きな胸を露出したのは……ビーナである。
客の入浴後、髪などに残った水気を取るサービスをしていたところ、彼女は必要のない露出をして見せつけてきたのだ。
"アイリス亭"の中庭は、従業員用の宿舎になっている棟以外から見えないようになっている。
井戸で水浴びをしてもいいことになっているので、それを覗けなくするという意図の構造らしい。
水浴び中に使える衝立もあり、気をつけるのは食堂側から来る人だけでいいというわけだ。
俺の浴場も一般の客が来ないようにと、井戸を含めた食堂側との間に長い壁を設置してある。
これで回り込んで来ない限りは部外者に見られることがない。
この浴場の利用者なら同性だろうし、もう見られているかいずれ見られるということになる。
それで周囲の目を気にしなくてもいいと考えたのか、俺に誘われようとビーナはこんな行動に出ているようだ。
ただ、問題はこれだけではなかった。
「じゃあ、私も……」
「あ、私も」
スッ、プルンッ
「え、あ……じ、じゃあ私もっ!」
ガバッ!プルルンッ
ビーナに続き、彼女が連れていた同僚らしき3人の女が同じように胸を露出する。
合計で4人の胸が俺の前で露わになっているが……とりあえずは彼女達の身体の表面から余計な水気を回収した。
フッ
「あ、乾いた。やっぱり便利よね、アンタ」
「「「わぁ……」」」
湯上がりでツインテールを解いていたビーナが髪を触りながらそう言うと、他の3人も同様に水気が取れたことを確認する。
胸を露出したままで。
「いや、胸を出す必要はないからな?」
その言葉にビーナが応える。
「いや、機会があったらどんどん誘っていかないと。こんなものを作れるぐらいなんだから、アンタを狙ってくる女はどんどん増えるでしょうし」
「「「……(コクコク)」」」
彼女の言葉に3人は頷く。
まぁ、ビーナが懸念しているのはわかる。
スレッタさん達やカレンさんが入浴を終えると、他の入浴希望者達に入浴が可能になったことを伝えたらしい。
宿の従業員はまだ仕事中の人が多いが、休日や今日の仕事が終わった人などが入浴に訪れた。
同様に、"金戦華"のほうにも浴場のことは伝えられ、時間のある人がやって来ては機嫌良さそうに浴場へやって来たのだ。
ただ……浴場から出てきた人達は、俺が水気を取る際に熱い視線を向けてきていた。
浴場を気に入ったというのもあるのだろうが、その浴場を用意できる俺も気に入ったらしい。
実はビーナ達以外からもこうしたアピールを受けており、
「あのぅ、触ってたほうが水気を取りやすいんじゃないですか?♡」
などと言われ、手を取られて胸やお尻を触らされた。
断っても良かったが……俺に損はなかったしな。
まぁ、誰でもいいわけではないので好みでない人は断ったけど。
"アイリス亭"の従業員は接客を担当する人が多くて美人ばかりであり、"金戦華"のほうは武力が重要だからか筋肉質で好みでない人は多かったな。
あくまでも割合としての話なので、客として来た"金戦華"のメンバーだけで言えば半数以上は好みの範疇だったが。
そんな事がしばしばあり……それをビーナ達に見られて彼女達も、というのが現状である。
ここまでアピールされるのは、他の女に先んじてという考えがあるからだろう。
ビーナはすでに関係を持っているので先んじてはいるが、それよりも更に先にララがいると思っているので積極的に動こうとしているようだ。
しかし、今夜はまだ浴場の営業を続けるつもりなのでお断りしておく。
「ここの仕事があるからダメだ」
「終わるまで待つわよ?」
「浴場を片付けたらさっさと寝るぞ。明日もダンジョンに入るからな」
「え、明日"も"ってことは今日も入ったの?」
そう言えばビーナには言ってなかったか。
「ああ。スレッタさん達の護衛はルルに任せてな」
「じゃあ、1人で入ったのね。大丈夫だった?」
「昨日と同じで1階だけだからな」
「まぁ、ゴーレムを使うアンタなら1階は平気よね。何か収穫はあった?」
あちらに連れがいるからか伏せたようだが、昨日のように"宝石板"は出たのかと聞いてきた。
もちろん俺はこう答える。
「魔石を稼ぎに行っただけだぞ。"遺跡"だけでなく、この浴場でも使うことになったからな」
「そっか。まぁこれだけのものだし、そりゃ魔石も減るでしょうからね」
プルプル……
彼女は納得して様子で頷き、それに連動して露出されている胸が揺れた。
"宝石板"を入手していないとは言ってないが、頻繁に見つかるものではないということが常識だからな。
すると続いて今後の予定を聞いてくる。
「でもそうなると、スレッタさん達の防具が出来上がるまでは1人で"遺跡"に入るの?」
「まぁ、そのつもりではあるが……」
「ふぅん、そう……」
チラッ
そう言うとビーナは少し考え、後ろを確認すると胸を仕舞い始める。
「じゃあ、今日はここまでね。他の客も出てきたみたいだし」
モゾモゾ……
彼女の視線の先には浴場から出てきた集団がおり、出口で俺の方へ誘導する女の指示でこちらへ向かってきていた。
誘導しているのは昨日の食堂で助けたスーロアさんで、入浴の手順を説明する役としてカレンさんが寄越したのだ。
基本的に客は集団で来て同じタイミングで出てくるので、ビーナ達の後は少し間隔が空いていたのだが……俺に余分な水分の除去を頼みに来る人が来ているということで、ビーナは今回のお誘いをここまでとすることにしたらしい。
「「「じゃあ……」」」
モゾモゾ……
彼女が引き下がったということで、連れの3人も服を直して胸を仕舞うと揃って帰っていった。
「じゃ、また明日♪」
ビーナが意味ありげな目でそう言って去ったが……明日も入浴に来るということだろうか?
安すぎると1日あたりの客が増えすぎて設備的に対応できなくなりそうなので、料金はサウナの一般的な料金であるらしい500コールの4倍、2000コールにしてあるのだが。
まぁ、大手の冒険者グループならそれなりの金を貰ってるんだろうな。
そう思って彼女達を見送り、
「あの、髪を乾かしてもらえると聞いたのですが……」
「はい、乾かすと言うよりは余計な水気を回収するというものになります。まぁ無料ですしすぐ終わりますので、とりあえずやりましょう」
と、次の客へ対応することにした。
それからしばらく。
食堂から届いた食事を自作のテーブルで食べたりしながら営業を続け、この世界としては遅い時間になり客足も途絶えた。
浴場内のランタンは普通に油を消費するし、今日はこの辺で閉店としよう。
というわけで……浴場の入口で待機しているスーロアさんに声を掛ける。
「今日はもう閉店ということで。お疲れ様でした」
「はい、お疲れ様でした。では浴場の閉店をお知らせする札を出してきます」
「え、そんなのがあるんですか?」
そんな物があったら、一般の客に知られて浴場を利用したいと言い出しそうなのだが。
そう思っていると彼女が答える。
「ええ、食堂からこちらへ向かう通路の入口に。ああ、一般のお客さんにはわからないようになってますので」
井戸を利用する人に向けて、灯りを用意するようにと伝える注意書きのような札らしい。
夜は落下してしまう可能性があるからだろう。
その裏面に少し手を加えた同じ文面を書き、それを表にひっくり返すことで閉店のお知らせにとカレンさんが決めたそうだ。
そのことを客になり得る人達へ通達してあるらしく、今からその札をひっくり返しに行くとのことだった。
「そうですか。それが終わったらそのまま帰りますか?」
「えっ!?それは……ど、どういう意味でしょうか?」
スーロアさんはやけに驚いて聞き返す。
浴場は排水のため高床式になっていて少し段差があり、転倒防止のため入口には中のランタンと同じ物が設置してある。
その灯りで彼女の顔が赤くなっていることがわかるのだが……あ、誘っていると誤解されたのか?
もちろんそういう意図はないので、この後の予定を聞いた理由を説明する。
「いえ、手伝ってもらいましたし、良ければ入浴していってもらおうかと思いまして。お礼というか報酬なので料金は不要です」
「あ、あぁ……」
俺の言葉に今度は少しがっかりしたスーロアさんだが、しかし彼女は表情を戻して言葉を返す。
「それは嬉しいのですが、私1人のためにというのは申し訳ないので……」
「別に労力は大して掛かりませんよ?」
1人分ならお湯の使用量も多くはないだろうし、となればリサイクルに掛かる魔力の消費はさほど多くもないからな。
「ですが……」
しかし、この説明をしてもスーロアさんは難色を示す。
まぁ、そこまで気が咎めるというのなら仕方がないか。
「いや、無理にとは言いませんので……」
俺がそう引き下がった時……突如、彼女はズィッと距離を詰めてきた。
「あの!でしたら……ご、ご一緒にいかがでしょうかっ!?」
「はあ?」
いきなりの申し出にそんな声が出てしまったが、昨日の件で多少なりとも好意を持たれていたらしいのはわかっていた。
少し離れた場所からではあったものの、ビーナを含めた他の客が俺を誘っていたのは見ていただろう。
上司であるカレンさんも後押しをするかのようなことを言っていたし、それもあって彼女は出遅れないようにと積極的になっているのだと思われる。
食堂で客に手を出されるぐらいの容姿ではあるし、意を決してのお誘いを無碍にするのも心苦しい。
とはいえ……混浴だけで済むのか?
それ以上のことを求められ、相応の関係を望まれるのは今のところお断りなのだが。
というわけで確認する。
「あの、一緒に入るだけですか?」
「っ!?」
その問いにスーロアさんは顔を真っ赤にさせた。
しまった、これだと俺が混浴以上のことを期待しているようだ。
そう受け取ったからこそ彼女は顔を赤くしたのだろうが……俺がそれを訂正する前に返答が来る。
「いえ、その……お、お望みでしたら……ど、どうぞ」
同意を得てしまった。
今更ではあるがそういう意味ではなかったと伝えようとすると、スーロアさんがそれに先んじて言葉を続ける。
「あ、恋人にとまでは言いませんので!」
「え?じゃあ昨日のお礼ってことですか?」
「それもありますが、今後のことを考えまして」
聞けば、どうやらこのお誘いは対外的な自衛を目的としているようだ。
カレンさんの知名度でも手を出されたので、俺の知名度も利用してその庇護下にいるように見せたいらしい。
「カレンさんでも知られてなければ効果が薄いようですし、俺の知名度じゃまだそれ以下の効果しかないと思いますよ?」
「ジオさんならすぐに有名になるってカレンさんが言ってました。ゴーレムを呼び出して使う人なんていませんし、それに不良冒険者の監視役でもあるんですよね?だったら自分よりも効果があるかもしれないって」
「そういったことも含めてですか。カレンさんは監視役をやってないんですか?」
「必要ならそれらしいこともされますが、基本的には"アイリス亭"の関係者に集中するそうです。その、自分で言うのもあれですが……うちには美人が多いので」
「なるほど。まぁそれは納得できます。スーロアさんも美人ですしね」
俺の言葉に彼女は更に詰め寄って来る。
ズィッ
「っ!でしたらその、お嫌ではないんですね?」
「それはまぁ……ただ、こちらには本気で付き合うつもりがありませんでしたので」
「でしたら大丈夫です。今夜だけで何度も誘われていたようですし、私が独占できるとは思ってませんから。ただ、人目のあるところでは自分のもののように扱っていただければいいので」
「部外者に対してはともかく、同僚の方にもそういった態度を見せていいんですか?」
そう聞くと彼女は少し考えてから答える。
「んー……大丈夫だと思います。カレンさんの意向もあってのことですから」
同意なく手を出される可能性を低くするためだと言うし、同僚もその事情は理解してくれるということか。
都合よく利用されている感じではあるものの強者であるらしいカレンさんとは友好的な関係であるに越したことはなく、宿で世話になっているのもあって何かあれば手を貸すつもりではあった。
なのでこの話を受けてもいいのだが……ただ、現時点ではこれを言っておく必要がある。
「今のところ最優先なのはスレッタさんになりますので、それを理解していただけるのであれば」
「当然わかってます。護衛のお仕事に支障のない範囲で構いませんので」
即答か、ならいいだろう。
そう判断した俺は、スーロアさんを避けて浴場の入口へ進み出し……
ガシッ
「行こうか、スーロア」
と、すれ違う際に彼女の肩を抱いてみる。
対外的な態度はこんな感じでいいのかと試してみたのだが、そんな俺にスーロアさんは笑顔で答えた。
「はい、お供させていただきます♡」
お読みいただきありがとうございます。
誤字・脱字・誤用などがあれば報告をいただけると助かります。
よろしければ評価も付けていただけますと幸いです。
カクヨムで先行公開しておりますので、先が気になる方はそちらをどうぞ。




