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絵の少女とぬいぐるみ  作者: マフィン
コンテスト
29/34

結果発表

ゴッド姉と話ができて少しスッキリしたような気がしていた。

 「自分らしく・・・。そうしてたつもりだったんだけどなぁ。」もちろん腑に落ちていないところもあったようだ。夜風が友花莉を優しく撫でるように当たってきた。すごく過ごしやすい気温だった。夜は人通りがなく、自分だけの空間が広がっていた。暗闇に街灯の明かりが等間隔に、友花莉を誘うように照らしていた。友花莉はその明かりに照らされながら、夜の闇のように頭の中を無にしながら、ゆっくりと家路を進んでいた。いつもの倍の時間をかければ、母親から心配されて当然だった。久しぶりに母親から怒られたような気がした。でも、優しい。

「ごめんなさい。体調悪くて保健室で休んでから帰って。」

「それはさっき保健の先生から電話があったから知ってるけど、その電話がきてから、もう二時間以上も経ってるわよ。」夜道をチンタラ走っていたのがバレた。

「それに、さっき出版社の人から電話があったわよ。」友花莉の頭の中で閃光が走った。友花莉はすぐに電話に向かった。思っていたよりも早い便り。それは果たして良いのか悪いのか?友花莉は自分の鼓動の音を聞きながら着信履歴を探して、出版社に電話をかけた。出たのは男の人だった。どうやら担当の女の人は退勤してしまったようだった。

「電話が来たことを伝えておきますね。」

「ありがとうございます。」友花莉はそう言いながら念の為、電話番号を教えて電話を切った。半殺し状態にされた。この感情を共有できるのはあいつしかいない。友花莉はすぐさまスマホを取りに部屋へ向かった。部屋に入るとノースフェイスちゃんはいなかった。

「のりおただいま。」幸い小さなもふもふの象は、この部屋に住み着いてくれていた。のりおは友花莉のスマホを叩きながら、片方の手で耳を塞いでいた。

「何?」見ると、トークの通知が四件ほど来ていた。どうやらクラスメイトからのようであったが、今はそれより宮城だ。友花莉は通知を消すと、宮城のトークを開き連絡が来た旨を伝えた。だが、すぐに既読はつかなかった。

「何やってんだよ。宮城。こんな大事な時に。」するとのりおがノートと筆記用具を指差した。

「勉強してるのはわかるけど、今はそれどころじゃないだろ。」のりおは首を横に振った。

「のりおの意地悪。」のりおは言葉が通じないふりをした。その瞬間、自分のトークの吹き出し部分に小さく何かが出たのが分かった。

「見た。」思わず大きい声が出た。下から晩御飯のいい香りがし始めたが、今は緊張で食欲なんてなかった。その時、トーク画面に相手の吹き出しが出てきた。

「そう、で結果は?」相変わらずポップな吹き出しには似合わない淡白な文章だった。

「まだわからない。今折り返し待ち。」送信するとすぐに既読の文字が現れた。意外と宮城も気になっているに違いないと思った。

「そっか。」でも、相変わらず淡白。その後すぐにまた、トークの吹き出しが出てきた。

 「俺、今日忙しいから、また明日学校で聞くわ。」

 「え?気にならないの?」

 「気にならないというか、興味ない。」さすがに友花莉もおかしいと思った。そんな熱量ではないことは友花莉にも分かっていた。詮索したかった。その気持ちを堪えて既読スルーがやっとだった。その時、下で家の電話が鳴り響いた、いよいよ結果がわかる。友花莉はこの半年のことが走馬灯のように駆け巡った。いろんなことがあった。いろんなことを乗り越えて、出来上がった作品。自信はあったが、確実かと聞かれたら少し気持ちが怯んだ。下に降りると、すでに母親が電話をとっていた。

 「はい、ええ、もう帰ってきてますよ。」友花莉はすぐにかわるようにジェスチャーで指示を出した。母親は不思議そうな顔をした。

 「娘が話したいそうなので、代わりますね。」友花莉は母親から

受話器を受け取った。

 「もしもし、」

 「廣坂さん?」声の主に違和感を感じた。担当の人と違う。でも聞いたことがあった。

 「はい。」

 「大久保です。」友花莉は受話器を電話に戻した。

 「あんた切っちゃったの?」

 「だって出版社じゃなかったんだもん。」

 「ごめん、私がなかなか友花莉が帰って来ないもんだから、学校に電話しちゃって。それで帰宅確認の電話だったみたい。」いや、自業自得だ。ちゃんと帰ってきていれば大久保もうちに電話なんかよこさなかったはずだった。リビングには知らないうちにパスタの匂いが辺りを埋め尽くしており、さすがに緊張より食欲が勝った。

 「どうする?ご飯でも食べて待ってる?」母親はほんのわずかな友花莉の表情の変化に気づいていた。

 「うん、そうする。」すると、再び電話が鳴り響いた。一日でこんなに電話がなったのは久しぶりの事だった。友花莉は条件反射のように、ワンコールで受話器をとった。

 「はい、廣坂です。」少し声が高くなるのは、なぜだろう。そう思ってでもいないと、緊張で押しつぶされそうだった。

 「あっこんばんは。ごめんなさい帰るの遅くなっちゃって。」担当の人の声とすぐに分かった。いつも名乗らない。

 「お世話になってます。こちらこそ、すいません。家に帰れていなくて。」

 「良いの、良いの。こっちもちょっと早めに連絡しちゃってるし。」

「それで?結果は?」そんな挨拶よりも結果が知りたかった。すると、しばらく沈黙が流れた。

「実は・・・。」聞きたくない一言目だった。友花莉は心して聞いた。

「友花莉ちゃんの・・・いや、あなたたち二人の漫画は、今回のコンクールで、最優秀作品賞を受賞することになりました。」

「え?最優秀作品賞?」あまりにも低いテンションでの発表で、一瞬言葉の意味がわからなかった。友花莉の言葉を聞いて、電話の近くで結果を心待ちにしている母親も喜んでいた。

「でもね。」

「はい?」

「このコンクールであなたが最優秀賞をとったら、うちの会社に採用するって話だったじゃない?」

「はい・・・。」正式にはそうではないが、恐らく会社の中ではそういう話になっていたのであろうと予想はついていた。だが、友花莉は少し上擦った担当者の声が気になった。すると、今度は鼻を啜る雑音まで聞こえた。

「大丈夫ですか?」

「ごめんなさいね。でも、酷くて・・・。」友花莉は今からの話をどういう心境で聞けばいいのかわからなかった。

「大丈夫です。おっしゃってください。」

「分かったわ。」電話の向こうで大きく深呼吸をしたのが分かった。

「実は、会社はこの半年でシナリオライターが欲しくなったみたいで、それであなたの枠に、あなたの相方の宮城くんを採用することにしたらしいのよ。」とても言いにくいと思ってくれている事が分かった。友花莉は少しおしだまった。

「よかったです。」もちろんうそだった。

「ごめんなさい、あなたたちの仲を悪くしたくなかったから言うか迷ったんだけど。」

「いえいえ、気にしないでください。逆に私の枠が全然知らない人に取られなくてよかったです。宮城もシナリオを書く仕事をして食っていきたいって言っていたので、多分・・・喜ぶと思います・・・。」もう限界だった。早く受話器を手から離したかった。

「でも、その歳でそんな風に思えるなんてすごいわ。私なんてあまりにもイライラしすぎて会社辞めたわ。」

「え?今なんて?」

「辞めたわ。まさか、こんなクソみたいな会社だと思わなかったし。」

「自分からですか?」もしそうなら、申し訳なさすぎてどうして良いかわからなかった。

「いや、まぁ・・・ちょっとね。」声がフェードアウトしていった。

「大丈夫なんですか?」

「私のことは良いのよ。」よくはないだろうと言うツッコミをするのがやっとだった。

「本当に友花莉ちゃんは優しいんだね。」いや、ただのノースフェイスちゃんの真似だった。また、友花莉は彼女の影を追いかけていた。結局私はあの子の影に縋り付くことしかできなかった。だが、その後にゴッド姉の言葉が頭をよぎった。

「でも、もし何か私にできることがあったらなんでも言ってね。今かけてる番号が私のプライベートの携帯の番号だから。」

「ありがとうございます。」

「じゃあ、これで一旦お別れだけど、またどこかで会おうね。」

「はい、長い間お世話になりました。」結果がどっちだったとしても、この人が担当者で本当に良かった。

「じゃあね。」明るく装っているのはすぐに分かった。

「あっ、ごめんなさい。最後にもうひとつ。」

「何?」

「宮城は、このこと知ってるんですか?」

「ええ、多分。夕方に連絡してたから。その後私が文句言ってクビに・・・あっ!」つまり、あのやり取りの時、すでに宮城は知っていた。

友花莉は電話を切ると何も言わずに、二階へと向かった。母親から何か言われていたが、なんて言っていたかなんて分からなかった。

友花莉は真っ暗な部屋で一人ベッドの上で横になった。夕食はもちろん食べる気なんて起きるわけがない。母親もなんて言葉をかけて良いのかわからないのか、部屋に様子を見にも来なかった。正直今まで、なんだったのだろうか?絵を描くことを仕事にするために、今までいろんなことを犠牲にしてきた。あと一歩のところだった。でも、もしかしたら、あと一歩どころか、スタートラインにすら立っていなかったのかもしれない。急に条件を出してきた時に、気づくべきだったのかもしれない。もうすでにあの会社に、自分が入る扉なんて無いって。友花莉は怒りたい気持ちだった。でも、それは叶わない。この怒りをどこにぶつけて良いのか?あの時、コンクールに台本を出す時、宮城の名前を書かなければよかった。いや、そもそもあいつにシナリオを頼まなければ・・・。いや、そんなことをしなくても、会社はもうすでに、自分を雇う気なんてなかったんだった。明日学校で宮城に会う。かなり気まずい。多分向こうのほうがもっとかもしれない。あのやり取りも。すでに宮城は気まずかったのかもしれない。いや、自分はやっぱり性格がわるい。そんな気まずいなら断れば良いのだ。友花莉が気にすることなんてどこにもない。友花莉は気が立って仕方がなかった。宮城のトークルームを開けては、罵詈雑言、誹謗中傷を書いては消し、今度は励まし、応援の言葉も書いたが、やはりそれを送る気分にもなれなかった。友花莉はトークルームから出た。

「そういえば、さっきメッセージ来てたんだった。」送り主は帰り際に一緒にいたクラスメイトだった。

「さっきは本当にごめん。廣坂さんを否定しちゃったみたいになっちゃったけど、そんなことないよ。私、廣坂さんの勝負事にかける熱意がすごいところが、なんか可愛らしくて好きなの。だから、その熱意と魅力で今年のグランプリをかっさらお!それで、どんな結果でも最後はみんなで笑おうよ。」

「勝負事にかける熱意かぁ・・・。」友花莉は携帯の画面を消すと、そのまま、眠りにつくことにした。


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