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『Lume de soarta』  作者: Celi
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189話『世界の見え方』セリ編

「で、なんの用で俺は連れ回されてんだよ?」

和彦と2人っきりの何日になるかもわからない旅にオッケーしたとは言え強制的に付き合わされてるコトに変わりねぇ

「これから大地の女神に会いに行く

天空…いや、だいごろうの暴走を止める協力をしてもらうよう話をする」

「そりゃ、あの何しでかすかわからんだいごろうのコトで大地の女神が協力してくれるならありがてぇけど

なんで俺が一緒に行かなきゃなんねぇんだよ

レイとの貴重なデートを邪魔されてまでな!?!?!?!?」

あの時なんか良い感じに言いくるめられたような気がして、今になって俺である必要ってなんだよ!?

そんなのフェイでも鬼神でも連れて行けばいいだろ!!?

なんで俺!?嫌がらせか!?

「それと神族がセリくんに対して何処まで思ってるか再確認したい

が、そのままセリくんを連れて行ったところで問題が起きるのは目に見えている

ちょうどいいのがオマエだ」

うーん…ここで知るか!と噛み付いてもいいが、冷静に考えてこの問題は俺にとっても厄介だ

この身体がピンチなら俺だってピンチなんだからさ

この先だいごろうの問題が上手く解決するコトがあっても、また第2、第3のだいごろうみたいな奴が沸くだろう

大地の女神は位の高い神族だ

1人でも多くこっち側の味方になってくれるなら安心感もある

神族は気難しい奴が多いが、結夢ちゃんやセレンやフィオーラのような仲間もいるから

絶望的な状況でもない

「勇者よりマシかもしれねぇけど、俺だって神族の敵である大悪魔の契約なんだぜ?」

「セリくんの身体で生きていくなら、オマエだって神族に認めてもらわないと厳しいだろ」

そうだけどよ…大悪魔の契約を認める神族なんてい………るか

仲間の神族からは認めてもらえてるもんな

「つまりは、最低でもだいごろうの暴走をなんとかしてもらうのに協力してもらう

最高なのが大地の女神が味方になってもらうってコトか」

「味方か…そこまでは考えていなかったが、そうなると助かる話だな」

和彦が考えていないってコトはかなり難しい話なんだろうな

とりあえずは大地の女神と話さなきゃどうなるかわからねぇってとこか

それからとくに会話もなく暫く沈黙が続いていたが…

「…この前、セリくんに浮気していいと言われた」

「ん?…えっ何?」

いつもより低く呟くような声に聞き取れなかった

「セリくんがそんな事言うなんて」

だから何!?

珍しく弱音を吐く和彦に聞き返すと…なんだそんなコト

「オマエに愛想を尽かしたんだろ」

どーでもいー、俺には関係ねぇ話だ

「オレの浮気はセリくんにヤキモチ妬いてほしいから、あの反応が可愛いからしてただけで

浮気していいって何の反応もされなかったら意味がない」

「でも和彦は女好きじゃん

浮気関係なく、元から今も女は好きだろ」

こんな男絶対好きにならねぇわ、浮気性とか最低

レイは浮気とか絶対しないから最高なんだ!!

「そうだが……」

俺は知ってるけどね

勇者の本音は和彦に浮気してほしくない

それを和彦は受け入れて暫く浮気しないでくれてるのに、今更浮気していいって何言ってんだって感じ

本音隠して言ったコトを真に受けて動揺してる和彦も

どっちもアホじゃん

俺だったら絶対レイに浮気してもいいなんて言わねぇし、許さねぇもん

俺はレイの幸せが1番だけど、レイが浮気は絶対に嫌だし許さねぇよ

「オマエの好きにしろよ」

俺がそう言うと和彦は黙って考え込んだ



そういや大地の女神ってどこにいるんだ?ってなった俺達は神族に詳しい男に会いに行く

この男も最大の敵を勇者としていて、厄介なんだが…

俺が表に出ていれば、それなりに話はできる

というコトで、大地の女神がどこにいるかタキヤを訪ねに行くコトになった

「小僧が何しに…!!」

俺の顔を見るなり反射的にタキヤは顔を真っ赤にして大声を出そうとしたから、俺はキッと睨みつけた

「これはこれは契約様!お帰りで」

一瞬で態度を変えるタキヤは俺の目の前で平伏せて道を塞ぐ

まるで踏んでくださいと言わんばかりで、相変わらずキモイ奴だな

生ゴミを見るような視線を落とすと、タキヤの息が荒くなる

「セリちゃん!」

俺を呼ぶ声に顔を向けると、可愛い可愛いウサギのカニバが飛び込んできたからそのまま抱き締めた

「カニバ!あ~会いたかった、カニバ…可愛い可愛い可愛いな」

フワフワであったかい小さな身体を優しく抱き締めると最高の笑顔になる

カニバは俺が契約だってわかってても、変わらず名前で呼んでくれる

俺のコトを名前で呼んでくれるのは今のところレイとカニバだけ

他の奴からはお前って呼ばれる

「ねっセリちゃん、何しに来たんだ?

美味しいお菓子あるから食べよーぜ

和彦も仕方ねぇけど、お茶くらい出してやるよ」

そう言ってカニバは抱っこから降りると人間の姿になって俺の手を掴んで引いた

目の前で道を塞いだタキヤを強烈な蹴りでぶっ飛ばしてどかす

「何するんですかカーニバルくん!?せっかくのチャンスを!!」

「はっ?」

カニバが必死なタキヤに冷たい目を向ける

「せっかく!せっかくカーニバルくんの飼い主様に蹴ってもらうか踏んでもらうかの最高のシチュエーションだったんですよ!!!???」

カニバが無言で生ゴミを見るような目をタキヤに向ける

タキヤは歪んでいた

勇者のコトを最大の敵としてありとあらゆる方法で追い詰めているが、勇者のペットであるウサギのカニバを溺愛している

子供のカニバに対しては変な感情は一切なく、何故かそれがカニバの飼い主の勇者の姿をしている契約の俺に歪んだ変な感情を向けられているワケだ

でも、コイツは結夢ちゃんのコトが好きだからそこもまた複雑で歪んでるよな

結夢ちゃんに対してこういう態度取らないし

俺に対してだけなんか目覚めてる…

カニバがいつもタキヤを雑に扱うから……いい迷惑だ

カニバに案内されて、俺達は客間でお茶をするコトになった

「契約様お疲れであればお肩揉みましょうか?足も揉みますよ」

ソファの後ろから触ろうとしてくるタキヤに

「うるせぇ、触ったら殺す」

って言ったら「最高です!!」なんて悶えてる

何コイツ怖いんだけど

「タキヤ、邪魔だから高い山産のイチゴ買ってきて」

カニバがシッシッと手を振る

「カーニバルくん、この前買ってきたばかりじゃありませんか

高い山産のイチゴはそう簡単に買いに行ける場所じゃないのですよ」

「甘くて美味しいやつ、一粒500円のやつね」

タキヤの発言無視で買ってこいの態度を変えないカニバ

「一粒500円!?贅沢させすぎで甘やかしすぎじゃ…元からワガママだったのに、俺のところへ帰ってきたらもっとワガママになってるんじゃ…」

部屋は至れり尽くせりだし、おもちゃも好きなだけ買ってもらってるようだ

恋人が4人いる勇者ですらここまでワガママじゃないだろ

「飼い主のセリくんに似たんだな」

和彦が飼い主がこれだから仕方ないみたいに頷く

「はっ!?俺はそんなワガママ言ってないだろ!?」

「昨日だって、部屋に露天風呂がついてる旅館じゃないと嫌だってワガママ言ってた」

「嫌いなオマエと1日中一緒にいて疲れたんだから、ゆっくり癒やされたいのは当たり前だろ!」

「喉が渇いたからって買ってきたミネラルウォーターもこれじゃないって怒ってた」

「俺のコトよく知ってるなら水にもこだわりがあるんだからちゃんと買ってこないオマエが悪い」

「セリくんがいつも飲んでる水はどこにでも売ってないよ」

「それでも買ってくるんだよ」

和彦は笑ってる

俺はワガママじゃなくて嫌がらせで言ってるだけだったが、和彦からしたらそれも大したコトねぇんだな

笑ってなんか包み込んでる感が負けたみたいでやっぱムカつく

「さすがはカーニバルくんの飼い主様!カーニバルくんが可愛く見えるくらいワガママのレベルが違いますね!毎日言われたいです!!!もっと言って!!私への罵りも沢山お願いします!!」

勝手に盛り上がって勝手に興奮してるタキヤはどうやったら黙ってくれるんだろうか

「無視されるのも最高に興奮します!!」

「タキヤ、聞きたい事がある」

和彦が声をかけるとタキヤはピタリと静かになった

「生死の神…和彦様、この私めに聞きたい事とは?」

人間だった時の和彦なら話は聞かなかったかもしれない

スッカリ忘れてたが、大神官のタキヤは神族の声には真面目に耳を傾けるようだ

「大地の女神の居場所を知りたい」

「いろは様の居場所でしたら高い山ですよ

カーニバルくんが好きな高い山産のイチゴがある山の頂上ですね」

まさかのカニバが話してた場所がそうなんて

「ならカニバのお土産にイチゴも買って帰らねぇとな」

「えっ!ヤッター!セリちゃん大好き!イチゴと同じくらい好き」

カニバがウサギの姿になって俺の足元でクルクル回って嬉しさを表現

好きが食べ物と一緒…!!

でも可愛いから良い…俺が手を出すとカニバは指をペロペロ舐めた

ウサギ可愛い…なんでこんなに可愛……!?

「ハァハァ…舐めたい……」

可愛いウサギのカニバとの空間に割り込むようにタキヤが顔を近付けてきた

ゾワワと背筋が凍るような気持ち悪さに思わず顔を蹴り飛ばした

「キモイんだよ!!!テメェは!!寄るんじゃねぇ!?」

「アーーー!もっともっとお願いします!!!!!」

相手にしたら喜ばせるだけってわかってても、あんなの反射的に手が出る(蹴る)だろ

「行くぞ和彦!!」

タキヤのせいでカニバとの癒やしの時間を潰されて、不機嫌になりながらもさっさと行くコトにした



それから数日後

「ね~まだぁ?」

「明日には高い山に着く頃だろう」

今日も途中の町で休むコトになって、ベンチに座りながら疲れた~とひと息つく

「そっから頂上に行くまでまた時間かかりそうだな

はぁ…もう何日レイに会ってない事か……拷問だ」

「オレもセリくんに会えないの我慢してる」

「あっそ、まぁ…よく考えたら和彦の方が可哀想だな

愛しのセリくん(この身体)が目の前にいるのにお触りできねぇって辛すぎじゃん」

和彦が契約の俺についてこいって言ったんだから我慢して当然だが、好きな人が隣にいて触れられないって地獄かも

あー…でもどうなんだ?俺が和彦の立場で考えたら、レイの中身が他の誰かの理想…まぁある意味別人だとしたら

もうそれは俺の愛したレイじゃないから、隣にいたところで何も思わないか

むしろ早く本物に会いたいって強く想いが募るだけかも

「喉渇いた!」

「さっき買った水が残ってる」

「水の気分じゃねぇんだよ、早く買ってきて」

「何がいい」

「俺の好きなやつ」

和彦はまたむちゃくちゃ言うって苦笑しながらも飲み物を買いに行ってくれた

和彦に対してこういう態度できるのって勇者の特権だよな

他の誰も恐ろしくて和彦にワガママなんて言えない

「あ~今日も疲れた…早くゆっくり休み…っ!?」

休んでいるといきなり後ろから口を塞がれた

和彦がいなくなったのを狙われたか!?

まだ明るいうちに人もいる町中で拉致!?

無抵抗なワケないだろ…!!って思いっきり肘を後ろの奴にぶつけるとあっさりとよろけて手が離れた

「何!?よわっ!?マジ!?そんなコトある!?」

意外すぎてビックリした

いつもこういう時は力負けして、どうしようもないピンチってなったら和彦(同行者)が助けに来る~みたいな展開なのに!?

「って誰だ!?テメェ……?」

後ろを振り返りその姿を確認すると、すぐにわかった

悪魔だってコトが……

周りの人間には見えてない、だから明るくても人がいても襲ってこれるが……

なんで悪魔が俺を襲う?違う、悪魔は俺を襲えないハズ

「俺を誰だと思ってる!!悪魔ごときがこの大悪魔シンの契約と知って無礼な振る舞いは許されねぇぞ!?」

悪魔は名乗らなくても俺が何者かわかるハズ、そして大悪魔の契約の俺だからこそ悪魔は言うコトを聞くハズなのに

「干からびて力のないジジイの契約が偉そうに」

「なんだと…?」

言われて言葉に詰まる

確かに最近のシンは何がきっかけか知らんが、引きこもって新しい魂も食べてないから力がなくなっているコトは俺だって感じてる

だからって、一応は大悪魔なんだ

それが悪魔ごときにここまでバカにされるとは…情けなさすぎる

俺はシンの契約でも忠誠心とかそういうのないし、シンのコトはどうでもいいが

シンの影響が弱まってこんな奴にナメられるのはムカつく

「いつまで自分が偉いと勘違いしている?

あんたに恨み持ってる方がいて、あんたを倒せば金をくれるそうだ」

「俺に恨み…?あぁ…だいごろうの事か?」

心当たりなんてソイツしかいねぇ

大悪魔シンじゃなく、契約の俺に恨みなんて

「だいごろう誰?依頼主は嫉妬の大悪魔ミザリー様」

誰!!!!??????いやこっちが誰!!!???

嫉妬の大悪魔……?あぁ…あの女か

えっでも、関わりってあったか?ねぇけど…

大悪魔の集まりでそんな女いたようなくらいの認識だぜ

向こうだって契約の俺のコトなんて眼中にねぇだろうし

「ミザリー様は大変嫉妬しておられる」

「大悪魔様が契約ごときに?」

「イケメンが大好物のミザリー様は世界一のイケメンと言われるレイにご執心

あんたが邪魔だそうだ」

「そうなの!?でも今までミザリーがレイの前に現れたコトなんかねぇだろ

本当に好きなのかよ、あの派手女」

ミザリーはとにかく派手好きで目立ちたがりな女だ

自分より派手だったり目立つような奴が嫌いで常に誰かに何かに嫉妬している

「ミザリー様はあぁ見えて奥手な方なのだ

好いた男を陰ながら見ているだけで胸がいっぱいらしい」

「まさかの恋愛面では奥手!?意外すぎて可愛いじゃん

えっ無理だけど、レイと俺は両想いだし

入る隙なんて1ミリもねぇから」

「イケメンに群がる全ての人間を滅せよとのご命令だ」

「ふーん、自分は遠くから見てるコトしかできねぇくせに金使ってなんとかしようって?

言っておけ!!レイはそういう卑怯な女が嫌いだってよ!!

……いや、ちゃうな

レイにはそんな卑怯とかどうとかまともな話は関係なかった

レイは俺以外眼中にねぇんだよ!!」

俺はレイのコト大好きだしレイは俺には優しいけど、レイって結構性格悪いんだよな…

卑怯な女は嫌いだ!って伝えて、正々堂々正面からやってきたとしても

ガン無視だろうし、酷い言葉とかぶつけそう…

「……ミザリーのために言うけど、レイはやめといた方がいいぞ…

メンヘラだしストーカーだしたまにDVするし

性格悪いし、絶対不幸になるからやめといた方がいいって」

俺は超幸せですけど!!???レイがメンヘラでもストーカーでもたまにDVされても全部受け入れてますからーーー!!!本当だしーーー!!洗脳とか逃避とかじゃありませんしーーー!!!

「……イケメンなら許され」

「ねぇよ!?!!!!???イケメンでも許されねぇよ!!!!!」

「ミザリー様が不幸になるのは見過ごせない!!諦めるように説得しなければ」

「おう、わかったならさっさと帰れ

見た目に騙されんな、二度と来んなよ

優しいイケメンなんていっぱいいるんだから、もっとまともな男見つけて幸せになれ」

「あんた良い奴」

「ヤベェ男は俺に任せとけ」

「辛いだろうけど負けるな…」

「オマエ良い奴だな」

なんかわからんけど、ミザリーの仲間の悪魔はレイのヤバさを理解して去っていった

辛いコトもたくさんあったけど、俺はレイに大切にされてるし愛されてるから幸せだもん

レイは俺じゃなきゃダメなんだから、お互いが幸せになれるのはレイと俺じゃなきゃダメだって知ってる

「へぇ、お前も盲目でレイの事が好きなわけじゃないのか」

悪魔が去ると和彦がひょこっと姿を現す

コイツ、様子見してたな…まぁいざって時は助けに入ってくれたろうけど

「盲目って俺をバカにしてんのか!

俺はレイの理想からできた契約だ

レイのために生きて、レイのために死ぬ

でも、勇者として…セリとして生きてる

俺だって俺としての考えとか気持ちとか色々あんだよ

人間が複雑なら俺だって人間として複雑なんだよ」

「そうだな、無事でよかった」

ふっと笑う和彦は俺を勇者とは別の人間としてちゃんと見てくれてるんだってわかる

コイツに理解されるとか、どうでもいいんだけど

でも、俺として接してくれてるのは…まぁ悪くはねぇよな…って思う

確かに今回話のわかる悪魔で助かったが、たまたま運がよかったようなもんだ

俺が危機感持ってるのは、シンの力が弱まってさっきのように悪魔まで敵に回るコト…

今度、久しぶりにシンの顔を見に行ってみるか

しっかりしろ!ってケツでも叩かねぇとな



そうして和彦と俺はなんとか高い山に到着したのだが…

………待って!?めっちゃしんどくない!?

この山ハイキングってレベルじゃねぇぞ!?

カニバのお土産イチゴ狩りランランランの気持ちで来ちゃったけど、レベル高すぎる山登りに今すぐにでも倒れそうだ

「まだ10分の1も来てないが…大丈夫か?」

「なんてぇ!?」

相変わらずなんともないって顔をしてる和彦と、体力なさすぎる死にかけの俺

クソーこの身体…勇者が体力ないから悪いんだ!!

「仕方ないな」

そう言って和彦は俺の目の前でしゃがむ

どうやらおんぶしてやるって意味らしい

「死んでもオマエの手なんか借りるか

和彦に借りなんか作ったら後で何を請求されるかわかったもんじゃねぇ」

「そんな警戒しなくても何も請求したりしないのに

オレはセリくんの恋人だから、セリくんがお前を受け入れたならオレもそんなセリくんを受け入れるだけ」

知ってるさ、和彦は俺に優しくしてるワケじゃない

この身体が自分の恋人である勇者だからってだけ

でも!でもだ!!俺自身はレイ以外に甘えたくないし頼りたくねぇだけ!!

俺だって自分はレイの理想のセリであるコトはわかってる

勇者であって勇者ではないが、そうレイの理想だからレイ以外と仲良くしたくねぇんだ

「もっと気楽にできないのか」

「うるせぇな、ほっとけ

オマエの助けなんかなくても俺は平気だ」

意地と根性と精神力だけで限界の体力を奮い立たせ先に進む

勇者は色んな男に上手に甘えられるビッチでも、俺はそんなの無理!レイ以外絶対無理!!

…と思っていた時期が俺にもありました

「……なんだ?行き止まりか?おい和彦、道間違えたか?」

どう見渡しても巨大な岩壁で行き詰まった

「いや、間違ってはいない

ここを登るんだ」

と和彦は巨大な岩壁を指差しそのまま上に向けた

いや…いやいや!?ちょっと気分転換にロッククライミングしようってレベルじゃねぇぞ!?

岩壁の先が雲通り越して見えねぇもん!?落ちたら死ぬだろこんなの!?

「おぶってやろうか?」

俺が青ざめて震えていると和彦は笑って言う

「ムッ!だから和彦の助けなんていらねぇって言~ッ」

岩壁に手をかけて登ろうとしたら変に手が滑って小指の爪が半分剥がれた

言葉を失う痛みが走り、泣くほど痛いのに和彦の前で泣くワケにはいかないと必死に耐える

「セリくんの手じゃこの岩壁を登れはしない

お前はセリくんと違って回復魔法が使えないんだ

そうやって意地張っても痛い思いするだけだろ」

和彦の言うコトが、ホンマそれ!で何も言えねぇ…痛ぇし和彦に助けてもらうしかないってのが負けた気になってムカつくぜ

和彦に怪我した指を手当てして貰う

「オマエと密着するとか吐き気がする」

と言いながら和彦におんぶしてもらう

「はいはい」

その大人です余裕ですって態度もムカつく、同い年なのに

「勘違いするな!!俺は和彦のコト嫌いだからな!!俺が好きなのはレイだけだから!!」

「知ってる知ってる」

ちゃんと言ってわからせとかないとな

今の密着は仕方ねぇ、ここは和彦に頼るしかないんだし…

浮気じゃないからな!レイならわかってくれるよね!?

「難しく考えなくてもいい」

「………。」

無意識に力が抜けていくような感覚に気付けない

レイに受け入れてもらえた、勇者に受け入れてもらえた

周りの人達も俺を受け入れてくれてるのに

俺はレイ以外はって頑なに…

普通に友達として接すれば良いハズなのに、それが俺にはわからない

レイの理想の俺はレイしか見えていないから

でも、レイ以外に嫌いだとか言っても嫌な気持ちがないのはきっとそういうコトなんだと思う

契約の俺が少しだけでも人間としてちゃんと生きている…んだったらいいな


「結構登ったな」

岩壁を登り切ると、その景色は一面イチゴ畑で甘い香りが鼻を掠めていく

和彦はあんなヤベェ岩壁を長いコト登っても少しも息が荒れていない

どんだけ体力お化けなんだよコイツ

いつ疲れるんだ?和彦って疲れるコトある!?

「ここがカニバの言っていた高い山産のイチゴか」

一粒500円の…めっちゃ甘くて美味しそうな匂いがする

「ここのイチゴを使ったスイーツがあるカフェだと、食べて行くか?

まだ先は長い、休憩だ

カニバへのお土産は帰りにな」

和彦が指差す先を見るとオシャレなカフェが見える

「えっデートみたいで嫌すぎる」

オシャレなカフェはレイと行きたい!!

「友人とお茶するだけだろ?

そんなにオレを意識しているなんて」

「はっ!?ちっとも意識してねぇし!!調子乗んなよ!!

アーンはしてやらねぇからな!!」

和彦より一歩先にカフェへ足を向ける

「セリくんだってしてくれた事ないが…

レイの願望凄いな、少し羨ましい」

「言えば、勇者だってしてくれるだろ」

想像はできないが…勇者はそういうイチャつき方するイメージねぇな

俺がレイにアーンするのはレイの願望だからだ!!

和彦とカフェに入ると、女好きな和彦はすぐに反応する

「浮き世離れした美人な女がいる」

へー、興味のない俺は和彦がカフェ奥を指差すのも無視してわざと見ないようにした

そんな俺を和彦は引っ張ってカフェの奥へと、窓際の1番良い席へやってくる

「相席しても?」

勝手に声かけてる!?

おいおい、勇者にバレたら怒られるのに

まぁ相席程度でわざわざ伝えるつもりもないが

「この私をナンパ?」

「あまりに綺麗で声をかけずにはいられなかった」

「面白いわね」

アホらしい……ん?でも、なんか聞き覚えのあるような声だな……

和彦に反発して見ないようにしていたが、和彦が勝手に相席として椅子に座るタイミングで視線を向ける

「って!?セリカじゃん!?」

なんやねん!さっきのしょーもない茶番は

「やっぽー、やっと気付いたのね」

セリカは俺へと手をヒラヒラ振って笑顔を向ける

「こんな所で会うなんて凄い偶然ね

セリくんが近くにいればわかる私でもオマエが表に出ていてはわからなかったわ」

和彦はカフェに入った時からセリカに気付いていたってワケか、それなのに面白いやり取りしやがって

最初からセリカがいると教えてくれれば良いのに

セリカなら相席でもいいし……レイに好かれてるから嫌いだけど

「こんな所でってこっちがビックリだ

どうやって来たんだ?オマエが岩壁を登り切れるとは思えねぇし

それに1人なのか?セリカが1人なんて危ないだろ」

俺も椅子に座ると店員が注文を聞きに来てくれて、俺はセリカと同じものを頼んだ

和彦はなんかメニューにあるもん全部頼んでた

どんだけ食うんだよ

「簡単よ、私はキルラの背に乗せてもらって来たんだもの

ここに幻の美容液があると聞いて来ちゃった」

あーなるほど!鳥型魔族のキルラの方が速いだろうし空飛べるっていいな!

セリカは小さな小瓶を見せて、揺らすと中の液体が7色に見える

「へー、よくわかんねぇけどどんな効果があるんだ?」

「綺麗になれる魔法の美容液よ

この数日間毎日塗ってみたんだけど、どう?さらに綺麗になったでしょ?」

ふふふんとセリカは超ご機嫌だ

???何も変わってねぇと思うけど…

そもそも元から真珠のように白く輝くきめ細かい肌のセリカにはいらないんじゃ…

「また綺麗になったセリカ」

絶対俺と同じように何も変わってないと思っていながらも、和彦はセリカを煽てる

「だよね!!」

もちろんその一言でセリカは上機嫌だ

「もう十分綺麗なのに、こんな危険な所まで来る必要あるのか?」

ここは大地の女神のテリトリーだ、無事なコトが不思議なくらい危険と隣合わせ

「私はもっと綺麗になりたいの!」

「だからその綺麗がカンストしてんだってさ」

「オマエはわかっていないわね

私が綺麗になればなるほど、私であるセリくんだって綺麗になるのよ」

そう言いながらセリカは俺を指差す

確かに…この身体は綺麗だと俺も思う

好みの問題とかじゃなく、純粋な感想だ

レイが惚れて当たり前の姿

「オマエだってお得なハズよ、綺麗になればレイに褒められるもの」

「………確かに!!!!!!!!」

それが1番大事だ!!!

「オマエは知らないの、ちゃんとお手入れしていないと肌の弱い私は荒れたりするんだから

いつも綺麗でいられるのは私のおかげ、感謝しなさい」

「そうなのか!?さすがセリカ!!感謝するぜ!!」

こんな綺麗な肌なのに、荒れたりするんだ…知らなかったな

でも、荒れた肌をレイに見られたくないのはわかる

本当にセリカには感謝しかないな

「もっともっと綺麗になるからね~

帰りは新作のリップ買いに行くの、とっても楽しみ

たまには違う色にも挑戦したくなっちゃって」

美容マニアだなぁ、でも女の子ってそうなのかも

十分可愛いのにもっと可愛くなりたいって頑張るもんな、尊敬する

「だけど、キルラの奴ったら酷いのよ

山の麓にある村に好みの人間の女がいたからって私を置いてけぼりにしたわ

おかげで数日もこの山から降りられなくて」

キルラなら仕方ねぇな、アイツはそんな奴だ

その割にはセリカはそんな困ってなさそうだが…?

ほしかった美容液を手に入れて浮かれてるとか?

「お前はわからないか?セリカの隣に強い気配があるのを」

ふと和彦が変なコトを言うから俺は首を傾げる

セリカの隣の席には誰もいない…だろ?

あれ?でもテーブルには4人分の飲み物がある

「えっ…お化け!?怖いの怖いんだけど!?」

大悪魔の契約の俺がお化け怖いとかおかしいかもしれないが、悪魔とお化けは別物なんだよ!!?

お化けは怖いだろ!?

「あそっか、紹介するわ

こちら私の師匠の仙人様よ」

セリカが隣の席に手を向けて紹介すると誰もいなかったハズなのに、ゆっくりとぼんやりした人影からハッキリと姿を表す

誰もが想像するような仙人の姿がそこに…

「仙人……!?えっ!仙人って実在したのか!?伝説だと思ってたぞ!?」

しかも師匠ってどういうコトだよ!?

「あら、イングヴェィだって伝説上の存在よ」

「ホッホッホ、こうしてワシの姿をお見せするのは天女様がはじめてじゃ

大地の女神もワシの存在を感じておるだけで姿を見せた事はないんじゃ

天女様が困っておってからに姿を現さずにはおられんかった

天女様の友人のお主らも特別じゃ」

とじいさんはホッホッホと笑う

人間なのに天女のように綺麗だとこの仙人のじいさんも鬼神と同じようにセリカに心を奪われた者か

ん?俺は友人扱いか?このじいさん、さすが仙人と言ったところか

俺が悪魔の契約とわかっていそうだし、それを友人と表現する

……悪くはないが…友達なのか?セリカ…勇者と俺は…友達と言っていいんだろうか

それからセリカはキルラが女の尻を追いかけに行った後にこの仙人と会ったと話してくれる

キルラがいなくなったコトで山から降りられなくなったセリカは困っていると、セリカの姿に惹かれた仙人が面倒を見てくれた

寝食と大地の女神から身を隠してもらった他にセリカが仙人を師匠と呼ぶきっかけとなった武術まで教わったそうだ

「武術?」

「ふふ、私少しは強くなったのよ」

「ハハ、所詮オマエは人間の女だろ

勇者であるオマエは魔族と魔物には強いが、少し強くなったからって俺にだって勝てないだろ

普通の人間より非力だしな」

セリカのこれまでの話を聞き終えた頃には和彦は全メニューを完食していた

まだ足りないみたいな顔をしているが触れない

「力は必要ないのよ、表で試してみる?」

セリカのその自信は仙人が手加減した結果じゃねぇか?

調子に乗らせるとよくねぇぞ、仕方ねぇからわからせてやるか

カフェを出た俺達は誰もいない広い場所へと移動する

「どんなもんか…来いよセリカ」

そう言うとセリカは俺の片腕を掴む

その瞬間、俺は軽々とひっくり返されて尻餅をついた

もうステーン!と軽く、力なんて入っていなかったハズなのに

「………良い天気だな~」

人間の女に簡単にひっくり返された現実を受け入れられない俺はそのまま寝転んで空を見上げた

いくら勇者が非力とは言え男の俺が!?いくら自分セリカだからって男女の差で俺の方が力はあるだろうに!?

「面白いでしょ」

そんな俺の顔を覗き込んで笑うセリカ

「面白かねぇよ!?なんださっきの!?魔法か!?」

ありえねぇ!と起き上がってセリカに詰め寄る

「武術って言ったでしょ、遠心力よ」

「遠心力??」

聞き返すと、セリカがもう一度俺の腕を掴むとまた投げ飛ばされた

ウソだろ!?さっきより警戒していたハズなのに!?なんでだよ!?!?

もう一度と俺が言うと、セリカがまた腕を掴む

あっ…もうかかってる…

3度目でその感覚がわかった

掴まれたらすでに終わりだと言うコトに

これが…仙人の武術…腕力じゃなくて遠心力を使った強さ

「スゲー!スゲーぜセリカ!!今度は和彦倒してみてくれよ」

仙人の武術に感動して興奮した俺はこれで和彦に勝てると調子に乗った

セリカを調子に乗らせないと思っていた俺が調子に乗る

「和彦は無理よね…ほら、やっぱり」

セリカは和彦の腕を掴んだがダメみたいだった

まぁ…冷静になると和彦には勝てるワケねぇか

「師匠に武術を教えてもらって強くなったと言っても、私の強さは所詮魔族や魔物に対してだけよ

勇者の強さだけレベルアップ、人間の私は弱いままね」

セリカは残念と苦笑する

危険な目に遭うコトが多いから、少しでも強くなって自分自身を守れたらみんなに迷惑かけないのにってセリカの悩みの1つだ

それはセリカである勇者も同じ…

別にオマエ達は強くならなくても、守ってくれる奴らがいるから甘えればいいのに

和彦だってその1人だし、俺のレイだって勇者とセリカのコトは命を懸けて守ってくれるだろうに

俺だったらレイに甘えて守ってもらうもん

レイに守りたいって言われたら……嬉しすぎて死ぬよ

「弱くていい、オレが守ってやるから」

「和彦…いつもありがとう、私はもっとみんなに甘えないとなんだよね

いつも忘れちゃうわ、ずっと1人だったから

自分が強くならなきゃ……」

「何…カッコ付けとんねーーーん!!!」

俺は和彦をバシッと叩く

そんな俺の突然の言動にセリカは驚く

「お前がそんなノリをかましてくる事が意外」

「レイ以外の甘い言葉聞くと虫ずが走るんだよ!!やめろ!」

「ホッホッホ、賑やかで楽しいのう~」

一瞬、セリカから深い闇を感じたような気がする

悪魔の契約の俺はそういうのに敏感に反応してしまう

心の弱さも闇も絶望も…悪魔の大好物だからな

今のセリカにはイングヴェィがいるからもう大丈夫なんだと安心していたが、そんな簡単に永遠のような闇が消え去るワケないか……

とにかくセリカの気は一時的に紛れてくれたようだ

そうこうしていると女の尻を追いかけていたキルラが戻ってきた

「ただいまー!!あれぇ!?セリ様と和彦もいるじゃーん」

相変わらず声がデカくてうるさい奴だな

俺が契約だと気付いてないみたいだ

「おかえりキルラ、1日だけと言っておいて一体何日経ったコト?」

「……1日しか経ってないと思います!!」

「ウソつきはよくないな」

ふふっとセリカは笑顔のままキルラの腕(鳥だから翼か)を掴むとあっという間にひっくり返して地面に転がした

いきなり空を仰ぐコトになったキルラは自分の身に何が起きたかわからずボーッとしてる

その現実逃避の気持ちはわからんでもねぇ

「はっ!?いくら勇者の力があるからって簡単に投げ飛ばされるこたぁなかったから……はっ!?夢!?」

飛び起きたキルラに現実をわからせるためにセリカはまたキルラを軽やかに投げ飛ばした

「武術よ、面白いでしょ」

「華道や茶道でも習ってお淑やかにしとけや!!!!」

空を仰いでるキルラの顔をのぞき込みながらクスクスと笑うセリカとは反対にキルラは悔しさに顔を真っ赤にして怒鳴った

「さっ寝てないでさっさと帰るわよ」

「誰のせいだよ!?」

セリカの言葉にキルラは身体を起こす

「きっとイングヴェィが心配しているわ

予定より遅くなってるもの」

「イングヴェィならもう迎えに向かってそうだな」

セリカに何かあったんじゃって心配でたまらないだろうし、イングヴェィなら迎えに来る

「はーちょっと帰りが遅いくらいで心配するとか愛重すぎじゃね!?」

ちょっとじゃねぇし、普通心配するだろ

魔族のキルラには人間のような感情や感覚はわからねぇからそう言う

イングヴェィも俺も人間じゃなくても、それくらいわかるし心配して当たり前だ

「ふふふ、私は愛が重いくらいがちょうどいいわ

キルラも人間の女が好みなら人間の気持ちを理解しないと振られ続けるわよ

まぁ人間でも愛が重いのは嫌な人もいるだろうけど」

「このオレ様が…ふ…ふふふふふふ振られつつづ続けてなんかいませんけどぉおおおお????」

わかりやすすぎるだろ動揺が!?

「俺も愛は重すぎの方が好きだな!愛されすぎるとか幸せじゃん

俺は振られたコトねぇけど」

「死ねーーーーーー!!!!!!!」

キルラから血の涙が…

本当に振られ続けてるのか…可哀想に

まぁオマエが悪いんだけど、女の扱い最低クソ野郎だし

「キルラって見た目はイケメンなんだから、女の子への理解と大切にすればすぐにでも素敵な彼女ができると思うよ」

「そうそう、今のオマエじゃ変な危険な女しか寄って来ねぇし迷惑だ」

これまでのキルラの彼女のせいでトラブルに巻き込まれて酷い目にあったぜ

「…セリ様もセリカ様も何言ってんかわかんねぇよ……

女を理解して大切にするって何?」

ダメそう…魔族のキルラには難しそうだ

魔王の香月は勇者のコト理解して大切にしてるから、魔族ができないワケじゃないだろうが

「そう言ってるってコトは、まだ本当の愛に出会ったコトないのね

恋したら変わるよ?たぶん、頑張れキルラ」

セリカは笑って言ったが、たぶんって言葉はまだ自分でもちゃんとわかってないから出たんだろう

たぶんじゃなくて絶対変わるよ

俺が知ってるから、セリカもいつか知れる

「それじゃあ、帰るわ

セリくんと和彦またね

師匠もお世話になりました、また遊びにきますね」

「ほっほっほ、またお顔を見せに来ておくれ

天女様ならいつでも歓迎じゃ」

そうしてキルラとセリカに手を振って見送った後、仙人の姿はいつの間にか消えていた



そんなこんながありつつ、和彦と俺は再び山の頂上を目指し………やっとのコトでたどり着いたぜ!!

「ようこそいらっしゃった、生死の神よ

長旅にお疲れじゃろうに、ゆっくり休んでゆくがええぞ」

意外にも大地の女神いろはは快く歓迎してくれた様子だった…和彦だけに

契約の俺は眼中にない、というよりいない者かのように目が合わない

「和彦様が妾に会いに来てくれるなぞ嬉しいものよの」

ホホホホといろはは手に持っていた扇子で口元を隠す

なんか変だな…?いくら和彦が神族になったからって元は人間だ

神族は自分達が作った人間が、自分と同じ存在になるコトを許したりはしない

結夢ちゃんとか一部は除くと言っても、大地の女神は位が高い神族だ

思想もルールもより厳しい

それに大地の女神はだいごろうに夢中だった

ハズ、それなのに和彦が会いに来てくれて嬉しいって言うのはただの社交辞令なのか?

何か裏がありそうと嫌な予感がするのは俺の考え過ぎか?

「ただ顔を見たいと言う理由であれば喜ばしい事じゃが、何か話があるのじゃろう?

今夜は休んでもらい明日話を聞くぞ」

和彦は俺の顔をチラッと見てから

「ありがとうございます、お言葉に甘えて」

と俺が疲れているコトを気遣って話を進めるより休むコトを選んだ

俺はゾッとした…見逃さなかった

和彦が俺の方を見た時に大地の女神ははじめて俺の方に視線を向けた

でもその顔は般若のように恐ろしかった

俺が大悪魔の契約だからじゃねぇ…

神族は悪魔と敵対しているからよく知ってる

神族が悪魔に向ける目線とは違う

もっと個人的なものだ


その日の夜は和彦とは別々の部屋に案内された

旅の途中は何かあったら危ないからって和彦と同じ部屋で寝泊まりしてたけど

はじめて1人での泊まりは逆にシーンとした部屋が落ち着かない

別に和彦と一緒の部屋だからって騒がしかったワケじゃねぇし、静かだったけど

さっきのいろはの恐ろしい顔が頭から離れない

わかるんだ、あの女は俺が邪魔だってコト

ここにいるのは危険だってわかるのに、長旅の疲れで眠気に勝てなかった


目が覚めたのは深夜のコトだった

見覚えのない部屋に俺は一瞬戸惑うが、すぐに察する

契約がここまで行動して意識が俺に戻ったんだって

最初よりはこういうのも慣れたな

身体のダルさからして結構な長旅だったんじゃないかってのもわかる

でも、ちょっと眠って多少の体力は回復してるから眠いのは眠いが、とりあえず状況を把握したかった

部屋に俺1人って珍しいな、契約のコトだから同行者がレイなら同じ部屋のハズ

いないってコトはレイじゃない

じゃあ誰だ?契約がレイ以外と一緒に行動するとは思えねぇけど

とくにフェイだけはないな、契約はフェイのコトめっちゃ嫌ってるし

部屋を出ようとドアを開けるとバッタリと鉢合わせで会う

「あっ」

相手もまさか俺が起きてくるとは思わなかったのか驚いた様子だ

そして、俺はすぐに気づく

その般若のような顔した女の手には刃物が握られているコトが……

………俺が寝てる間にこの女は俺を殺そうと!?

なんて危ねぇ場所に泊まってんだ契約の奴!?!?!?

俺に気付かれたと気付いた女は刃物を後ろに隠し、般若のような顔を隠す

「あっ…えっ、いろは!?さん…!?」

「…ホホホホホ、これはこれは……眠れないのかえ?」

もう寝れねぇよ…眠気吹き飛んだよね……

いろはさんは前に会った時と変わらずの笑みで接してくる

「まぁ…ちょっと、眠れないんで外でも軽く散歩しようかなって…ハハハ」

適当に話合わせて、仲間探しに行くしかねぇよな

「眠れぬなら、手伝ってやろうかの?」

「いや大丈夫っす!」

寝るのを手伝うってなんだよ

俺はいろはさんの横を通り過ぎようとしたが脇腹に違和感があって自分が刺されたコトに気付く

「永眠のお手伝いじゃ!!」

すれ違いでお互いの顔を合わせた時、いろはの顔は般若のように変わる

コイツは敵だって本能からいろはの顔面に肘を打ち付けて距離を取ろうとしたが、できなかった……

敵でも女にそんなコトできないって迷いで止まってしまう

「甘いの勇者!!お主が女に攻撃出来ない事は知っておった」

俺の脇腹から刃物を引き抜くと次は顔を目掛けて刃物を振り下ろしたからその手を掴み止める

脇腹はすぐに回復魔法で直す

危なかった…運がよかったのか?

これが回復魔法の使えない契約だったらそのまま死んでたかもしれねぇ

「くっ…」

相手は神族、力比べならいろはの方が上だ

それでなくても非力な俺に勝ち目はない

目の前に刃物が迫る

顔を傾けて掴んでいた手の力を抜くとそのまま耳と一緒に刃物が突き抜ける

すぐに耳も回復魔法で治せるが、いつまでもこんなコトでごまかしなんて無理だろう

「妾の腹を蹴ってでも離れられねばお主は逃げも出来んのう」

「オマエが男だったら遠慮なく蹴ってたぜ」

「殺されかけてもその余裕は自殺行為じゃな」

「教えてくれてありがとう

そんなに喋ってくれんなら、なんで俺を殺そうとするのかも教えてくれよ

オマエ達がよく思わない天が創った人間だからか?」

世界の人間達は神族が創った、でも俺だけは天が創ったたった1人の人間だ

よく思われていないコトは知っているが、和彦が生死の神になったコトでとりあえずは保留みたいな空気にもなっていたんだが…

「そうじゃな…何も知らず死ぬ前に教えてやってもよかろう

お主は妾の想い人を泥に変えて堕落させたのじゃ」

「それは誤解だ、だいごろうは勝手に堕落しただけだろ

それにまだ完全には堕落していなかったハズ

あんたなら助けられるんじゃないのか?」

「なぜ妾が堕落した男を助けねばならぬのじゃ!!!」

いろはは般若の顔で怒りで真っ赤になる

真夜中にそれは怖い

「えぇ…好きな人を助けられるなら助けたいって思うだろ…違うか?」

「過去の男などどうでもええんじゃ

妾が許せぬのはそのきっかけが、お主がいなければそれもなかったと言う事じゃ

過去の男に絶望する事もなく幸せじゃったのに、それを壊したのがお主であろう!!」

な…なんかわかんねぇけど…乙女心は複雑っていうやつなのか…?

俺がいなくても、だいごろうはいつかあぁなったと思う

本物なら俺なんかで堕落なんてしねぇだろうから

それでもいろはからしたら、そのきっかけが悪いってなるんだろう

「お主はここで死ぬのじゃ!!!妾の幸せを潰した罪深き人間……!!」

また刃物を振り上げるいろはの手を止めたのは、俺じゃなくて

「和彦…!!」

助けにきてくれた……!!

「セリくんを殺そうとするならオレはあんたを殺す」

和彦はいろはの手から刃物を奪い取ると俺の方へ駆け寄る

「大丈夫か」

「和彦~~~!!いつも助けてくれてありがとう」

思わず和彦の胸に顔を埋めるように抱き付く

ピンチの時はいつも誰かが助けてくれる…和彦が来てくれて安心する

契約は和彦と一緒だったのか、意外だな

どうして2人が…

「そうかそうか…噂は本当じゃったのだな」

「…噂?」

いろはは般若の顔をやめていつもの美しい女神の顔になる

「噂は噂じゃ

勇者は魔王の嫁だったり、世界一のイケメンとカップルだとか、生死の神の和彦様の恋人、はたまたその部下の男のものだとか…

噂というものは適当であろう

一体どれが本当なのか?それとも全てが嘘なのか?

いやしかし、これでどれが本物の噂なのかわかったわい」

えっ…全部本当だけど……ややこしくなりそうだから黙っとこ

俺はみんなの恋人なんだよな、2人はまだ正式に恋人じゃないけど

ってかそんな噂流れてんの!?流した奴誰だよ!?

あっセレンか、アイツしかいねぇ…

「まさか和彦様の恋人とは…残念じゃ

せっかく新しい良い男が現れたのに」

急に乙女の顔になるいろは

…………なんて?和彦が良い男ってコト?

確かに和彦は色んな意味で最強だけど、良い男かどうかは…ヤベェ奴だぞ

それにいろはが好きだっただいごろうのタイプで言うならレイの方が近いような

好きな人がタイプ!ってタイプか?

「そうじゃ!!

和彦様が勇者と別れて妾と付き合うならば今回の事は忘れてやろう

二度と勇者を殺そうとはせぬし、だいごろうからも守ってやるぞ?」

「断る」

和彦は即答する

「ホホホホホ、今回の話もだいごろうの事じゃろう?妾に仲間になってほしいと

この条件なら妾は仲間になってもよい」

「わかっているなら話は早い

しかし、その条件は呑めないな」

契約と一緒にここに来たのはそういうコトだったのか和彦

天が創った俺より契約の方が話が通じやすいって思ったんだろうけど、たぶんいろははそういう次元とは違うかった…っていう話になってるでいいか?

「ふーむ…急ぎすぎたかの

まずは和彦様がフリーになってもらわねば

和彦様が別れないなら、勇者から別れてもらえばよい」

そう言いながらいろはは俺の方へ顔を向けて近付く

俺だって和彦と別れるなんてありえねぇ、その想いを強く和彦に抱き付く手に力を込めたところで

ふっともう慣れた感覚のように意識がなくなった

「勇者よ、和彦様と別れるんじゃ」

俺は和彦を突き飛ばして、腰に手を当てた

こんな状況を待ってました!と言わんばかり

「喜んで!!今すぐ和彦とは別れてやるぜ!!」

ふー…ビックリした、気付いたら勇者の意識が表に出てんだからよ

契約の俺の意識が引っ込んでもほとんど起きてるけど、たまに寝ちまう時があんだよな

だいたいは勇者の眠りに合わせてるからその時は勇者も寝てるから、こういうコトはあんまりねぇんだけど

今回は長時間俺が表に出過ぎたからかもな

「お前…勝手な事を」

和彦もすぐに俺が勇者じゃない契約だってコトに気付く

たぶんいろはも気付いてるだろうけど、たぶん気付かないフリするだろう

「聞いただろ?オマエがこの女と付き合ったら勇者の安全は保障してくれるんだぜ?」

「本音は、オレと別れるチャンス!ラッキー!だろ」

そうだよ、俺はレイだけがいいから

レイもそれを望んでる!!だからレイ以外の勇者の恋人は早く減らしたい

「………まさか!?俺は勇者のコトを考えて!

勇者が1日でも長く生きられて、安全に守られる

それは和彦だって望んでるコトじゃん」

「それはそうだ

でも、セリくんと別れるは」

「でももなんもねぇ!!それに和彦は女好きなんだし、いろはでいいじゃん

俺達別れよう!!」

「お前…」

和彦の冷たいため息に、怒ったか?とちょっとビビる俺

「なんだよ…」

「わかった…別れる」

おっ…?なんだ急に……拍子抜けというか……

和彦なら絶対に別れないって言うのに

………俺から言ったコトだけど…なんだこのモヤモヤは……

「オレは暫くここにいる、鬼神に迎えを頼むからお前は帰れ」

「あっそ…わかった

俺と別れていきなり同棲かー?アハハハ…」

俺は軽く和彦にツッコミを入れるみたいに手で叩こうとしたら、和彦は俺の手を払いのけた

「…別れたなら馴れ馴れしくするな」

和彦はいろはを連れて暗い廊下に消えて行った

ポカーンとマヌケに取り残される俺

「……はっ?なんなんオマエ!?ムカつくんだけど!!!??」

そしてなぜかキレる俺

契約の俺はレイ以外の、和彦と別れたくて仕方なかった

それが叶ったのに……めっちゃ喜ばしいコトなのに……

なんでこんなに嫌な気持ちになるんだよ!!!

クソ、腹立つぜ

さっさと寝て忘れよっと

鬼神が迎えに来て、帰ったらレイに会えるんだ

そしたら和彦のコトなんてすぐに忘れるだろ

部屋に戻ってベッドに潜り込んで目を閉じる

………全然…寝れねぇ!!!!??

それでも寝ようと目だけは閉じる



それから次の日も、その次の日も

和彦と偶然すれ違うコトはあったけど、声をかけても全無視だった

まるで俺はいないかのような扱い

なんだコイツ!?別れたからってそれは極端すぎだろ!?

………まぁ…和彦って世界最強だし…

普通なら手の届くような存在じゃない

和彦が勇者に興味を持ったから繋がった縁だ

それがなくなったら…俺達は一生交じり合うコトはないんだろうな

さらに次の日…と鬼神が迎えに来るまで何日経ったか

和彦が俺を無視するなら俺も和彦はいない者として目も合わせなくなった

そんな日が過ぎていって、やっと鬼神が迎えに来てくれて帰れるコトになった

「えっレイ!?レイも迎えに来てくれたの!?嬉しい!!会いたかった!!ずっと寂しかった!!」

鬼神と一緒にレイが来てくれたコトに俺は嬉しさのあまり勢いよく抱き付いた

そんな俺をレイは人前だからと遠慮がちに片手で支えてくれる

「セリ…」

鬼神がいなかったら、レイも寂しかった愛してるって言ってくれてた!!

「和彦さんは?」

「…知らねぇよあんな奴、さっ帰ろうぜ」

俺はレイの手を掴んで引っ張ったけど、レイは動かなかった

「和彦様がセリ様だけを連れて帰れって言ってたんやけど、なんか変やなって思って

なんかあったん?」

鬼神は和彦のコトよくわかってる

一緒に帰れないってコトはそれなりの理由があるハズと考えた

「なんかあったん?あったよね!?

アイツ、俺と別れたからって無視するんだよ!!

まっ、いろはとの同棲生活に俺が邪魔なんだろ」

「お前…何かやらかしたな?」

レイは俺に呆れるような目を向けた

「やらかしたんじゃなくて、和彦と勇者を別れさせた

だから褒めて?レイのライバルが1人減ったんだぞ!偉いだろ俺?」

甘えるようにレイの左腕に抱き付く

「……やらかしてる………」

レイはもう片方の手で頭を抱えて目を伏せた

「和彦様がセリ様と別れた?ありえへんやろ!?

あの和彦様やで!?死んでも別れへんって言ってたし、セリ様が別れるって言っても逃がさへん人やろ」

「知らねぇ…やっぱり女の方がいいって思ったんじゃねぇの?

本当に勇者に飽きたのかもな」

「……そうなってからお前が意識を引っ込めてセリが表に出た事はあるかい?」

「いやねぇけど?」

「それなら、暫くお前が表に出ていろ」

「えっいいの!?じゃあずっと俺はレイと一緒ってコト?」

嬉しすぎて笑顔がこぼれる

でもレイは険しい顔をしたままだった

「お前がした事はオレの願望だ

オレだけのセリでいてほしい…だからお前は和彦さんと別れるチャンスがあってそうしたんだろう」

レイは俺の両肩を掴んで真剣な目を向ける

「オレだって、それが本当なら嬉しいよ

でも、それはセリの意思じゃない

セリが和彦さんと別れた事実を知ったら悲しむ」

レイは…俺じゃダメなんだ

契約の俺じゃ意味ない…本物のセリじゃなきゃ……

本物が和彦と別れる気持ちがないと意味がない

確かに……

「お前にそうさせたオレが悪いし責任もあるが、オレがどうしたってどうにもならない

だから、お前が和彦さんと仲直りするんだ」

「えっ!?仲直り!?キモッ!?最初から仲良くねぇし!!」

「和彦さんはお前を理解してくれていた

オレの理想の契約のお前を、セリが受け入れたならと…

お前は和彦さんを理解しようとしたか?その身体を貸してくれているセリの事を考えたかい?」

「……勇者には…恩があるから…ちゃんと考えてるよ…

いろはが和彦と別れたら勇者を守ってくれるって、だいごろうのコトもなんとかするって言ったから…」

「お前は和彦さんといろはさんのどっちを信じられる?」

レイの言いたいコトはわかった…

俺はどっちも信じてねぇよ!って口から出そうになったけど、勢いのまま言うのはやめだ

和彦のコトは好きじゃねぇけど……良い奴だってのは知ってる……信じられるのも和彦だってわかってる

「…和彦なら……勇者を守ってくれる

わかったよレイ…」

「うん、お前は良い子だな」

レイは優しく微笑んで頭を撫でてくれた

嬉しい……嬉しいけど…

「和彦と仲直りするってコトは…キスとかしなきゃいけないのか……」

「なんで!?それはお前がしなくていいんだよ!?って言うか、和彦さんがそこは拒否るだろ…

お前はセリだけど、オレだけのセリなんだから」

それじゃああの和彦と仲直りするってどうやるんだ?

別れるって言ったから、今度はよりを戻すってコトだろ?

うーん…和彦には無視されてるし、どうしたら…

「わかってないけどわかった!!

とにかく和彦とまた話してみるよ」

レイは俺の頭をひと撫でして頬へと触れて、指で唇をなぞる

言わなくてもわかる…レイは俺のコト好きだってコト

人前でイチャつけないからこれが限界

でもそれだけでも幸せ!愛されてるって感じるから…

うん!!レイのために頑張るぞ!!!


そうして俺は鬼神に「ちょっと来て」と手を引っ張って2人で和彦の部屋を訪ねた

和彦の部屋をノックなしで入った途端に俺は鬼神の喉元にナイフを突きつけた

「えっ何々!?何すんのセリ様!?」

急なコトに鬼神は動揺しながら固まる

「おい和彦!!無視続けんならテメェの部下が酷い目にあうぜ!?」

和彦は目も合わせずに無視を続ける

「ナメてんのかオマエはよ!?俺はレイ以外どうなってもいいって覚悟なんだからマジでやっちまうぞ!?」

「やめてーーー!!セリ様ーー!!?本当に血が出てきたんやけど!?チクッとした!?和彦様ー!助けてーー!!この人、本気です!!!」

それでも無視を続ける和彦

「ちっ、部下の命なんてそんなもんかこの冷酷野郎!!人でなしが!!!」

まぁ鬼神が本気出せば俺から逃れられるし、俺が本気でやらないってのもわかってんだろうな

……それは俺を理解してるってコトか…

それなら…俺だってオマエを理解してるぜ

「和彦…無視はヤダ、こっち向いて?」

ナイフを放り投げて鬼神を解放した俺は和彦の隣に座って、その頬に触れた

和彦が大好きな勇者の姿だ、こんなコトされたらさすがに反応するだろ

「お願い…和彦とお話したいの」

ふっと耳に息を吹きかける

……コイツ魂抜けてんじゃね?ってくらい無反応

「和彦ってば!」

和彦の手を掴んで指を絡める

おいおい!この俺がここまでやってんだからなんか言えや!!テメェ!!!??

「わかったよ!!だったら絶対反応させてやるぜ!」

一切動かず無視を決め込む和彦に、近くにあった壺を持ち上げて後ろから頭目掛けて振り下ろした

さすがにこれは避けるって反応はするだろ!

そしたら俺を無視できなかったな!って言ってやる!!

ガシャン!と大きな音を立てたら…和彦の頭から血が流れた

「ぎゃーーー!!和彦様ーーー!!!??」

「はわわわわわわ……!!和彦なら絶対避けるって思ったから……俺悪くないもん…!」

鬼神は慌てて持ってきた荷物の中に薬があるからと取りに行った

俺はハンカチを取り出して和彦の血を拭う

「なんでそんなに無視するんだよ…

俺とはもう話せねぇって?

勇者に代わりたくても代われねぇよ…

オマエと別れたままじゃ…勇者が傷付くから…

だからオマエと仲直りしたいんだ!俺は!!」

和彦は俺の手を掴んで大きく息を吐いた

「…レイの入れ知恵か?」

「レイが仲直りしてこいって言ったけど…」

「………。」

暫く沈黙が続く

もしかして、また無視されてる?

「…言われたけど……よくわかってねぇけど

でも、和彦に無視されるのなんか嫌だった…

勇者への後ろめたさだったのか…それとも何かわかんねぇけど……

別れて嬉しいハズなのに…嬉しいだけじゃなかった

これは本当…」

「オレはお前が敵かと思った

セリくんのその口から別れると言わせるなんて」

「より戻したい」

和彦はずっと俺の方を向かなかった

だけど、俺がそれを言うと和彦ははじめて俺と目を合わせた

俺の方を向いてくれた

「ごめんなさい、別れようなんて嘘

無視しないで…これからも仲良くしてほしい」

自然と涙がこぼれる…

これはこの勇者の身体が勝手に泣いてるんだって思い込む

……和彦との長旅は嫌だったけど、嫌じゃなかった

和彦のコトちょっとは知れたし、良い奴だった

だから…前みたいに戻ってほしい

「より戻したいって……オレとキスできるって事?」

和彦に顎をすくい上げられて顔が近くなる

「いや!?そういうのは俺じゃないってレイが言ってた!!」

「知ってる、オレもお前にキスできないし、したくない」

と言いながらも和彦の腕が腰に回って逃げられないようにされた

「じゃあこの手はなんだよ!?離せ!!近いんだよ!!」

「別にセリくんと別れたつもりはないが、より戻すって言われたらキスくらいしたくなる

お前は退場、また後で」

「わかった!わかったから数秒待て!!」

目を閉じて、すぐに俺の意識は奥に引っ込めて勇者に表に出てもらった

いきなりのコトでビックリするだろうが、まぁなんとか後は任せた!!

意識が急にハッキリとして、目を開けると目の前には和彦の顔が近くて

なんだこの状況は!?一体契約とどうしてこんな状況に…!? 

「かずひ…っ」

名前を呼び切らないうちにキスで唇を塞がれる

まっ…待って、マジで…どういう状況!?

息苦しっ……和彦のキスが深くなって、何も考えられなくなる

もういいやって、溺れてしまう

「セリくん…浮気していいって本気で言ったのか?」

和彦しか見えていない、ぼーっとする思考のままあの時のコトを聞かれた

「えっ……?いや…俺は、和彦以外にも…」

「そんな話は聞いていない、セリくんが本気で思ってるのかどうかを聞いているんだ」

本気か…どうか……

そんなの

「嫌だよ…嫌だけど、自分だけズルいって」

「わかった、セリくんが嫌ならオレは浮気をしないよ」

嫌の言葉を聞ければもう待てないって和彦はまた俺の言葉ごと唇を奪う

和彦の手が肌に触れて、身体が熱くなる

ちょっと……待て、ちょっと待てないくらい和彦の勢いが凄くてそのまま流されてるけど

なんて言った!!!!??

あの和彦が……あの女好きで頑なに浮気はしないと言わなかった和彦が!?

ついに……浮気しないって…言ってくれたの?

和彦は言ったコトは必ず守るし、ウソを付かない男だ

だから、ずっと浮気はしないって言わなかった

いつか絶対浮気するんだろうなって不信感あったけど……ちゃんと言ってくれて嬉しい…

俺だけズルいから和彦も好きにしていいって伝えたつもりだったけど、和彦は…俺が本当は嫌だと思ってるコトはしないと言ってくれた

いいのかな…俺だけズルくて

「セリくんはそのままで、嫌な事は嫌と言えばいい

変に気を使われて、浮気していいなんて言われたら……オレは嫌だった

セリくんがそんな事をオレに言うなんて」

「嫌…?和彦が?変なの

オマエは昔も今も、俺の気持ちなんて関係ないって奴じゃん

俺が何を言ったって、そんなの知るかって」

「今もセリくんの気持ちは関係ないな

オレが嫌だと思っただけだ

浮気するオレに泣いて怒るセリくんじゃないと嫌だな」

「なんだそれ、最低だぞオマエ

でも、もう浮気しないって言ったから泣いて怒るコトもないな」

「もったいない約束したか」

「バカ、ちゃんと約束守れよ」

深いキスから和彦と心まで繋がる

和彦のコトはよく知ってると思ってたけど、まだ知らないところもあったんだな

あの時は調子悪いのかって思ったが、和彦は動揺してたんだ

あの和彦が動揺なんてはじめてじゃねぇかな

昔も今も、和彦は俺の気持ちは関係ないって奴だけど

昔と今じゃ変わってるよ

和彦は昔より、今は自分でも気付いてないくらい俺のコト好きになってるんだと思う 

俺も同じ…最初は和彦のコト死ぬほど大嫌いだったのに、いつも何回も思う

愛される度に…俺はコイツのコトめっちゃ好きになったんだなって

「……待って」

急に俺は冷静になって和彦の口元に手を当ててキスを止める

「いや!?どういう状況!?急に意識が戻ったらこの状況ってオマエついに契約にまで手を出したんじゃねぇだろうな!?」

「……どうだと思う?」

「俺だから浮気じゃないとか屁理屈言うつもりか!?」

「オレはセリくんだけだよ」

「それどっちの意味でも受け取れんだけど!?」

「(勝手に勘違いして勝手に嫉妬して勝手に怒ってるセリくん可愛い…)うーん?」

和彦はニコニコ笑ってなんかごまかしてる

「最低だぞ!この浮気者!!クソ野郎!!」

俺が何度叩いても和彦はハイハイと笑って受け止める

「いいねそれ、契約と浮気

セリくんも怒るし、レイもからかえるし、二度おいしい」

「ふざけんな!?もうオマエなんかマジで別れてやる!!!」

「いつもそう言って別れた事ないくせに」

ぐぬぬぬぬ……確かに和彦が浮気する度に俺が別れるって騒いでも結局別れたコトないよな…

まぁ正確には和彦からは逃れられないんだけど

和彦のコトだから本当に契約に手は出さないだろうが…いや、逆に和彦だからこそやりそう…

「セリくんが別れるって言っても離さないよ、オレは絶対に…死んでも離さない」

「………はぁ…オマエって本当、最悪だ…」

そう言えば、俺の機嫌が良くなるって知ってる

和彦の本命は俺だけってわかってるから…許してしまうというか…俺も別れたくないだけかも

和彦は俺の頬にキスして

「それじゃ、セリくんにはまた眠ってもらってお前が表に出てこい」

そう囁かれて意識が消える

「オマエが俺に命令するんじゃねぇ!!俺を呼んでいいのはレイだけだ!!」

「だが、お前が表に出てきてくれた」

だってレイに会いたいもん!!

和彦と仲直りできたから褒めてもらえる!!

勇者に浮気していいって言われたコトに悩んでたみたいだが、それも解決して一層絆を深めて仲良くイチャイチャしやがって…中にいる俺は最悪だったぜ

「本当にお前は良い奴だな

さすがレイの理想のセリくんだ」

「えっ…本当?俺はレイの理想?

レイに相応しい?」

「相応しい相応しい」

「本当?本当?」

「本当本当、お似合いのカップル」

「嬉しい…嬉しい…」

レイに相応しいのは俺だけ、当然だ俺はレイの理想なんだから

それを他人から見ても間違いないと言ってもらえるのは誇っていいな!!

レイとお似合いのカップルって言われて、普通に照れる

嬉しい…嬉しい…

「あっそうだ!和彦から言ってくれよ

あのフェイの奴に俺には二度と近付かないようにって!!

この前だって契約の俺と知って手を出してきたんだぞ!?」

「フェイは契約のお前の事も気に入ってるみたいだな」

「キモ!!そんなのどうでもいいから接近禁止を命令しろ!

和彦の命令ならアイツは聞くだろ!!」

「お前からフェイにキスしたって話を聞いたが?」

「都合良く切り取られてる!?

仕方なかったんだよ!!あの時はそうするしかなかったんだ…

レイには言うなよ!!」

「わかった、フェイとお前の関係はレイには秘密にしておくよ」

フフフと和彦は笑う

これは絶対あかんコト考えてる…弱み握られてる!?

………ナメやがって……なんだコイツ!!やっぱめっちゃムカつく!!!

仲直りなんてすんじゃなかった!!

「待てや!!フェイと俺の関係ってもっと怪しく聞こえるだろ!!

一生勇者に代わってやらなくてもいいんだぞ!!?

俺はこの身体に住まわせてもらってる側だが意識の切り替えは俺しかできねぇんだ!」

「口が滑ってレイに言うかもしれないな…

話に尾ひれが付いて、噂だがって言って?

オレは嘘を付かないからレイは信じるだろうな」

「コラコラ面白れぇぞ!!?噂には尾ひれ付くのはあるかもだが、何自分から尾ひれ付けようとしてんだよ!?

本当、オマエって最低だな

だから嫌いなんだよ」

「……オレはお前の言葉が意外だったよ

レイ以外はどうでもいいはずのお前なら、オレを大地の女神とくっつけてセリくんと別れさせてラッキーって思ったはずだ」

「思ったな」

でも…モヤモヤした……

俺は勇者に返しきれないくらいの恩があるから…

勇者を不幸にしたくなかっただけだ

勇者がたまに身体を貸してくれるから、俺はレイと一緒にいられる

普通は悪魔の契約に意識を乗っ取られるなんて気味が悪いだろうし嫌だろ

それでも、勇者は俺を受け入れてくれた

レイのやらかしたコトだからと

レイが好きになった人はそんな良い奴なんだよ…

それに和彦と一緒に旅をして…悪くはなかった

俺の世界はレイだけだったのに、俺は契約じゃなくて1人の人間として生きてる感じがした

俺を理解して1人の人間として接してくれたコトが……悪くなかった…

この気持ちをなんと言えばいいのかわからねぇけど…人間ってこんな感じなんだろうな

恋人のレイだけじゃなくて…仲間とか、友達とか…そういうの

契約にはないものとの繋がりが契約の俺にできるなんて、夢にも思わなかったから…

きっと他のみんなも…俺を理解して受け入れてくれる

それを拒否していたのは俺の方だ

和彦は俺に教えてくれたのかも、人間としての生き方を

「それに、セリくんが危険な目に遭うって事はその身体にいるお前も危険な目に遭うって事なんだぞ」

「ふん、俺は大悪魔シンの契約だからほとんどの悪魔は俺の言うコトを聞く

それで守ってもらってるから心配ねぇよ

それにレイは、絶対に…必ず…最後は俺を助けてくれるんだって、守ってくれるんだって、信じて疑わないから

どんなピンチに遭遇したって、レイを信じて待ってる…大丈夫だっての」

とは言ったものの…最近はシンの力が弱まったせいで悪魔もどこまで制御できるか…

またシンに力を取り戻してもらえばいいだけだが

「そうか、レイはセリくんの騎士だったな」

「そうそう!レイは俺の騎士様なんだ

素敵だろ?」

「素敵素敵」

「カッコいいだろ」

「カッコいいカッコいい」

「惚れるだろ」

「お前が惚れるくらいだから凄い男だな」

「うん……レイは凄いの…嬉しい、嬉しい」

もうレイしか見えないくらい大大大好き!!!

「和彦様ーーー!!お待たせしました!!

荷物が多すぎて薬を探すのに苦労しましたーーー!!」

バーンとノックなしで鬼神が突入してくる

おいおい…さっきの和彦と勇者がイチャついてる時のタイミングだったらどうすんだよ…

気まずいだろ…それに鬼神はそういう免疫ねぇし

まぁ和彦のコトだから鬼神の気配が近づいたらわかるか

「心配するな、もう血は止まっているし傷は深くない」

「しかし心配なんで!!薬塗ってください!!」

鬼神の後ろからレイも来てくれたから俺はレイの隣まで駆け寄るとベッタリと抱き付く

「セリ…いつも言ってるが、人前でそういうコトはしない」

「離れた期間が長すぎて無理~」

するなと言っても引き離さないレイも寂しかったからじゃん~

あ~レイの良い匂い…大好き、落ち着く

「お前達、こっちに来い」

急に和彦はレイと俺を人差し指で呼ぶ

いつもならオマエが来いよ!って無視するが、なんとなくレイと一緒に和彦の方へ行くと和彦は立ち上がり俺を背に隠した

そうすると数秒後に般若の顔をしたいろはがやってきた

「一体どういう事じゃ…」

気付いたレイも俺を背にして守ってくれる

俺はそんな後ろから顔だけ出していろはを見る

「セリくんとよりを戻したから帰るところ」

「ええんじゃな!?妾を敵に回して、その後ろの勇者の命が危うくなってしもうても!!」

俺を睨み付けるいろはの目にゾッとする

位の高い神族だ、俺なんて簡単に殺せる

「そうか、そうだったな

大地の女神が条件を出すなら、こちらも条件を出そう

セリくんを殺すと言うなら今ここであんたを殺す

だいごろうまで何とかしろとは言わない

あんたはセリくんに何もせず今まで通りの暮らしを続けるなら生かしてやる」

「元は人間の分際で…!!!」

いろははもう和彦にも般若の顔を隠さなくなった

「オレはセリくんを狙うなら女でも殺す

大地の女神は確かに強いだろうが、それでもオレの強さがわからないわけじゃないだろう?」

「くっ……厄介な人間が神族になったもんじゃ…

生死の神よ、元人間という事を忘れるでないぞ」

いろはは唇を噛み、自分では和彦には勝てないと今回は引いた

でも、いろはの言葉は前々からわかっていたコトだが神族の間では俺達のコトをよく思ってない勢が多いんだろう

いろは1人なら勝てても…神族何人かで来られたらさすがの和彦でも…

「わしら鬼神の事も忘れんといてや、神族のお嬢ちゃん」

和彦の隣に鬼神が立つ

そうか、和彦には鬼神八部衆もついてる

神族もそれをわかって手が出しにくいんだ

揉めないようにとバランスを取っては、いつか…と考えている

「鬼神なんぞ!再び封印してやろうぞ!!覚えておれ!!!」

いろはは握る拳に血を滲ませ背を向けて出て行った

とりあえずは…安心していいのか…?

「心配するなセリ、お前の事はオレが守るから」

「レイ…うん…信じてる」

ぎゅっとレイの服を掴むとレイは優しく俺の手を掴んでくれた

「さっ、皆帰ろうか」

和彦が振り向いて言うと

「そっすね!和彦様が数日いなかったんで、また仕事が大量に溜まってますんで!!」

鬼神の言葉で和彦は目を伏せた

「………セリくんと過ごす時間がまたなくなるって事か……

このままセリくんを攫って逃げようか?」

「だめです!!和彦様は生死の神なんですから」

和彦のイエスマンの鬼神は意外に仕事には厳しかった

「セリの事はオレに任せて和彦さんは10年くらい仕事頑張ってください!」

レイはぎゅっと俺を抱き寄せる

一生離さないで!!

「溜まった仕事なんて1日で片付けてやる

オレもセリくんと過ごすのを我慢していたんだぞ」

さっきめっちゃイチャついてたくせに

「さすがに和彦様でも1日は無理…」

「お前もオレの敵か…?」

「いやいや!?」

目で殺せそうな和彦に視線を向けられた鬼神は冷や汗が止まらない

そんなこんなで俺達は死者の国へ仲良く?帰るコトができた

当初の目的だったいろはを仲間にするコトは無理だったけど、俺にとっては…まぁ悪くない旅だったかな

自分が人間になれたような気がして…世界が眩しく見えるようになったかも

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