ep101 追跡者
翌朝、自室で目を覚ました俺は外出の準備を整える。
ララはまだ寝ているが、今日も別行動なので静かに部屋を出た。
荷物を持って1階の食堂へ下り、ポツポツと客のいる中で朝食を取ろうと席を選ぶ。
すると、俺に駆け寄ってくる店員がいた。
タタタタッ……
「おはようございます、ジオさん♪」
やって来たのはスーロアさんで、彼女は挨拶をすると後ろに手を回して胸を差し出すように背を反らせる。
「ああ、おはよう」
それに対し、俺は少し雑に挨拶を返しながら……差し出された胸に両手を伸ばす。
ワシッ、モミモミ……
「ンッ♡ウフッ♪」
無遠慮に胸をこね回される彼女だが、その手を払い除けるどころか機嫌良さげに受け入れていた。
当然、他の客などはこちらに注目し、同席の者とコソコソ話していたりする。
もちろん、これは予定していたやり取りだ。
昨夜、浴場の閉店後にスーロアさんと混浴すると、夜遅くまでお礼と返礼を愉しみ合った。
その後、快感と疲労で意識を失った彼女をゴーレム化して体力を回復させ、程なくして目覚めたところで身支度をして浴場を片付けると、翌日からの態度について話し合ったのだ。
昨日話していた通り、スーロアさんが俺の物であるかのように振る舞うことで彼女に手を出す者を減らすという狙いだが……そのために次の行動を起こす。
「今日もお1人で"遺跡"ですか?」
「ああ、浅い層ならコイツがあれば十分だからな」
ゴソゴソ……スッ
フッ、ズシッ
答えると同時に彼女の胸から左手を離し、腰の鞄から魔石を取り出すとそれを"格納庫"の人型ゴーレムと入れ替えた。
現れたそれは身長が2mの石製なので相応の重量があり、着地によって床が軋む。
そこで……俺はゴーレムを少し浮かせた。
「おっと、コイツの重さだと床を傷めるか」
フワッ
「わぁ……浮かせることもできるんですね」
浮遊したゴーレムを見て感嘆の声を上げるスーロアさんだが、こちらを見ていた客も驚いてか食事の手を止めている。
よし、インパクトはあったようだな。
これで目撃者は少なくてもそれなりに話は広まり、スーロアさんが俺の物であるかのように認知されるだろう。
そのせいで今後は女に誘われにくくなるかもしれないが、それはそれで俺としては構わないからな。
とりあえず目的は達したと思われるのでゴーレムを仕舞い、スーロアさんの胸を掴んでいた右手も離そうとする。
しかし……そこでその手は引き止められ、更には彼女の身体が俺との距離を一気に詰めた。
「ンッ♪」
チュッ、チュウゥ……
「むぐ」
予定にはないキスではあるが、昨夜のこともあってこれぐらいで動揺はしない。
客や店員の目は気になるものの、これも目的を後押しするものだろうと思えるしな。
チュルル、チュルッ、レロレロレロ……
するとスーロアさんは行為を進め、俺の口内に舌まで入れて舐め回してきた。
これも悪い気はしないが……もう十分だろう。
というわけで、俺は掴んだままの胸にある硬い部分を強めに摘む。
キュッ
「アンッ♡」
チュバッ……
「ふぅ、ここまでだ」
声を上げた彼女が口を離したので、俺はそう言って胸からも手を離した。
「ウフッ♪"遺跡"よりも私に入りたくなりました?」
ペロッ
妖艶な目で唇を舐めて見せるスーロアさんだが、"遺跡"でやることも重要なのでそれを断る。
「調子に乗るな。また今度な」
モミッ
「アンッ♡はぁい♪」
最後に軽く胸を揉んだ俺の言葉に彼女はそう答え、その後は俺を席に案内すると普通に接客した。
朝食を済ませ、"アイリス亭"を出た。
運搬用ゴーレムを出すと背負っていた重い鞄を乗せ、人型のゴーレムも出して"遺跡"へ向かう。
ザワザワ……
「お、おい」
「あぁ、あれが……」
やはり俺のことはどんどん広まっているのか、勝手に道を空けられる。
中には勧誘してくる者もいたが、
「あの!ウチのチームに……」
「その予定はないんだ」
と断りながら"遺跡"の入口に到着した。
入口の警備をしているギルドの職員や衛兵に挨拶をして"遺跡"に入ると、まずは目的地へ向かうことにする。
"四方攻め"の部屋で、昨日ゴーレムを置いて帰った場所だ。
ズシッ、ズシッ、ズシッ……
ザッ、ザッ、ザッ……
「ん?」
しばらくして、ゴーレムを前後に2体ずつ配置して進んでいると後ろから着いて来る者を察知した。
その方法は……シマエナガのゴーレムだ。
コイツは目と嘴が魔石であり、露出していることで受ける光や音の情報を俺に伝えることができる。
そんなシマエナガを後ろ向きに肩へ乗せ、車のバックモニターのように後方を見ていて追跡者らしき者に気づいたのだ。
追跡者は角の陰に隠れ、俺が進み続けて一定の距離が出来ると追って来ている。
"遺跡"の中は壁などが緑色に光っているが、十分な光量があるわけでもない。
その上で距離があり、シマエナガにはカメラのズーム機能に当たるものもないのでその姿はハッキリ見えなかった。
人影は1人のようだったが、他にも仲間がいるのだろうか?
まぁ、俺の後を着いてきているので魔物もおらず、1人でも追跡はできるだろうな。
さて、どうしたものか。
このまま着いてこられると困るんだよな。
追跡者は偶然同じ方向へ進んでいるだけという可能性もあり、誰かの後を着いて行っているとしてもそれが俺である必要はなかったいうこともあり得る。
となるといきなり強硬手段に出るわけにはいかず、1人で"遺跡"をうろつくことに忠告しておくぐらいにしておくか。
そう決めた俺は通路の角を曲がるとゴーレム達はそのまま進ませ、自身をゴーレムとして浮かせ天井に張り付く。
明かりが天井からだけだったら影でバレるだろうが、床からの明かりもあるので影は出来ていない。
上を見られれば逆に目立つものの、俺がゴーレム達の中にいると思わせられればそちらに注目して気づかれない可能性は十分あるからな。
まぁ、最悪バレて戦闘になっても新たにゴーレムを出せばいいだろう。
ズシッ、ズシッ、ズシッ……
ザッ、ザッ、ザッ……
ゴーレム達が遠ざかり、それを追うように軽い足音がやって来た。
タタタッ……ササッ
その角に隠れながらゴーレム達を窺う追跡者。
やはりと言うか、期待したとおりにゴーレム達がいる前方に注目していて俺には気づかなかった。
今のところ1人のようだが、俺はその人物を見て地上に降りる。
スゥッ……
「何してんだお前」
「キャアッ!?」
問い掛けた俺にそんな声を上げたのは……"金戦華"のビーナだった。
とりあえず、ゴーレム達と合流して事情を聞くことに。
「で、俺の後を着いてきた理由は?」
「い、いやほら、1人で"遺跡"に入るって言ってたから心配して……」
「……」
「……」
薄暗い中でもわかるぐらいに目が泳ぎ、更には目を逸らす彼女。
「本当は?」
「それは、そのぅ……2人きりになれるかなって」
「ハァ?」
モジモジしながら答える彼女にそんな声が出てしまう。
てっきり"金戦華"の指示かと思っていたのだが、それを聞くとビーナは複雑そうな顔をする。
「それもないわけじゃないんだけど……最優先ってほどでは」
「2人きりで会うほうが優先だってのか?1階だからって1人で着いてくれば危ない目に遭うかもしれないだろうに」
「身体強化のスキルがあるから大丈夫よ」
「厄介な能力を持つ"例外個体"が襲ってくるかもしれないし、襲ってくるのが魔物だけとも限らないだろ?」
「う」
身体どころか自身が発生させる音すらも認識させないゴブリンや、対象の意識だけを止めてくるオークもいる。
それに人間が相手ならいろんな策を講じてくるかもしれず、1階だからといって気軽に1人でうろつくべきではない。
その辺りのことをわかっており、特に直接被害に遭ったオークのことを思い出してか、彼女は言葉を詰まらせたのちに謝罪してきた。
「……ごめんなさい」
「わかればいいよ。で、何でそこまでして2人きりになりたかったんだ?何かの内緒話なら外でも良かっただろ」
そう問い質すとビーナは気まずそうに答えた。
「いや、ただ2人で居たかっただけなんだけど……」
「え、それだけ?」
「う、うん」
「いや、だったら"遺跡"じゃなくてもいいだろ」
「アンタ、町じゃ大抵誰かと一緒じゃない?夜はルルさんと一緒だし、こうでもしないと機会を作れないと思って……」
まぁ、誰かと一緒にいることが多いのは確かだ。
ララに関しても、スレッタさん達の装備が出来上がるまで彼女達の護衛を任せたのは昨日からだしな。
とはいえ……
「機会ってお前、"遺跡"の中で抱けって言うのかよ」
「ダメ?」
「ダメだろ。魔物が現れないって場所があるとしても、そんな場所は人が来るだろうし」
"遺跡"に安全地帯があるとは聞いている。
大きさや形態は様々だが、各階に最低1箇所は存在しているらしい。
ただ、それはその場所で出現しないと言うだけで、魔物が入ってこれないというわけではないそうだ。
つまり、誰かが魔物に追われて逃げ込もうとすればその魔物を連れてくることになり、いつ人や魔物が安全地帯に来てもおかしくはないのである。
しかし彼女はこう返す。
「アンタなら壁でも小屋でも作れるじゃない?昨日の浴場みたいに」
「それはそうだが、救援を求められそうな場所でというのは外が気になって十分に愉しめないだろ」
「あ、私と愉しみたいとは思ってくれてるんだ♪」
「ヤるならって、話だ。普通の冒険者なら助けを求められても手を貸す義務はないが、一応俺はギルドの関係者と言えなくもないからな。小屋なんかがあれば俺がそこに居るとわかるだろう?」
「それはそうでしょうけど……そこで手を貸さなかったからって、見殺しにしようとしたとは思われないんじゃない?そもそも冒険者なんてどうなろうが自分の責任なんだし、他人に助けてもらえたら幸運ぐらいのものでしょ」
「助けられたお前がよく言えるなぁ」
「助けられた上で幸せな気分にしてもらえたんだから、それはもう凄い幸運だと思ってるわよ♡」
その時の事を思い出してか、ビーナはうっとりした顔で身体をクネクネさせる。
胸当てからはみ出ている胸が柔らかそうに形を変え、俺の視線は少しそこに惹きつけられた。
「……」
中々に煽情的だがそれはさておき。
彼女の物言いから自分の事を棚に上げて言っているのかと思ったが、今の自分もその幸運で存在できているという自覚はあるようだ。
そんなビーナだが情事については諦めたのか、残念そうに言ってきた。
「ハァ、仕方ないわね。じゃあついて行くだけにするわ」
「まぁ……それならいいか」
彼女なら1階では基本的に大丈夫なのだろうが、それでも何が起きるかわからないので一緒にいたほうがいいのは確かだろう。
そう考えて同行を許可した俺は、ビーナを連れて先へ進むことにした。
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