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第十二話 抽象的ってよくないな

僕がノートに書いたせいで、二階層が若干……いやだいぶ強くなってしまった。なんか生き物みたいでバランスが崩れてしまう。困ったものだ。

 引きずられるようにダンジョン内を転がっていると、ふと部屋の中に放り出された。二人三脚もくそもなくなり、ごろごろとみんななだれ込んできた。


「もう、何なのよ!」


 アンナの悲痛な悲鳴が耳元で聞こえる。なんだか体中いろんなところにぶつけたせいか、ピリピリと痛みが走っていた。なんとも間抜けな光景である。だって、招いたのは自分のせいなのだから。


「はあ……みんな大丈夫か?」


 流石のレオンもつかれているようだった。みんなもたった二階層だというのに、へとへとである。そういう僕も肺がちぎれそうだ。はあ、はあと情けない犬のように口をひらいて肩で息をしている。まさかあの場面を書いている僕がこんなことになるなんて思いもしなかっただろう。


 近くにいたルマも背負われていたとはいえとっくの昔に疲れ切っていたようだ。



 そんなこんなで数分、みんなは呼吸を整えながら、ふと気になっていた。「この部屋は何なのだろうか」という疑問だ。ここは先ほどのダンジョン自体が生き物……ではなく、殺風景な空間だった。まるで、バグった先にある真っ黒な部屋のような無機質さだ。


「おいおい、ここだけ空気重くね?」

「さっきも言ってなかったかそれ。」


 レオンとケイルのコントのようなやり取りをしながらも、その空間の不気味さにみんなぶるっと震える。鳥肌が立つというのはこのことだろう。ルマが目を細めながらぼそりといった。


「これ、幻の……”隠し部屋”じゃない?」


 隠し部屋。ゲーマーも子供も老若男女問わずわくわくする響きではないだろうか。たとえ傍観者の僕でも耳が向いてしまう。

 その証拠に、僕は無意識のうちにルマのことを見ていた。黄色の瞳とばっちり目が合ってしまう。まあ、そりゃ片方が見ているのだからもうひとりが見たら当たり前に交差してしまう話だ。

 ルマがちょっぴり照れくさそうにしている。申し訳ない。


「でも、本当かはわからないからね。そうならうれしいね。」


 にこにこと笑みをこぼしている。こちらまで笑みをこぼれてしまいそうになるが、あくまで僕は創作者。君たちの笑顔を見に来ている。我慢だ、我慢。そう思いながらみんなの様子をうかがった。




 以外にもここが秘密部屋だという意見が多発しており、みんなで緊急会議している。いや、この人たちずっと思っていたが慎重すぎないかい?冒険が暇すぎて僕に責任を擦り付けた人たちとはまるで思えなかった。


「まず、ここに宝はあるのか?」


 腕を組んだレオンが静かに尋ねた。ケイルとアンナがほぼ同時で言う。


「あるだろ。」

「あるでしょ。」


 仲いいかよ。レオンはこくりとうなずくと、こんどはルマに尋ねた。


「あるのか?」

「うん。あるらしいよ。でもちょっとだけ難しいんだ。」

「……どういうことだ?」


 ルマは顎に手を当てて、コテンと首をかしげる。


「まず、四属性を使って四つ角にある松明に火をともさなきゃいけないんだ。」

「松明?」


 言われたとおりに顔の向きを変えてみる。すると、四隅にポツンと松明が設置されているではないか。わかりやすいにもほどがあるが、わかりずらいといっても過言ではない位置にある。ふつうは中央にあって、冒険者がそちらに目移りしやすい様にするのに……と心の中で思った。そして同時に面白くて単調的なギミックだなとも思った。僕はやっぱりあまのじゃくである。


「そしたら、宝箱が出てくるみたいだよ。」

「意外とシンプルだな。」


 ケイルが淡々と返事をしておもむろに立ち上がった。革靴の音を響かせて松明の近くに立つ。


「それって、どの属性かは決まってんのか?」


 ルマは「うーん」と唸りながら考えている。あまり覚えていないようだ。ケイルはそれを理解しているように小さくうなずく。彼らは本当に仲がいいようだ。


 そしてなぜかレオンは最後に僕を見た。


「創作者なら何属性を松明に込める?」

「僕ですか?」

「ああ。リヒトだ。」


 三日ぶりに名前を聞いた気がする。あれ、二日ぶりだっけ?そんな心の声をよそに質問の意図を理解しようと僕は少しだけ考えた。


 四つの属性というなら真っ先に思いつくのは大堂の基礎属性だろう。二階層ということもあり、ダンジョンをつくった人なら始めは初心者でも見つけやすい場所にするはずだ。


 ということで僕が掲げる四属性は。


「僕は”火”、”水”、”風”、”土”だと思います。」

「ほう。魔法は使えないくせに、知識はあるんだな。」

 それは馬鹿にしているってことでいいですよね?この人、絶対無自覚で人から憎まれているタイプだと、僕は分析した。だが、そのあとのセリフで大体元に戻る。この人と話すときはまるでジェットコースターのようなものだ。


「試してみるか。」

「そうね。今はそれが手っ取り早いわ。」


 アンナからも了承を得たことで、実際にやってみることにした。こういうときに思う。


 思ったことを口にした方が何か面白いことが起きるって。


 いや、誰もが言うだろそんなの。”失敗は成功のもと”という言葉もある。でも、身をもって体験することでより実感できたというのは事実だ。


 そんなことを考えているうちに、魔法使いであるルマが松明の前に立っていた。

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