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絵の少女とぬいぐるみ  作者: マフィン
コンテスト
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文化祭

 翌日、文化祭が幕を開けた。友花莉は寝坊した。立ち漕ぎを駆使しながら、急いで学校へと向かった。汗で身体中がびしょびしょになった状態で、友花莉は教室へ入ってきた。教室のエアコンはダンボールの匂いがした。臭かったが体を冷やすのには我慢するしかなかった。クラスメイト達は、最後の仕上げに取り掛かっていた。もちろん、全員ではない。大半の男子達は、サボって何かを読んでいた。だが、今日は誰も文句を言っていなかった。それどころか、いつもよりサボっている人数が多い気がした。だが、そんなことは気にせずに友花莉は最後の仕上げを手伝った。

 そして、いよいよ文化祭が始まった。暑苦しい体育館でのオープニングセレモニーは、拷問だった。今日は暑いから話を短めにすると約束した校長は、いつもより二分短いが、十五分も話していた。だが、それ以上に話が長かったのは生徒指導の先生だった。セレモニーが終わり、早速体育館で行う出し物が始まった。目当てはもちろん一組のダンスだった。

 いざ始まると、最初の出だしから見ている人の心を掴みにきている演出だった。恐らくミスコン代表の例の子が監修しているのだろうと安易に予想ができた。正直、ダンスはその子も含めてそこまでうまいとは思わなかったが見せ方がうまく、時々歓声が上がっていた。だが、それよりも友花莉はそのステージも見ずに、ずっと何かを読んでいる人がちらほら目に入ってきた。でも、確かにダンスとか興味ない人はとことん興味ない世界だと思った。特にこの国は。そして、例の子が歌い始めた。確かに歌はうまかった。高音域も綺麗に出ていて、正直、どこぞのアイドルよりもうまいと感じた。だが、全体的に、自分のお膳立てにクラスメイトを使った、彼女のワンマンショーを見ている感じがした。しかし、会場は上質なエンターテイメントを見た後のような大歓声が響いていた。そしてより一層、緊張が増した。文化祭が始まってから友花莉の記憶は途切れ途切れだった。そして気がついたら、ミスコンの結果発表が始まろうとしていた。どうやら今日は結果発表だけを行い、明日の一般公開の時に、お披露目会みたいなものをやるようだ。そもそも、友花莉は文化祭が明日もあり、それは一般公開されるということを今知った。なんだかミスコンっていうより親善大使的なものにイメージが近いと思った。友花莉は体育館の片隅で一人、その時を待っていた。審査員長はほんわかした家庭科の先生だった。どうやら、人前で話すのが苦手のようで、カンペをガン見で喋っている。それにも関わらず、間違えたり噛んだり、結局読んでいるところがわからなくなって、もう一度読み直したりを繰り返していた。だが、生徒からの人気は厚く、「かわいい。」や「大丈夫だよ。」という声が飛び交っていた。なんならこの人がグランプリでいいじゃないかと思えた。

 「今回の審査ポイントは、その人の人としての魅力です。ミスコンって聞くと、可愛くて、スタイルが良くて、頭がいい完璧な人のイメージが強いと思うのですが、私が審査する上ではそれは嫌なんです。だから、可愛いだけ、スタイルがいいだけではグランプリは取れません。もちろん、それらも大切な要素ではありますが、私はそれにプラスして、人間としての面白さ、ユニークさに重きを置いています。なので、もしかしたら、皆さんの中では、結果に対して不服と感じるかもしれませんが、審査をする先生達も一生懸命選んでいます。不正は私が見逃していません。ですので是非とも、その結果を称えて大きな拍手を送って頂けたら嬉しいです。」言葉の流暢さからそれが、あの先生の本音だと伝わった。友花莉は体育館の隅で震えていた。そう、クラスメイトにすら気が付かないようなところで。こういう場で前に行くようなタイプではない。そもそも、こういう場に顔を出すこと自体が久しぶりのことだ。でも、昔はそうではなかった。友花莉は少しだけ昔の自分が戻ってきている気がした。

 「緊張してる?」友花莉は、急に後ろから声をかけられて、少し飛び上がった。振り返ると、大久保だった。

 「はい・・・。」

 「大丈夫だって。だって私が言い出したんだから。」大久保は自信満々だった。

 「はぁ・・・。」

 「それに少し周りを見てご覧。」友花莉は体育館にいる生徒達を眺めた。特に変わったことがないように見えた。

 「見てごらんよ。誰も緊張してない。してるのは代表の子達だけ。」そりゃそうだと友花莉は思った。逆の立場だったらこんなに緊張したか疑問だった。「でも、ほらあの子達を見てごらん?」友花莉は大久保に言われた通り、クラスメイト達に視線を向けた。すると、クラスメイト達も友花莉と同じくらい、もしかしたら友花莉よりも緊張した面持ちで、結果を待っていた。

 「私、本当はこういうの嫌いなのよ。一人のプライドが高い生徒が自己顕示欲を満たすためだけにクラスを巻き込むみたいなのが。それをどうにか変えたくて、私が担任になってからは、代表生徒を私が勝手に選んでたのよね。」つまり大久保の私利私欲で、自分はこんなに悩むことになったのかと少し憤りを感じた。「でも、この学校に赴任してきて、こんなにクラスが団結して取り組んだミスコンは初めてだよ。だから、私は誰がなんて言おうと、廣坂がどう思おうと、私は廣坂を選んで良かったって思ってる。」大久保は友花莉の頭を撫でた。でも、そういうところが嫌いだ。何を言われても。

 「ありがとうございます。」

 「それに、みんなもどんな結果でもちゃんと受け止めてくれるよ。」正直それはどうかわからない。正直みんな本音はノースフェイスちゃんがなる方が良いと思っている。ただ、確証はないけど、少しは認めてくれている気がした。

 「それでは、グランプリを発表します。」いよいよその時が来た。ノースフェイスちゃんは言った。私がグランプリを取らないとダメだと。そう、今から呼ばれる名前は廣坂友花莉でなければならない。この文化祭で一番の静寂が体育館を包み込んだ。恐らくあの先生はその静寂を楽しんでいると思った。そして十分楽しんだ審査員長の家庭科の先生は大きく息を吸い込んだ。

 「三組・・・」その瞬間クラスメイト達が一斉に両手を上げているのがわかった。友花莉も久しぶりにテンションが上がっているのを感じた。その瞬間だけ鼓動が上がっているのがわかった。

 「ノースフェイスちゃん。」はっきりと聞こえた。自分の名前とは違う名前が呼ばれた。クラスメイト達は喜んでいる。他の代表候補は悔しさかわからないが涙を浮かべている。それ以外の生徒達は拍手をしていた。そして口々に納得の頷きと声をあげていた。そう、これがノースフェイスちゃんの力。どんなに歌とダンスで圧倒しても、奉仕活動で地域に貢献しても、審査員長が言っていた人間性ではあの子には誰も勝てない。自分も例外じゃないことだって分かっていた。なのに、自然と涙が出てきた。悔しい?わからない。少しでも期待をしていたのか?クラスメイトがノースフェイスちゃんを探しているのが分かった。でも、あの子は私のせいでいない。あれから一度も姿を見ていない。また、私が悪い。友花莉は耐えられなくなり、体育館を飛び出した。

 「あれ?廣坂?どこに行くんだよ。」大久保の声なんて無視した。友花莉は走った。今は誰にも見つかりたくない。誰にも会いたくない。気がついたら、体育館と反対側の武道場まで走っていた。友花莉は力つきその場に座り込んだ。体育座りをして膝に顔を伏せると、涙が勝手に溢れてきた。もしかしたら、みんなもう私のことなんて忘れている。だって、みんなが待っているのは私じゃない。ノースフェイスちゃんだもん。でも彼女を探すために自分を探すかも。でも、自分だってわからない。自分だって会いたい。いや、会いたかった。でも今は会いたくはない。

 「そうなの?じゃあ、私邪魔だった?」邪魔?いや、邪魔なのは自分だ。

 「せっかくグランプリのお祝いをしに来たのに。」お祝い?ふと友花莉は違和感を感じた。言葉を発していないはずなのに、今誰かと会話をしていた。友花莉は顔を上げた。

 「おめでとう。よく頑張ったね。」そこにはノースフェイスちゃんの笑顔があった。


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