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第十五話 勘違い

疲れ切った僕の身体は、硬い床でもすんなり寝ることができた。だけど、かわりに嫌な夢をみることになる。そんなに僕は疲れていたのだろうか。

 異世界に来てから一度も見ていないが僕”北条理人”はよく夢を見る。他愛のない普段の景色だったり、冒険したり。時々空飛ぶ夢で無双していたり。まあ、頭の中の自分も好き勝手作っていた。


 でも、時々制御が効かないもので”悪夢”を見たりする。その日が今日だった。


 起きたというより、意識がはっきりしたのは先ほど眠ったダンジョンの中だ。幻の部屋と全く同じでみんなの姿がなかった。よくある夢である。自分だけがそこに取り残されたのだから。だが少し妙である。細部までかなり見渡せるのだ。まるで現実のように。


 そう思った僕はふとあることを思い出した。夢か現実かを確かめるためにやること、頬をつねったりするということを。

 僕は何を思ったか、それを実行した。


「え、痛い。」


 いや、バリバリ痛かった。夢だと思い込んでいたから思いっきりやってしまったのだ。ひりひり、じんじんと頬が赤く染まっていくのがわかる。


「夢じゃないの?」


 僕の脳裏には三つの予想がわいてくる。これが現実なら考えられるのは三つだ。


 一つ目。お荷物だから置いていかれたという可能性。これは一番可能性が低いと思われる。なぜかって?初日にあった日から、僕が変な人でも連れまわしてくれたからだ。今更手放すなら、最初にあざ笑って帰っていくだろう。


 二つ目。転移系。僕はここに残されたとして、みんなが散り散りにどこかに飛ばされた可能性だ。これが二番目に可能性が高いと思われる。


 そして三つ目。これが僕が推測する一番可能性がでかいものだ。それは、モンスターが出てきたというもの。僕は戦闘力が皆無。ならば、戦闘できる人たちが前に出て戦うべきだろう。また逆に、モンスターが出たからみんな避難したという可能性もある。その場合は僕がなぜのんきに寝ていたのかという疑問が発生するが、まあ気にしないでおこう。


 ということで結果を知る前にみんなのことを探さなければならない。僕は地面の硬さで痛くなった体をさすりながら立ち上がる。それにしてももぬけの柄だ。武器も食料もみんなの荷物も全部消えている。みんなが逃げたにしてはだいぶ余裕がありそうな話だ。

 とりあえず、僕が探索できそうなエリアを見て回ることにする。できるのは二部屋。今いる部屋と隣の宝箱が設置されている部屋だ。


 まずは、今いる部屋を改めてみることにする。




 四つ角の松明は色とりどりに燃え上がっており、辺りを照らしていた。何の変哲もないただの松明である。泥があったら足跡とか見れただろうけど、そんなものはない。

 ここには手掛かりはなさそうだ。


 次のあの宝箱の部屋に行ってみる。相変わらずもぬけの殻で、何もない。宝箱を開けても何も入っていなかった。


 というか、モンスターに気づいたらだれか声をかけてくれないのだろうか。いや、声をかける暇がないほど緊迫した状況なら僕は起きているはずだ。だって、アラームが鳴る前に起きる男だから。というわけですべてが謎である。


「もしも、置いていかれたなら。」


 口に出してみた。疑問を、思考回路を。


 ーもしも置いていかれたのならー


 自分はなぜ置いていかれた?寝るほどのんきだったから?


 それともみんなを放っておいて新しい作品に手を染めたから?


 可能性はたくさんある。そしてどれも自分の非だと分かっている。そう思うと心臓がバクバクとうるさく感じた。


「いや、でも僕は創作者で……。あ。」


 思い出した。ここは僕の思い通りになる世界だ。いい方を変えた場合。懐にある一冊のノート。ここに書くんだ。彼らと合流するって。


【みんなが戻ってくる。】


 ほら。そうすればかなうんだから。しかし不安だ。異世界で完全に一人になったのはこれが初めてだった。まるでひな鳥が親に見捨てられ空を飛べと言われているような。

 それはとても緊張するし、怖いだろうに。


 そんな恐怖心に僕はむしばまれることになるとは昨日までは思わなかった。




 数分。数十分。どれくらいたっただろうか。足音一つしない。完全な虚無だった。

 流石に部屋を出て歩いたほうがいいだろうか。それともここにいてみんなが来るのを待った方がいいだろうか。


 本当は一人が好きなはずなのに、今はものすごく怖い。


 そう感じるのは矛盾なのだろう。きっと。僕はそんなことを考えていた。


 しかし、それにも転機が訪れる。

 ギィっと扉の開く音が聞こえた。それは、宝箱がある部屋につながる扉……のすぐ隣に設置されていた見えない扉からだった。

 僕が困惑していると、そこにいたレオンが走ってきた。

「大丈夫か?」

「……あ。」

 久々に声を出したみたいに掠れた音が出た。ああ、目の前にいる。みんないる。


 安堵したのか、それとも感動したのか。僕は情けなくポロポロと涙を流す。中学以来一度も人前で流したことがなかった。なのに、あって数日の彼らの前で流してしまったようだ。

「ごめん、リヒト。」

 アンナが申し訳なさそうに、僕の前にひざまずく。いや、勘違いしたのはこちらだ謝るな。

 目をこすっていると、アンナがぽつりと言う。


「一日たったでしょ?それで、朝少しダンジョンの確認しに行ってたのよ。リヒトはぐっすり寝てるからすぐ戻れると思って。でも意外と広くてさ……」


 アンナはそこまで行って口を紡ぐ。なんだよ、言い訳なら聞くって。男泣きというものをしながら視線を上げるという。

「……言い訳はだめね。不安にさせてごめんなさい。ここは安全だと分かっていたからあとで迎えに行こうと放っておいてしまったの。」

「ごめんな、リヒト。」

 皆がそれぞれ頭を下げてくる。いや、やめてくれ。もっと泣いてしまう。もらい泣き?でもなければ感動の涙ではない。


 ただただ、安堵した年相応の僕がそこで座っていた。

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