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絵の少女とぬいぐるみ  作者: マフィン
コンテスト
22/34

役割分担

 スパゲッティーを余裕で食べ切ると、すぐに席を立ち食器をながしに運び、部屋へと一直線に向かった。座ってゆっくりする時間も、トイレに行く時間も、睡眠時間ですら今の友花莉には惜かった。母親は何も言わず、そさくさくと部屋へ向かった友花莉を見送ると、テレビをつけ少し寂しさはあるものの、静かに我が娘の活躍を応援した。友花莉が部屋に入ると、ノースフェイスちゃんとのりおがUNOをして遊んでいた。お互いの手札はかなり差があった。ノースフェイスちゃんはざっと見ただけでも二十枚行くか行かないかだったのに対して、のりおはあと一枚だった。

 「あっ、友花莉おかえり。」のりおも友花莉に気づいて無言で片手を上げた。

 「UNOやってるんだね。」

 「そう、これ面白いね。」

 「普通そんなに差が開くか?」友花莉は思わず突っ込んだ。

 「だって、のりおドローさせるカードばっかり出すのよ。しかも、さっきは私もドローのカードを出したのに、さらに出されて気づいたらこんな束よ。しかも、すぐに私が持っていない色に変えちゃうし、頭きちゃうわ。」その時、のりおが無言で最後の一枚のカードを出して、短い両手を上にあげて喜んでいるようだった。

 「あ、のりおUNOって言ってない。」今度はノースフェイスちゃんが、嬉しそうな顔になった。確かに友花莉にも聞こえなかった。だが、そもそものりおの声すら聞いたことがなかった。のりおは恐らく不平不満を訴えておるのであろう。短くてまるでクリームパンのような手をノースフェイスちゃんに何度もぶつけていた。

 「言ってないものは言ってないんだから仕方がないじゃない。友花莉だって聞こえてないでしょ?」友花莉は、のりおが少しかわいそうだった。

 「でも、そもそものりおってしゃべるの?」のりおは無言で首を横に振っていた。友花莉はのりおのその仕草を見ると、ノースフェイスちゃんに目配せした。ノースフェイスちゃんは少し考え込んだ。

 「わかった。じゃあ、UNOの時は片手をあげて。それだったらどう?」のりおも考えた。そしてまた何かを一生懸命訴えていた。友花莉は少し考えてみた。のりおは定期的に友花莉を指差していた。ということは、友花莉が関係しているということはわかった。だが、友花莉が部屋に入った時はすでに二人はUNOをしていた。ということは、入ってきた時・・・。その瞬間、友花莉はのりおと心が通じた。

 「私が部屋に入った時、確かに片手をあげてたわね。のりお。ということは、のりおが勝ったってことを言いたいんだね。」のりおは激しく頷いた。「だから残念だけど、今回勝ったのはのりおだね。」ノースフェイスちゃんは少し悔しそうな顔をしたが、すぐに笑顔に変わった。友花莉は毎回その切り替えの早さに脱帽だった。

 「わかった。じゃあ今日はのりおの勝ちね。」ノースフェイスちゃんは大喜びするのりおの頭を優しく撫でた。

 「それで先生とは何の話をしてたの?」まだノースフェイスちゃんはのりおを撫でたままだった。友花莉はふと思った。

 「ノースフェイスちゃんは、文化祭の準備とかって行ってたの?」よくよく考えれば、友花莉が漫画を描いている間、ノースフェイスは部屋にいたり居なかったりしていた。

 「え?行ってないわよ。だっていつやってるかもわからないし、そもそも何をするのかも分かってないんだもの。」友花莉は不満だった。

 「じゃあ、大久保にミスコンに出ろとか言われた?」

 「ミスコン?そんなものがあるの?知らなかったわ。」確かに友花莉も大久保に言われるまで知らなかった。ということは、なぜ大久保は他に文化祭の準備をしていない生徒がいるにも関わらず、私だけ呼ばれたのか・・・?

 「ねぇ。もしかして、友花莉、ミスコンに出るの?」ノースフェイスちゃんは期待と羨望の眼差しで友花莉を見つめた。

 「いやまぁ、大久保が無理やり出場者に登録してたって感じだけど。」友花莉は嘘を言う必要もなかった。

 「私も出たかったなぁ・・・。」だが、ノースフェイスちゃんからしたら、嫌々出ることになった友花莉をどう思ったか。少し罪悪感に似た気分になった。だが、ノースフェイスちゃんだけではないはず。クラス選抜の時点で、ミスコンに出たいと考えていた生徒は少なからずいたはず。それを差し置いて友花莉が、ただ文化祭の準備に参加していなかっただけで、出場権を獲得した事実をどう受け止めるのか。そしてその出場権を獲得した人間の士気が低いということを知ったら・・・。友花莉は一気に怖くなった。今は将来にとって一番大事な時期、そんな時にこんな重たい荷物を背負い込みながら、輝かしい未来を切り開いていかなければならない。友花莉はまた意識が遠のき始めた。しかし、友花莉がそんなことになっているとは知らず、ノースフェイスちゃんは楽しそうだった。

 「じゃあ、私も友花莉の手伝いをしていたら、ミスコンに出てる気分になるかなぁ?」ノースフェイスちゃんの瞳は相変わらず、穢れがなく澄んでいた。その目を見てしまうと、友花莉はとても困ってしまう。

 「そうね・・・。手伝ってくれたら私も嬉しいし・・・。」

「やった!私もミスコンに出られるわよ。」

「そうね、二人で頑張りましょ。」友花莉の声はどんどんと小さくなっていった。こんなに純粋なノースフェイスちゃんを裏切ることはできない。となると、大久保の術中にはまるしかない。友花莉は、そう思っていたが思いの外、友花莉の気持ちはそこまで悪いものではなかった。むしろ、どこか胸が高鳴っているのを感じていた。それが逆に友花莉を恐怖させていた。友花莉は、今のビビンバのようにかき混ぜられた気持ちの塊から気を逸らすために、漫画の作業を始めた。

 「それで、早速何をするつもり。あと一ヶ月もないのよ。」

 「ノースフェイスちゃんは、何をしたらいいと思う?」友花莉は、心ここに在らずだった。

 「正直、友花莉はクラスのみんなの評価は高いと思うのよ。だから、クラス全員は良いとして・・・、」友花莉はあえて否定もしなかった。ノースフェイスちゃんは、弾むような声でさらに続けた。「他のクラスも隣接しているクラスですら、友花莉のことを知っている人は多少なりともいるから・・・、」友花莉は、だんだんノースフェイスちゃんは自分自身の話をしているのではないかと疑いをかけた。とはいえ、それならそれで今の友花莉には好都合ではあった。「ターゲットは他の学年。でもそれもすぐに解決だわ。」何が解決なのだろうか?友花莉はだんだん絵に没頭し始めて、ノースフェイスちゃんの話を聞いていなかった。でもそれは仕方がない。今、友花莉がやっているのは、宮城が書いたシナリオを、自分なりに解釈して、絵にするということ。文章を絵にするという難しさと戦わなければならなかった。それは今までの絵描きの工程の中で、一つ手順が増えるだけのことではあったが、友花莉にとってはかなり難関な、文章の読解という試練だった。友花莉は初めて勉強を疎かにしていた自分を恨んだ。だが、その葛藤は友花莉だけではなさそうだ。それは宮城の文章を読んでいてそう感じた。宮城の文章は小説というより、まるで台本のようであった。登場人物たちの心情や、表情は友花莉もすんなりと鉛筆を動かすことができた。だが、状況の表現や、場所、風景の情報が宮城の文章から完璧に汲み取ることができなかった。とはいえ、彼なりに、表現がほんの時々気がついた時くらいの頻度で、申し訳程度に現れた。

 「もう少し情報をくれよ・・・。」友花莉は笑いながらぽつりとこぼした。そう言いながら。宮城が今日の朝、小説を読んでいたことを思い出していた。小説は書くくせにあまり、本を読まないという話を前に聞いて、少し奇妙に感じたことを思い出して、友花莉は笑顔をこぼした。

 「情報・・・?そうだなぁ・・・。」友花莉の呟きに反応したのは、浮かれ気分のノースフェイスちゃんだった。「男も女も誰だって、甘い気持ちになりたいものよ。」となりでのりおも頷いている。友花莉は急に我に帰ったような反応になった。

 「あっ。ごめん、何の話?」

 「もう・・・いくら友花莉でもこれ以上はトップシークレット。」のりおも口に指を当てていた。「明日のお楽しみ。じゃあ、私は準備があるからおやすみ。」間違いなくノースフェイスちゃんは、何かを企んでいた。だが、友花莉は気にせず、ミスコンがらみのことは、ノースフェイスちゃんに任せることにした。これで少しはプレッシャーから解放されて、将来への投資に集中することができそうだった。友花莉の集中力は気づけば、外が薄青く見えるくらいまで続いていた。家を出るまであと三時間はある。友花莉はそのまま机に伏せ仮眠をとることにした。

 「なんか甘い匂いがする・・・。」その甘い匂いが、友花莉を睡眠に誘った。




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