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絵の少女とぬいぐるみ  作者: マフィン
コンテスト
23/34

朝の教室

 二時間後、睡眠サイクル的に、起きるにはタイミングが悪かったような気がする。瞼は重く、体の節々も少し重い。頭もぼんやりして無理やりうごいたら、転んでも気が付かないような気がした。だが友花莉は、起きなければならない。起きて学校へ行き、昨日描き上げた絵を宮城に見せなければならない。まだ下書き段階のものばかりではあるが、ある程度描いたところで執筆した本人と擦り合わせをしなければ、宮城の書いた世界観を壊しかねない。だが、そんな任務が課せたれているにしろ、友花莉の頭がぼんやりとしているのは変わらなかった。

 「そういえばさっきから甘い香りがする・・・。」友花莉は何だかよくわからない感覚だからこそ、あえて声に出してみた。確かこの匂い、昨日も嗅いだような気がした。それこそ睡眠に入るか入らないかぐらいか?微かだが確かに甘い香り。しかも、無数に感じた。いちご、チョコレート、そして、もう一つは・・・。嗅いだことはありそうだが、何の匂いだろう?友花莉はそう思いながら、それぞれの色を思い浮かべていた。そして、朝にしては珍しく、非常にお腹が空いてしまった。

 「これは、何の匂いなんだろう?」そもそも本当に甘い香り合っているのか?もしかしたら、違う何かの匂いを甘い匂いと勘違いしてしまっているのか?

 「どこにあるんだろう?」友花莉は匂いをたどった。どうやら、家の中のようだ。部屋を一歩出ただけで、その匂いは確実に強くなっていた。やはり、いちごにチョコレートの匂いは間違いない。

 「もう一つはバニラだ。」友花莉はリビングにたどり着いた。すると、今度は小麦粉?いやとりあえず、何か粉に近い匂いを強く感じた。すると、母親もリビングにいた。

 「おはよう。」友花莉もいつも通り挨拶を返した。

 「ねぇ、何か作った?」唐突すぎて、いかにも怪しげな感じで答えてしまった。

 「何かって?」

 「いや、スクランブルエッグを作ろうとしたのに、卵がないのよ。」

 「知らないわよ。」恐らく、この甘い匂いの出所に使っているに違いなかった。

 「仕方ないから、ホットケーキにする?」そう言いながら母親は、冷蔵庫を探った。「変ねぇ、ホットケーキミックスがあったはずなんだけど・・・。」友花莉は今家で起きている事の真相が、分かってきた気がした。あの子は今どこにいるのだろうか?もうすでに学校へ向かったのだろうか?

 「ごめん、今日ちょっとやることあるから、早く学校に行かなきゃいけないんだった。」

 「分かった。あとでお金渡すから、途中のコンビニでおにぎりでも買って。」

 「分かった。ありがとう。」母親はあまり展開に付いて行けてなさそうだった。友花莉は家を出て、すぐコンビニへ直行し、梅おにぎりを買おうとしたが、棚にあったのは、高菜と塩おにぎりだった。友花莉は、絶望感に苛まれながら、サンドウィッチと菓子パンを買って、学校へと向かった。朝のホームルームまではかなり余裕があるはず。教室で、朝食をとりながら、昨日の宿題を終わらせるのも悪くはない。だが、それはあの子のしでかす度合い次第だ。自分に被害が被らない程度なら良いんだが・・・。友花莉は嫌な予感がしていた。そんな考えを巡らせていると、学校までの道のりは、案外一瞬の出来事だった。校門付近は特に変わったことはなかった。朝の挨拶をしながら校門付近の落ち葉を掃除している先生がいつもより多いくらいだ。確かに、気がつけば落ち葉が増え、校門付近の地面が落ち葉で見えなくなる時期になっていた。そのまま教室へ。特に変わったことはない。どうやら、ゆっくりと朝食を取れそうだ。友花莉はコーヒーを買ってくればよかったと、少し後悔が残った。だが、コーヒーのいい匂いを漂わせ、コーヒー豆なんてあだ名をつけられたら、今の友莉花はだいぶ都合が悪くなりそうだった。だが、やはり教室へ入るとそう思ってしまう。なぜなら、コーヒー豆とあだ名を付けられた張本人が、すでに本人の席に座っているからだ。友花莉は、その彼に近づいた。

 「あれ?今日はいつもより早いんだね。」彼は、友花莉の姿を見て、少し驚いた様子だった。

 「そう、冷蔵庫泥棒が現れてね。」

 「なるほど、てっきり漫画の事かと思ったけど。」

 「そうなんです。宮城先生。」そういうと、カバンから、昨日徹夜で描いた出来たてほやほやの下書きを宮城に渡した。

 「もう描けたの?」

 「下書きだけよ?」それでもすごいと言わんばかりに、宮城は友花莉の絵を舐めるように眺めた。

 「キャラクターの表情とか、情景について何かあれば、遠慮なく言って。」

 「いや、でもこれはあくまで君の漫画であって、俺は別に意見とかはないよ。」友花莉は少しさみしさを感じた。

 「実は、これコンテストに出そうと思って・・・。」

 「コンテスト?」友花莉は、事の経緯を細かく説明した。

 「ずいぶん急な話だな。しかも、締切までもう一ヶ月もないじゃないか。」

 「そう、でも宮城だって受験があるし・・・。」

 「そうだけど・・・。やるって決めたし。やるからには俺が書いた内容のせいで負けたってなっても困るし・・・。」もちろん友花莉はそんなことを言うつもりは全くなかった。それに、このコンテストは絵がメイン。シナリオは二の次ではあった。そこでストーリーもよくて絵も良ければ、確実に審査員の目を引くと、確信していた。「とりあえず、昼までに下書きを見ておくわ。」

 「ありがとう。」

 「俺も気合い入れて続き書かなくちゃ。」

 「お願いするわ。なるべく早めに出したいし。」

 「そうだな。ミスコンの活動もしないとだもんな。」友花莉はすっかりその存在を忘れていた。そして、ノースフェイスを背負った彼女も。

 「そういえば、文化祭の準備って参加してたの?」

 「してたよ。まぁ。教室に一回顔出して、あとは図書室で勉強してたけど。」宮城だけは、友花莉と同じ人種だと思っていた。だが、彼がたとえ参加していなかったとはいえ、出席していたのであれば、大久保があそこまで大騒ぎすることに、納得はできた。「でも、よくバックれたよな。俺、去年も大久保のクラスだったけど、予備校が理由で準備参加しなかったら、二学期前半全く勉強できなくて、これなら参加した方が勉強できたってくらいめんどくさいことになったからなぁ。」本当にその通りだった。友花莉はまさに今、参加していればよかったという気持ちでいっぱいだった。宮城の勉強も、友花莉の漫画も、ともに将来に向けての時間投資のはず。だが、そんなことよりも、友花莉はいま、とても宮城に言いたいことがあった。

 「てか、夏休み中、割と連絡取り合ってたのに、何で文化祭の準備の存在を教えてくれなかったのよ。」

 「いや、だって言ってたじゃんか。学期末に。」学期末・・・。確かあの時は色々あって、そんな話なんて記憶の片隅にも残っていなかったのであろう。

 「でも、何日間かあって、だいたい二、三日来なかったら、来ないの?くらい連絡してくれてもよかったんじゃないの?」友花莉の声は、次第に大きくなっていた。そろそろ、朝練を終えた運動部が教室へやってくる頃だ。友花莉は少し周りを見渡した。だが、宮城はそこまで頭が回っていないようで、同じ声のボリュームだった。

 「知らないよ。だし、連絡先知ってるクラスメイトは、俺だけじゃないだろ?」確かに、言われてみればその通りだ。何ならクラスのグループチャットに入っている。友花莉は無言で頷いた。「だったらその責任は俺だけじゃない。他の連中も連絡してなかったってこと・・・。」いや、もしかしたら、ほかのクラスメイトも悪くないかもしれない。原因は私かも。友花莉はそう考えていた。何せクラスには四十人生徒がいて、それが一斉にチャットできる空間なら、連絡を取り合わないわけがない。というより、学生全般、何かしらグループに入っていれば、そのチャットルームの会話が動かないわけがなかった。それどころか、止まるわけがなかった。そう、通知オフという便利な機能の罠にかかってしまった可能性が浮上したのであった。

「あっ・・・いや・・・ちょっと待って。」宮城の様子がおかしい。

「どうしたの?」

「もしかしたら何だけど、そういう話になって・・・。」

「そういう話って?」友花莉は本当にわかっていなかった。

「その・・・。」宮城のはっきりしない言い方で、友花莉は何となく鋭い視線を送った。「廣坂が来ないって話になって、それで・・・。」

「それでなによ?」友花莉は詰めた。宮城は覚悟を決めた上で、罰が悪そうに話を続けた。

「廣坂、知らないんじゃない?って話になって、誰かが廣坂に連絡を入れようとしたから、多分漫画が忙しい時期だろうから邪魔させないために・・・。」

「もしかして、宮城が?」気がついたら、友花莉は宮城に急接近していた。

「だって、まさか大久保がミスコンの代表にするとは思わなかったから・・・。」宮城はその言葉を言った瞬間、小さく「あっ。」と声を発したのは、友花莉にも聞こえていたが、そんなことはどうでもよかった。

「今のはどういうこと?何で大久保が、私をミスコンの出場者に選ぶと思わなかったのよ。」

「だって、廣坂はそういうタイプじゃないと思ってたし、いくら大久保でもそこまで鬼だと思ってなかったんだよ。」宮城はまるで、ライオンに襲われたしまうまのように、怯え切っていた。怒れる獅子は、更に獲物を追い詰めた。

「それに今、私が大事な時に、くだらないミスコンに時間をロスしなきゃ行けないのは、宮城のせいってこと?」久しぶりに怒った口調を使った。でも、そこまで怒ってはいなかった。宮城は不器用なやつなのは、この半年で分かっていた。そんな不器用な彼が、不器用なりに友花莉への思いやりを向けた結果、思わぬ方向にやりが飛んでいってしまった、ただそれだけのことだ。

「もしかして、廣坂、ミスコンマジで狙ってる?」思いがけない質問に、友花莉は思わず間抜けな顔を宮城に向けた。

「そのつもりだけどなんで?」

 「いや、だって参加したって、別に適当にやってれば、グランプリ取れないだけで、別にダメージはないから・・・。てっきり・・・。」

「なんかそれってどうせ私はグランプリ取れないみたいに聞こえるんですけど。」今度は、あまりにも不器用な宮城に、友花莉は本当に怒っていた。


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