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絵の少女とぬいぐるみ  作者: マフィン
コンテスト
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二つのコンテスト

 新学期、友花莉の学年からしたら最後の夏休み。この夏休みの過ごし方によっては、二学期を楽しめるか、そうじゃないかが決まる。どんな夏休みを過ごしていたかどうかは、登校してくる生徒たちの顔を見ればある程度は分かる。それは清々しい顔をしている生徒が、必ずしも有意義な夏休みを過ごしていたとは限らない。意外とこの時期は追い込まれてそうな焦りを感じている生徒の方が、夏休みを有意義に過ごしている可能性もある。もちろん、何も考えていなさそうな、このまま永遠に学生生活が続くと考えていそうな生徒も、もちろん中にはいる。そういう人種は大抵年明け前くらいに少し焦って、その後は、もがくこともなく諦めて、運命に身を任せるのが関の山だ。だが、希に特に何も感情に出さず、ただ淡々とまるで夏休みなんてなかったのではないかという表情の生徒もいる。友花莉がその一人だ。そういう生徒は大体進路が決まっているか、本当に勉強ができて学校へは出席だけしにいく、いわゆるガリ勉だ。もちろん、友花莉は勉強はからっきしだ。その証拠に、二学期始まって最初のテストはなかなかひどいものだった。

 「どうするのよ廣坂。このままじゃ先生は将来が心配だよ。」例の如く、あの暑苦しい担任の大久保が、早く帰って、将来の進路に向けての作業をしようとする気持ちを妨害して、職員室の隣の個室に呼び出してきた。あれ?大久保は、私の進路志望先を知らないんだっけ?友花莉はそんなことを考えながら、早くこの不毛な時間の終わりが訪れることを心の底から願った。

 「この前のテストの成績は良かったのに・・・。夏休み遊んでたのか?」

 「ちょっといろいろ家庭の事情がありまして・・・。」それにこの前のテストは、のりおのおかげだった。正直、友花莉は次の定期試験ものりおに特訓をお願いする予定だった。

 「なんかあったのか?話聞くぞ?」そうだった。大久保はこういう奴だったことをすっかり忘れていた。

 「いや、もう解決したので・・・。」友花莉は、全力で迷惑そうな顔を作った。そもそも、もうあの話は思い出したくなかった。「てか、これからは勉強も頑張るので、今日は帰っても良いですか?」口調はともかく、今の精一杯の丁寧な態度でお願いした。

 「分かった。」意外と話が早かった。もっと早くお願いすれば良かったと、友花莉は若干後悔しながら、「ありがとうございます。」と一言入れた。

 「じゃあ一点だけ。」そう甘い話はない。友花莉は渋々振り向いた。

 「うちのクラスの今年の文化祭の出し物は何か知ってるか?」友花莉の頭の上に、クエスチョンマークが無数に出現していた。「やっぱりね。廣坂、夏休みの準備来てなかったんだろ?」そもそも友花莉は存在すら知らなかった。

 「ごめんなさい。全然知りませんでした。」口でそうは言ったものの、なぜ自分が謝罪の言葉を口にしたのか疑問だった。

「私のポリシーはねぇ」友花莉はそんなもの興味はなかったが、担任の先生だから一応聞いた。「私の受け持つ生徒は、もれなく全員学校行事に全力で参加してもらうから。」友花莉は少し拍子抜けだった。

「わ・・・分かりました。今後は全力で取り組みます。」大久保の微笑みが夕陽に照らされ、友花莉には不気味に思えた。「じゃあ、帰りますね。」友花莉が扉を開けた時、大久保が息を吸うのを感じた。

「廣坂をミスコンにエントリーさせておいたから。」

「はぁ?」思わずドスの効いた声が、喉から飛び出した。「なんでですか?」本当に余計なことをしてくれたと友花莉は思っていた。

「だって夏休みの準備に来れなかったことは、もう取り戻せないから。」これだから学校は嫌だった。「体育祭の時みたいに、また輝いてる廣坂が見たいなぁ。」だが、大久保の視線はあさっての方向の夕陽を見ていた。別にミスコン自体に抵抗は無かった。容姿は正直申し分ないと思っていたし。だがタイミングだ。「ミスコンは普段の学校生活での態度も大事だぞ。」そう、つまり人付き合いをしなければならない。でも、今はそれよりも将来がかかっている。ようやく軌道に乗ったところでストップをかけずに駆け抜けたいと思っていた。それにあまりのんびりやっていると、宮城にも迷惑がかかる。

「先生、それだけは勘弁してもらえませんか?」

「廣坂。学生生活はどんなに頑張っても、願っても二度と戻ってはこない。今しか出来ない事を一生懸命やることも、学生の仕事だぞ。」急にいつもの大久保の雰囲気がなかった。「まぁ、嫌ならやらなくて良いけど、クラスのみんなは期待してると思うぞ。」大久保は、悪い顔をしていた。「それに廣坂の性格的に、こういうの負けたくないタイプでしょ?」図星だった。どうしても負けたくないという気持ちが今は一番強かった。だからこそ、今はそんなことに気を取られているわけにはいかなかった。「まぁ、まだあと一ヶ月あるし、頑張れ。」

「先生。」友花莉は、少し気まずそうな顔をした。「文化祭っていつですか?」大久保は唖然としていた。

「十月・・・。」呆気に取られて、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔からしばらく立ち直れなさそうだった。その隙に友花莉は部屋を出て、急いで家に向かった。早く帰らないと。帰って作業を続けなければ。いや、それより作戦か?そういえば日付を聞き忘れていた。一ヶ月あるのか?それとも一ヶ月はとっくに切ってしまっているのか?そもそもミスコンって何したら良いのか?だんだんと友花莉の頭の中は、漫画からミスコンへと変わっていった。いろいろと考えているうちに、気がついたら家の玄関にたどり着いている始末だ。

「ただいま。」心ここに在らずの帰宅を告げると、母親の声がリビングから聞こえてきた。

「友花莉、今出版社の人から電話があって、帰ったら掛け直して欲しいって。」なんだろう?まだ、締切まで猶予はあるはず。ここ半年近く全く音沙汰がなかったのに急にどうしたんだろう?友花莉の頭の中は、再び漫画のことでいっぱいになった。それどころか、何か嫌な予感が友花莉を襲っていた。

「ご飯もう出来てるけど食べる?」香ばしいきのこ醤油スパゲティの匂いと、母親の声を認識する前に、友花莉は受話器に手をかけ、着信履歴から編集社の番号をリダイヤルしていた。母親はすべてを察して料理を食卓に並べる準備を進めた。呼び出し中の音が無機質に一回鳴り響くたびに、鼓動の音が大きくなっていき、終いにはその鼓動に合わせて体が動いている気がした。すると、中途半端に呼び出し中の音が途切れ、疲れ切ったような掠れた低い声が会社名と名前を名乗った。友花莉も名前を名乗り、要件を簡潔に述べると、今度は保留中の音質の悪い威風堂々が、友花莉の耳を刺してきた。友花莉はこの音量がうるさく、毎回受話器を耳から少し離して、音を外に逃がしていた。その音が途切れたのはすぐだった。聴き慣れた担当者の声が聞こえてきた。

「こんばんは、廣坂さん。お元気ですか?」

「こんばんは。元気です。」

「学校の勉強の方は?」

「ボチボチです。」名前はいつも聞き逃してしまうが、この優しい話し方はいつもの女性の担当者だった。

「それで要件は?」どうしても聞きたいという気持ちが先行してしまった。

「ああ、ごめんなさいね。なんか久しぶりだったから・・・。」どうやら久しぶりの連絡は、何か意図があったわけではないようだ。

「大丈夫です。」友花莉は自然と笑声ってやつを使っていた。

「実はうちの出版社が主催の学生向けの漫画コンテストを開催することになったんだけど、そこに廣坂さんが今描いてる作品を、出品して欲しいなぁと思いまして。」とても、とても急な話だった。「でも、まだ作品って完成してないよね?」友花莉はどう応えて良いか分からなかった。このまま正直に出来ていないと言ってしまうと、そのまますべてが終わってしまう気がしてしまっていた。

「それって締切はいつまでですか?」

「今月末締切で、来月末にはコンテストの結果が出るって感じかな?」本当の本当に急だった。しかも、最悪なことに文化祭と時期が駄々被りだ。だが、友花莉は迷わずに口から返答の言葉を発していた。

「もちろん、間に合わせます。」友花莉は本当にできるのか自問自答をしていた。だが、それを担当者は疑うこと無く幸か不幸か鵜呑みにしてしまった。

「よかったわ。実は、こんなに連絡が遅くなった理由でもあるんだけど、このコンテストの優秀者は、うちの出版社にスカウトするって急に会社の中で話になって・・・。」友花莉は全身から変な汗が噴き出てきた。「なんか、私も嫌な予感がしてて・・・。一応あなたもエントリーしてもらっておこうと思って。備えあれば憂いなしってやつね。」担当者の声が急にヒソヒソ声に変わった。

「それってどういうことですか?」友花莉ははっきりとその嫌な予感を言葉にしてほしかった。

「わからない。私の考えすぎかもしれないけど・・・。」担当者の声はどこか明るく振る舞っているようにも聞こえた。「じゃあ、とりあえずエントリーの名前入れておくね。」

「ありがとうございます。」

「くれぐれも締切は厳守でね。」

「分かりました。」友花莉がそういうと、担当者はそさくさと電話を切ってしまった。正直、もっと彼女と話したかった。もっと話してもっと情報を収集したかった。結局友花莉の中で胸騒ぎが大きくなっただけだった。

「担当の人なんだって?」友花莉はヨタヨタとさらに盛り付けられたきのこ醤油のスパゲッティの前に座った。少しスパゲッティーを眺めると、それを軽く退けてテーブルの上に頭をうっ潰してしまった。

「あんたも忙しいわね。」本当にその通りだった。これから、自分はどうして良いのか考えれば考えるほど頭が熱くなり、やがてそれは疲労感と睡魔に変わっていった。


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