鬼ごっこの顛末
前日譚
魂の旅のはじまり
·········意識形成完了
·········覚醒します。
課せられた使命は、異端思想に汚染された精神体「ヤツ」の探索、可能ならば捕縛しての連行。
そのために、精神体を模した端末として、精神体コミュニティ管理本部によって形成された「俺」。
単独ではロストする危険性が高いため、補助端末として「私」と「オレ」が付属する。
「ヤツ」の危険思想を消去するため、連行され次第、コミュニティに適した意識への強制偏向が「ヤツ」に対して実施される予定となっている。コミュニティの構成員数を維持し、安定存続させるための措置である。
「ヤツ」の出奔後に急遽「俺」を用意したことで、出奔から時間が経ってしまっていた。その間も近隣の星系は探索されていたが見つからず、「ヤツ」はかなり遠くまで移動してしまったことが予想された。
状況打開のために光速移動スキルを与えられ、「俺」は真空宇宙へと放たれた。
「ヤツ」の痕跡は至る所にあった。
痕跡が検出されるたび、ひとつひとつ確認していく。
恒星系から恒星系、銀河を超えて次の銀河へ。
道中、最寄りの恒星からエネルギー補給をしつつ、どこまでも。
その過程で、「ヤツ」は有機生命体への嗜好が強いことが判明した。
「ヤツ」の潜伏場所を特定しようと、現地の生命体を模倣した身体を作り出し、その生命体に紛れて捜査することも必要となった。
違和感なく生命体集団に溶け込むため、補助を含めた3つの端末が同一の姿とならないよう、「俺」と「私」と「オレ」で差異を作って役割も分担する。それが始まりだった。
「俺」が「私」であり「オレ」であったはずが、「私」と「オレ」が独立した思考で活動を始めたのだ。広範囲の探索は可能になったが、思考が対立する現象には困惑させられた。同一の存在だったはずなのに。
どれだけ光速移動し、何度同じ探索を繰り返しただろう。
痕跡の多さに反して、「ヤツ」の行方は杳として知れなかった。
「バラバラに探索したらダメなのか?」
「連絡はどうするんです。それに「俺」ならともかく、私や「オレ」では単独で対応は難しいです」
「ややこしすぎるだろ、それ。互いの呼び方くらいどうにかしようぜ」
「では、メイン端末の「俺」を「リーダー」としておきましょう。「オレ」に対しては「アナタ」と呼ぶことにします」
「好きにしろよ」
何故、こうも違う?
「俺」は、「俺」たちはなんだ?
ただの端末。そのはずだ。
本部からすれば、コミュニティの構成員ですらない、高出力なだけのただの小道具。
それがこんな、独立どころか自律した精神存在になることが、許されるのか?
軽い混乱を覚えた頃、その惑星は見つかった。
青と緑と白、複雑な模様を持った、深淵に光る美しい星。
同時に「ヤツ」の気配が検知される。
惑星に近づきつつ、「ヤツ」の気配を絞り込むも、どうにも定まらない。
「仕方ない。今回も潜伏捜査か。」そう切り替えて、少しでも「ヤツ」の気配が強い地表を目指す。
「ヤツ」のいる場所など絞り込めなくて、当たり前だった。この時すでに「ヤツ」は惑星全体を覆う存在だったのだから。
大気圏に突入したその時から、全てが知られていた。
姿をどれだけ人間に似せようと、もはや潜伏などではなかったことを、絶望とともに知らされるまで、あと、少し。
「かみさま」のいた精神体コミュニティは、みんなとても長生きですが、その分繁殖力に乏しく、逃げ出した「かみさま」を連れ戻してでも個体数を維持しようとしていました。
そういう事情で、精神体自体が探索に乗り出すわけにも行かず、恒星の熱と光のエネルギーで活動継続可能な、独立思考で行動する端末「俺」を作り出して送り出しました。
彼らは、長い旅路の中で、魂とも呼べる個性を得てしまった。
本編「虫喰」にて、自らのコピー体が増産される様は、後天的に獲得した個性を失う恐怖をも「俺」に与えたのです。




