第十六話 不甲斐なさとともに
子供みたいにギャン泣きした僕は、恥ずかしさと安堵で疲れてしまった。それに並行して僕は疲れてしまう。まあ、恥ずかしさのほうが強いのだけど。
皆のいろんな目線が、泣きつかれて軽く熱を出した僕に刺さっている。まことに申し訳ない。
「というか、よくここまで体調崩さなかったわね。ふつうは環境に慣れず、体調を崩すものよ?私たちも見過ごしてしまったわ別よ。」
水魔法と、氷魔法でひんやりしたタオルが僕の額に乗っている。応急処置だから雑かもしれないが、今の僕にとってはうれしかった。
それより、この世界の人たちは体温計のようなものがあるのだろうか?まあ、今はそんなことを考えて居られる余裕はない。だってダンジョンの二階層で体調を崩しているのだから。
「いったん帰るぞ。」
「すみません、本当に。」
「いいんだぜ、リヒト。俺たちはあんたを連れまわしてるからな。」
ひょいっと軽々ケイルに背負われる。やっぱり僕軽いんだなあ、と思いながらしばらく背負われていた。
「リーダー、安全確認よろしく。」
「ああ。もちろんだ。」
背負っていないレオンとアンナが前を突き進み、魔法使いのルマが後ろにいる。完全な守備配置だった。いやあ、歩かなくていいのは楽だが熱にうなされている今、あまり好ましくない。
どちらかというと第三者としてみたかった。迫力が若干減るからな。そう思っていたが、文句は言ってられない。おとなしくその背中に身を預けた。
意外にも外に出るまでにそれほど時間はかからなかった。あたたかい日差しがあたりを照らしている。まあ、滝の下をまた通ってきたから、みんなのズボンはびちゃびちゃに濡れていた。女子は来た道と同様、気持ち悪いといいながら乾かしている。
「よし、帰るぞ。」
「はーい。」
皆トボトボと帰っていく。色々疲れていた。昨日までの地獄の二階層がみんな結構体力来てたようだな。僕もこうして体調を崩している。この世界の人たちも疲れるんだな。意外な事実だ。
「それにしても、大収穫だな。」
ケイルがぼそりとつぶやく。ええと、昨日の時点でなにか収穫できたのだろうか。宝の地図?でも、ダンジョン攻略報告って稼げるのか?ええと……。まあ、いいか。この人たち目線で収穫できたのなら。
「まあ、二階層だけでも結構稼げたからよかったな。」
だから、何を稼いだんだリーダー?体調不良からかピリピリしている気がする。気を付けなければ。
意外と、背中で揺られているのが心地よかったのか、うとうとと眠くなりだした。客観的に何言ってるんだといわれるかもだが、実際そうである。
まるで、テストを受けている最中眠すぎてやばくなっちゃった状態みたいな感じだ。寝たくないという気持ちと、眠くて死にそうだという気持ちが今争っている。人前で寝たらいびきをかいてしまうかもだし寝顔を見られるのは少し抵抗ある。
しばらくそんなことを考えていると、後ろを歩いていたルマがボソッと言った。
「創作者様。眠いの?」
「え……あ、はい……。」
この人はどこに目があるんだろうか?僕の顔を見ないと分からないだろう。もしや、体の動きで気づかれていたか?そんなにうとうとしていたっけ?
後ろをみると、不安そうにこちらを見てくれている。ああ、これはただ心配してくれている人の表情だ。目をウルウルとさせて今すぐ泣きそうである。いや、不甲斐ない。
僕自身も困り始めたころ、前方を歩いていたレオンとアンナがこちらを見た。そして数秒で状況を察したらしい。
このパーティ本当になんなんだ。
「リヒト。眠いなら寝てくれ。ついたら起こす。少しでも体力は温存しないといけないからな。」
「そうよ。若いんだから体は大事にしなさい?」
いや、あなたたちが大事にしてほしい、体力温存を……そう思ったが体は正直だった。その言葉を区切りに僕の頭がぐらりと揺れる。ケイルが支えて居なかったら多分落ちていただろう。
僕はそのまま眠りに落ちた。
目を覚ました。みんな出払っているのか一人である。寂しうはもうないが、ちょっとだけ不安がちらつくのは無理もない。
だが、それ以上に少し興味深いものに気づく。タンスの上にあのノートが開かれていた。そこに、見慣れない文字列が綴られている。
読んでみると、それは僕が本来聞くことのない会話だった。
「寝たな。」
「ああ。」
「てかさ、これからどうするの。」
アンナが冷たく言う。いや、どちらかというと不安そうな声色だったらしい。
「この子、元は学生さんなのよ?今日よくついてこれたよね。」
「そうだな。ちょっと無茶させすぎたか。」
ご丁寧に誰が言ったのか、まるで台本のように綴られている。本当に作者になったかあるいは読者になった気分だった。
「でも、それじゃあいつまでたっても本来の目的は達成できないよ。」
ルマがそういったらしい。まあ、実際そうである。僕が慣れないとこの世界は永遠に終わらないし平和も訪れない。何も起こらない「空白」がどれほど恐ろしいかを彼らは理解しているだろう。
「……じゃあ、元気になったら特訓でもするか?」
ケイルが馬鹿正直にそういったらしい。いやいやちょっと待ってよ。創作者をパワーアップさせたところでなにか変わることありますか?ないですよね?
こんな悲痛な叫びがこの文字に届かないという事実が、僕にとってどうにももどかしい。
ひやひやしながら、その文字列を追った。そこからはギルドでの報告と、宿屋への宿泊手続きを踏んだような跡があった。なんだか安心したのもつかの間、特訓って何だろうという恐怖が僕の脳を支配する。確実にまずいと警告を鳴らしているようだった。
僕はいつまで、予想外のオンパレードを目の当たりして楽しめるのだろうか。




