188話『心の中はいつもひとつだけ』セリ編
「和彦、浮気したいならしていいぞ」
たまたま時間が合って和彦と朝食を一緒にしている時に俺は唐突にそう言った
「……えっ?」
和彦のそんな返しと表情ははじめて見た
聞き違いか?って鳩が豆鉄砲食らったような顔、オマエでもそんな顔するんだな
最近考えてたんだ
俺は恋人が2人いて、好きな奴と気になる奴も1人ずついて
それは和彦含めてみんなが望んでる関係とは言っても、俺は4人もいるのに
和彦には浮気するなってのは、あまりにも自分勝手でワガママだよなって
本音を言えば、和彦には浮気してほしくないけどさ
嫌なもんは嫌だからな
「…すまないが、もう一度言ってくれ」
なんか声震えてないか?和彦の奴、どうしたんだ?
「ん?だから浮気したかったら好きにしろって」
もう一度俺が言うと和彦は、コップに手を伸ばして飲もうとしたが手が震えて水がこぼれて服にかかる
えーーー!?和彦がこぼすなんてはじめてすぎて、なんだ…調子悪いのか?風邪か?
体調管理はいつも完璧な和彦なのに…
「どうしたんだよ!?水めっちゃこぼれてんぞ!?」
俺はハンカチを取り出して和彦の服にかかった水を拭くが、和彦はそのコトすらわかってないようだった
「食事はもういい…セリくん、部屋で話をしよう」
「和彦まだ3人前しか食べてないのに、調子悪いのか?」
いつも朝は5~6人前くらい食べるのに、やっぱり風邪なんじゃ…
「これから和彦は仕事だったハズだけど、調子悪いなら休まないとな」
「調子はいつも通りだ、心配はない」
「そうか?あんまり無理するなよ
調子が悪いんじゃないなら、俺はもう行くよ」
「何処に?」
「忘れたのか?言っただろ、朝食の後はレイと約束してるって
和彦の話はまた後で聞くから」
そろそろ時間だなって時計を見る
和彦は俺の手を掴んで一瞬引き止められたけど、すぐにその手の力を緩めて俺を離した
「今日は休んだ方がいいんじゃないか?
和彦なんか調子悪そうだぞ」
「いい…レイと約束してるなら行ってこい」
いつもと様子が違う和彦が気になりながらも、俺はまた後でと伝えて行くコトにした
今日は勇者が俺に身体を貸してくれて、レイに会えると思ったら嬉しくなる
前の時は、シンを倒す倒さないでちょっと喧嘩になったし……
今日はそんなコト忘れてレイにいっぱい甘えよ~っと
レイとの楽しい時間が待ってるぞと気分良く廊下を歩いていると、空き部屋から急にホラーのように手が伸びて引きずり込まれる
「ご機嫌ですねセリ様」
もう驚かねぇぞ、この手口はもうフェイって決まってるからな
「たった今不機嫌になったね!今の俺は契約だからさっさと離せ
レイと一緒にいる時間が減るだろ」
逃げられないようにガッシリと身体を掴まれ、フェイは耳元で怪しく笑う
やめろ…息がかかって……こしょばいから
「離せ?どうして貴方の言う事を私が聞かなければいけないんですか?」
「それやるのは勇者本人にしろよ!契約の俺には関係ないだろ!?」
いいから離せと暴れるがフェイは離すどころか力を強めて俺の動きを封じる
「それがですね、聞いてください」
「はっ?なんで俺がオマエの話聞かなきゃなんねぇの?
壁に向かって話しかけてろよ、嫌いなんだよオマエなんか」
「セリ様は私の事がお嫌いでも、好きじゃないですか?」
「聞けよ!?知るかアホ!!」知ってるけど
勇者の身体に住んでるようなもんの俺は勇者の考えてるコトは多少わかる
「物足りないんです……
もちろん、私もセリ様の事は愛していますよ
心から…出逢ったその日からずっと好きでした」
「キモ……だから何?それ本人に言えばいいだろ
今は代わってやらねぇけど、とにかく離せ」
「昔のセリ様は、今のように全力で私を嫌っていて凄く可愛かったんです
今も可愛いんですけど、私は嫌がられたり嫌ったりしてるセリ様を力付くでめちゃくちゃにするのが好きなんですよね」
ノロケか?これはフェイなりのノロケなのか?
勇者と気持ちが通じて浮かれすぎてんじゃねぇの?
フェイは俺の唇を指で触れる
「おい!触んなよ!?俺はオマエの好きな勇者じゃねぇって言ってんだろ!?」
「そんなにお嫌ですか?私が
キスした仲なのに、あの時は貴方から私にキスしましたよね?」
………忘れてたのに…一瞬で記憶が蘇ってゾワゾワする…ひぇ~最悪、気持ち悪い
あの時は破魔の矢を手に入れるために仕方なく……
レイ以外とキスなんて死んでも嫌だったよ
でも、そうでもしないと破魔の矢を手に入れられなかったし…仕方なく……
「わかってるんだろ…オマエを油断させて破魔の矢を手に入れるためだって」
「油断と言うよりは驚きました
契約の貴方は何があってもレイ以外にはしないと思っていたので」
「したくねぇよ…でも、俺はレイの理想だけじゃなくて勇者の性格も持ってる
勇者は……自分を貶めるコトだって出来るから、自分が死ぬかもしれない(破魔の矢)なら……」
今は…死んでもいいと思ってる
レイのために死ねるなら、幸せだから
「そうですね…もう、そんな事はしないでください」
珍しくフェイが優しい……俺の唇を指で優しく撫でる
嫌なコトを我慢してやるなって…優しいじゃん、オマエ…
俺に言ったと言うよりは、勇者に言ってるようにも聞こえる
「やるなら私だけにしてください」
調子に乗るなって指を思いっきり噛む
「ふん!さっさと離せ!オマエと長話してる暇ねぇんだよ」
「可愛い……」
はっ?噛まれて可愛い…??
フェイは噛まれた指から血が滲むのを見ては満足そうに笑みを零す
「そうです、昔のセリ様はそうだったんです
凄く可愛いですよね
嫌なんですって、私の事が
だから、いつももっとセリ様が嫌がる事をしてしまうんですよ」
そう言ってフェイは俺の首筋にキスをする
「なっ…!?やめろバカッ!?ふざけるな!!!」
引き離そうとしても力で押さえつけられてしまう
あっ……なんか…熱くなって…ウソ…フェイの奴、痕付ける気なんじゃ!?
「えっ!?やだ…!!ヤダヤダ!やめて!!フェイ嫌!!やめて!!レイに嫌われちゃう!!」
「…その反応が可愛くてたまらないからやめないです
本気で泣いて嫌がるセリ様…我慢出来ない…」
「なんで!?なんで俺の時にこんなコトするんだよ!?
俺は契約なんだぞ!?オマエの好きな勇者じゃない
やめて……レイ…助けて、怖い」
次に何されるかわからなくて、怖くて震えていると部屋のドアが開く
逆光で誰かわからなかったけど、俺の腕を掴んで引っ張ってくれてすぐにわかった
レイが助けてくれたんだって
「……フェイ…どういうつもりだ…?」
凄く怒ってるレイ…
俺をしっかり片腕で抱き締めて、フェイを鋭く睨む
「少しからかっただけです
心配しなくても契約相手に一線は越えませんよ、セリ様に誓って」
フェイがあっさり離したから、本当にただからかっただけなんだろう
でも、俺は怖かった…フェイならやりそうだもん
「この子はオレのものだ、絶対に手を出すな
近付くな喋りかけるな見るな触れるな」
独占欲が強すぎる
レイは元々嫉妬深くて独占欲強かったな
でも、それを契約の俺にもしてくれるのは……嬉しい…
レイに独占されたい、ってか俺はレイだけのものだからな
「私は契約の事もそれなりに気に入ってるんですけれどね……」
フェイのポソッとした呟きも聞こえないまま
「セリ、行こう」
レイに背中を押されて部屋を出る前にフェイを睨み付ける
「フェイなんて……大嫌い……死ぬほど大嫌い」
思い出しただけでまた涙が出てくる
俺が嫌いと言えば、フェイは満足そうに笑った
ムカつく……
レイの部屋に帰るまでの廊下は何も話してくれなくて、部屋に帰ってからも沈黙になっちゃって
それが不安で怖くてたまらなくなった俺は声を震わせて聞いた
「レイ…俺のコト嫌いになった?」
俺の様子に気付いたレイは傍に寄るとそのまま抱きしめて頭を撫でてくれる
「嫌いになるわけないだろう
さっきのはフェイが悪ふざけしただけで、お前は悪くないんだ」
俺に優しくしてくれるレイ…大好き
きっと心の中では激しい嫉妬でおかしくなりそうなのを必死で抑えていたんだと思う
メンヘラスイッチ入ったレイのヤバさは身にしみて知ってるからな…
レイに優しくしてもらって安心する反面、やっぱりずっと気にしてる
破魔の矢の時に自分からフェイにキスしたコト…言えるワケがない
だからずっと罪悪感…あの時だけはレイの理想の俺じゃなかった
でも、俺が好きなのは愛してるのはレイだけ
「……まぁ…フェイも悪ふざけが過ぎただけで、もうしないだろう
許してやってくれ」
「レイはいっつもそう!!フェイのコトすぐ許すんだ!?
俺は許すつもりなんかねぇから…」
「あれでもオレの友人なんだ」
俺よりお友達が大切だって言いてぇのかよ!?
……いや違うな、いざって時のレイは俺(勇者)のためなら友達だって殺す
それはわかるんだが、レイは今まで友達がいなかったからわからないだけなんだ
だから必死に激しい嫉妬を抑えたりもする
前のレイだったら普通に殺してるぜ
今は力を失ってるとは言え、力を取り戻してもそこは変わらねぇだろう
そんなレイだから俺より友達のが大切なんか?って思うような言い方をするが、俺だからレイの本当の心がわかる!!
レイは何よりも俺が大切!!俺だけを愛してる!!!
でも、レイの友達だからって俺からしたら知るか!!って話しなんだよ
「……嫌だよ…レイ以外嫌だもん…」
なかなか俺が機嫌を損ね続けていると、いや当たり前なんだが
「わかった!わかったから機嫌を直してくれないかい?
気晴らしに2人で出掛けよう」
「えっ?ホント?うん!ヤッタ!レイと2人っきり、デートだ!!」
すぐに超ご機嫌になってパッと笑みがこぼれるそんな俺を見たレイの頬も緩んだ
……なんか誤魔化された気もするが…
まぁレイのたった1人の友達と関係悪化させるのもレイは望んじゃいねぇしな
レイの理想なら俺がうまく立ち回るしかねぇか
無理すぎる!?相手はフェイだぞ!?
そんなコトより今はレイとデートが楽しみすぎてあんな奴のコトはどうでもよくなるぜ!!
「その前に…」
レイに肩を掴まれたかと思うとキスされる
突然のキスに、ほわ~ってなっていると首筋に熱を感じた
フェイの時と違って、微かな痛みを感じても熱く気持ち良くなってくる
「っ…レイ……そんな」
昼間っから変な気持ちになっちゃうじゃん…
力が抜けて……しまう前にレイが離れた
「続きはまた夜に」
だ…だよね!?このまま…って期待しちゃったけど…いや俺はどっちでもいい
デートでも昼間から……でも……レイの好きにしてほしい
「フェイの事は忘れられたかい?」
「誰それ?」
忘れた忘れた!!もうなんもなかったかのようにレイのコトしか残ってない!!
嬉しい…レイ……ちゃんと上書きしてくれた
もう……大好き!!!
溢れる気持ちのまま俺はレイに笑顔で抱きついた
レイも抱きしめ返してくれて
幸せすぎる~……レイ大好き!大好き!!
そうして、レイと一緒に近くの町までお出掛けするコトになった
レイと2人っきりなら俺はどこでも良いし、嬉しいし楽しいもん
と……幸せな気持ちは一変する
「一体これは……」
ただタイミングが悪かったと言うだけなのかもしれない
本当に、ちょうど今現在、いつも近くだからって来ていた町が魔物に襲われていた……
最悪すぎる、何が最悪かって
魔物が恐いワケでもないし、町の人間がどうなろうが俺の知ったこっちゃねぇし
どうでもいいと言やどうでもいいんだが
目の前で人間が襲われていれば、勇者なら迷わず助けに行くだろうな
そうなると、契約の俺自身は勇者の力が使えないから勇者と交代しなきゃならねぇコトになる
せっかくのレイと一緒にいる時間が減る
それが俺の思う最悪だ、レイと俺の時間を邪魔するなんてクソだぜ
「……あ~嫌だな~…」
溜め息混じりに肩を落とす
「…セリが嫌なら見なかった事にすればいいじゃないか
オレはセリ以外がどうなろうとどうでもいい」
レイは冷たい人だった
そういう所に勇者が人でなしと言ってはたまに喧嘩するみたいだが、最後はレイが折れて勇者と人助けするコトになる
今回は最初から俺が表に出てるから、勇者は目の前のコトを知らない
そう…知らないから気にするコトないか!!
そうだな!レイが正しい!!見なかったコトにしよう!!
「じゃあ勇者と交代しないでこのままレイとデートするぞ!」
「もう少し歩くが、別の町に行こう」
「うん!!」
一瞬肩を落とすくらいテンション下がったが、すぐにわーい嬉しいってレイの腕を掴んで身体をくっつける
そうしてレイと俺が道から逸れると、巨大な影に通せんぼうされてしまった
「勇者を誘き出すつもりでこの町を襲ったらさっそく釣れた釣れた」
来るのが早すぎて驚いたと巨大な魔物が俺達を見下ろす
………あ、これもっと面倒くさいパターンじゃん
勇者は魔王の香月の恋人だ、そうなった時から魔族や魔物から敵対されるコトはない…ハズなんだが
少なからず、それを認めていない魔族や魔物もいてたまにこうして絡まれてしまう
魔族や魔物にとって勇者は天敵だ
それを香月の恋人になったからと言って、納得できない奴らだっているのは当然だろう
契約の俺からしたら、香月の恋人やめられるなら喜んでやめてぇよ
俺はレイだけの恋人でいたいの
「いやぁ~何か勘違いされているようで
そちらの親玉の香月さんと俺は一切何の関係もございませんので
オマエ達に絡まれる理由はないかと」
「遥か昔から勇者は魔物の敵、始末する
魔王様は騙されている」
「人違いです、俺は勇者じゃないんで」
ウソは言ってない、身体は勇者でも中身は大悪魔の契約
香月は騙されてるからおかしくなったと思ってるのか?
違うだろ、好きになったから変わったんだよ
でも、それが恋だから仕方ないよな
気持ちはわかるぜ
俺だってレイを好きすぎて、もう自分がおかしいってわかってるから
はいはいと魔物の話に頷きながら、スーッと隣を通り過ぎようとした
このままごまかせて通してくれねぇかな……
「逃がさない!!」
やっぱ無理か!?
魔物の手が伸びて掴まれそうになったが、レイが俺の手を掴んで引っ張ってくれた
そのままレイに引かれて逃げるように走る
「今のオレではお前を守ってやれない
死者の国まで逃げ切れば、奴らも追って来れないだろう
セリ、気合い入れて走れ」
「そ、そうだけど……」
レイの手をきゅっと握り返す
手を引かれながら逃げて走る中、俺は……やっぱりレイが死ぬほど好きだって
こんなピンチな状況なのに思う
だって………勇者に交代するだけで、あんな魔物の雑魚一瞬で倒せるもん
レイが俺に変われって言えば、レイは逃げなくても簡単に助かるのに
このまま…レイと一緒に逃げられたら……
でも、もしレイが傷付くコトがあったら……
なんとか逃げ切るコトができて、死者の国に戻ってきた
今日はというか、契約の俺が表に出てる間は外に出れねぇな
デートの続きは死者の国の中だけになるか…と思っていたら
「セリくん、捜していた
近くの町が魔物に襲われていると聞いてな」
和彦に捕まってしまった
情報が速いな、さすがと言うか
「ん?お前は契約か
すまないが、セリくんに代わってくれないか?」
こうなると数時間はレイと一緒にいられねぇな
「セリが魔物退治に行くならオレも一緒に行こう」
レイが一緒にいてくれる……勇者に戻っても俺の意識は勇者の中にあるから嬉しいけど、でも
「…今のレイは危ない、何かあったらって心配になるからここにいてほしい」
レイは自分で勇者を守りたいってプライドが強いから、それを傷付けないように言いたいが難しい
「…足手まといと言いたいんだな」
「そういうわけじゃ…!」
いや、実際にそうだ
町にいる魔物達は勇者を敵としている
勇者なら勝てない奴らじゃないがレイを狙われてもし殺されでもしたら……わかるだろ、勇者の気持ちが
和彦を殺された勇者の気持ちをレイなら理解してくれてると思っていた
でもレイは許してくれない
4人の中で1番独占欲が強くて嫉妬深くて依存してて、こうじゃなきゃ嫌だとワガママも強い
レイはきっと、自分の強さを失ってるコトに後悔してる
シンを倒せば……レイはまた勇者と一緒にいられるのに……簡単にそれができるのに
「………レイの…強さが戻れば……」
「その話はしたくない」
「あ…うん…ごめんね…レイ」
レイが迷ってるのがわかる…凄い悩んで
シンを倒せば俺が消えるとわかってるから
自分の強さと勇者と一緒にいるコトと、俺が消えるコト……前のレイなら迷うコトなく決めるのに
レイが辛いのわかってるのに、それでも……悩んでくれてるコトが嬉しかった
俺を消してしまうコトに…
「それじゃあ……代わるね」
レイを怒らせてしまった…?怖くて顔が見れなくて俺は逃げるように交代する
意識の交代は契約の俺にしか出来ない
勇者は契約の俺が表に出ると意識はなくなるが、俺は表に勇者が出てても意識がある
俺に意識がなくなるのは眠ってる時くらいだ
今日…楽しみだったんだけどな……
契約に身体を貸していたハズだが、緊急事態で和彦と一緒に近くの町の魔物退治に行くコトになった
和彦は契約のコトを申し訳なさそうに言っていたが、魔物相手は俺以外どうしようもないから仕方ない
また別の日に改めて契約に1日身体を貸してやるから気にするなと言った
今日も時間あれば、代わってやりたいけど
契約も楽しみにしてただろうし
「魔物が町を襲って俺を誘き出すなんて」
最初は俺1人で余裕だと思ってたが、レイの話からして俺を誘き出すために町を襲った
勇者の強さを知っているのに無策じゃないだろうってコトで和彦にフォローして貰うのが良いってコトなのだ
レイは今までそれは自分の役目だったのに、出来ないコトが悔しいと顔に出ていた
俺はレイの気持ちを知っていたから何も言えずにいて…気まずい空気になってしまう
契約もたぶんそうだったんだろうな
「セリくん…今朝の話なんだが」
「ん?」
和彦が珍しく弱々しい声を出す
朝から調子悪そうだったし…魔物退治は和彦以外に付き合ってもらった方がよかったんじゃ…
でも、自分が行くって聞かないしな
体調管理が完璧な和彦だから、逆に体調悪い時の休み方がわからねぇのかも
「あ、やっぱり調子悪いのか?
そういう時は無理しないで部屋で大人しく寝てるもんだぞ
レイは危険かもしれないって言ってたけど、魔物退治なら俺1人でも大丈夫だし」
「いや、話は魔物退治が終わってからにしよう
レイが言うなら万が一を考えてオレがセリくんを守らないとな」
………守るって…魔物が相手なら勇者の俺じゃなきゃトドメをさせないのに
俺以外はどんなに和彦が最強でも足止めまで
もしくはトラウマになるくらい痛めつけるか…(魔族や魔物を殺せるのは勇者の俺だけ)
でも、嬉しいと感じる
本当に守ってくれるし…頼りになるところも好きだなって思う、最高に心強いよ
「わかった!また後で話そうぜ」
ならず者の魔族と魔物が俺を狙ってるコトは知っていた
その連中にボスがいるって話だが、一際魔力の強さを感じねぇから今回もいねぇんだろうな
ソイツを叩かない限り、また面倒なコトにもなりそうだ
町に着くなり、暴れてる魔物をバッタバッタと倒していく
やっぱり…感じていた気配からしてそんなにレベルが高くない
和彦のフォローもいらねぇくらいだ
なのにわざわざ俺を誘き出したのはなぜなんだ?
実力の差がわからねぇただのアホの集まりだったのか?
「いつも思うが、魔物相手のセリくんは強いな」
「カッコいいだろ!?」
「可愛い」
「なんでだよ!?」
「その強さが魔物以外に使えたら」
「それな!和彦超えてぇよ」
「無理、セリくんは綺麗で可愛くて弱いオレの恋人だから」
弱いってムカつくな…
この強さが魔物以外にも使えてたら…そう考えたコトは何度だってある
俺が最強だったら…人生も大きく変わったんだろうな
自分で自分を助けるコトだってできた…
でも、運命はそれを許してくれない
………これまではそう思ってた
でもさ!今回の運命は違う!みんながいるから
俺は弱くても…自分のままでいいんだって思えて…よかった……なんて恥ずかしいけど
「そういえば、魔王の香月にはじめて会った時はどう思ったんだ?」
「急に何言ってんだ?」
「いつもセリくんは香月が好みのタイプって言ってたから
そんな好みのタイプと最初の最初に出逢って、魔王と勇者だからって戦ってたんだろう?」
永遠のような生まれ変わりを繰り返して、最初の前世か…気の遠くなるような古い記憶だけど
「つまり香月の第一印象ってコトだよな?」
結構最初の最初覚えてたりするんだよな
「魔王のイメージって魔族と魔物の王様だから化けもんみたいなの想像してた」
「そうだな、オレもイメージだけで言うならそうかも」
その化けもんイメージのせいもあってか、香月と最初に対峙した時は
「かっ……けぇ……
って思った!笑うやろ!?」
「素直」
「こんな美形な男この世にいる!?みたいな!」
「セリくんだって綺麗」
「でもそんな惚れるとかないぜ!?
当時の俺は女の子が好きだと信じてたから!!今も信じたいけど!?」
正直あまりの美形さにドキッとはしたけど、それが好きとはわからなかったよな~
その印象が強すぎて勝敗は覚えてねぇ
めっちゃ強かったのだけは覚えてる
あの見えない力は反則とか思ったけど、それがなんとなくわかる俺も反則だと思う
「好みのタイプか」
「和彦だってあるだろ?好みのタイプ」
「セリくん」
「そういや俺の顔が好きとか言ってたな
レイもだけど、フェイもはじめて会った時からだから
みんな俺の顔だけか!?いや足フェチのフェイにいたっては足だけか!?」
香月も俺のコト綺麗だって褒めてくれてた…みんな俺の見た目だけなのか……
「そんな事ない、セリくんだから好き
同じ顔でもセリくんじゃないなら好きじゃない」
「……ふ、ふーん…あっそ…」
当たり前のコト言われて、でもそれが嬉しいのか照れる
でも、確かにそうだ
言われてみれば、俺の中に住んでる(?)契約が表に出てる時とか和彦は同じ俺の見た目なのに別人として接してるし
契約のコト好きになってない
あれ…なんか嬉しいかも?なんか……俺ちゃんと和彦に惚れてるんだなってムカつくな
そんなこんなで会話をする余裕もありながら町の魔物を掃除していると
目の前にふわっと毛玉が転がってきた
「ボスは僕ちゃんだ!!」
ドーン!と言わんばかりの態度のデカさとは反対にサイズは小動物
1番レベルが低い魔物……?ウサギっぽくてフワフワじゃん……いや可愛いだけ!?
プルプルしてるし
俺が恐いのかな?
きっと背伸びしてるだけで本当のボスではないんだろうな
気の強いウサギと言えばカニバを思い出す
ポップがボスは面倒な奴って言ってたし、こんな可愛いだけの魔物は面倒じゃねぇよな!!?
「可愛い~ナデナデしてやるぞ」
「僕ちゃんをナメるな!!」
俺が手を伸ばすと自称ボスちゃんは威嚇する
全然怖くないどころかただ可愛いだけ!!丸いの可愛ぇえ!!
「ポップが面倒な奴って言ってたんだろ?
迂闊に触って大丈夫なのか?」
「平気平気、だってコイツからはそんなに強い魔力は感じないし
レベルの低い魔物だよ」
そう言ってボスちゃんを抱っこしたが、すぐに投げ捨てた
「セリくん…?」
可愛いからって安心してバカな勇者だな
「お前……契約か?」
コロコロ転がるボスちゃんを横目に和彦に答える
「和彦にしては甘かったんじゃねぇの?
勇者は気付いていなかったが、コイツは特殊な能力を持ってる
触れた者の寿命を削る厄介な…面倒な奴だ」
契約の俺には寿命がないから無効だし、同じく寿命がない神族の和彦にももちろん無効
だが、人間の勇者は寿命がある
それも残り短い寿命がな
「なるほど…寿命を削るとまでは気付かなかったが、何かあったらお前が助けてくれるとは信じていたよ」
ふっと和彦は軽く笑う
そのなんでも見透かしたかのような態度ムカつく嫌いだな
「ふん別に、俺は勇者を助けたつもりはねぇよ
勇者が死ぬと俺も道連れになるから自分のためにそれを回避しただけだ
もっとレイと一緒にいたいのに、こんな雑魚に寿命削られて死んでたまるか」
ボスちゃんを蹴って転がしていると、和彦の手が伸びて頭を触られて反射的に避けてしまう
「……何…?」
「癖だ、許せ」
前もあったな、和彦も無意識で動くコトもあるのか
「レイ以外は触るな、気をつけろ
とにかく、こんな雑魚がボスとは思えないが能力が勇者にとって危険だ
魔物は勇者以外倒せないし、和彦も俺にも」
「本当にボスかもしれないぞ」
「はっ?なんでそんなコトわかるんだよ」
「死者の国のボスはオレと思うか?」
「まぁ和彦以外にいないだろ」
「裏のボスはセリくんかもしれないな
オレはセリくんの言う事なら聞いてしまうから
フェイも鬼神もそうだ
レイだってそうだろう」
「……なるほどな、そういう考えもありえるな
オマエ達みんな勇者に甘すぎる
レイは俺だけに優しくして甘やかしてほしいけど」
ボスちゃんは俺に蹴られてなぜか喜んでいる
たぶん遊んでもらってる感覚なのかもしれねぇが、コロコロしては戻って蹴っての繰り返しだ
そして懐かれた
「楽しい!面白い!お前良い奴!ボスちゃん気に入った!」
さっきまで威嚇してたのに!?急にボスの役割放棄すんじゃん
「いや困るんですけど…オマエに付きまとわれたら勇者の寿命減らされて死ぬから」
「悲劇な関係…!!ボスちゃんショック!!」
可哀想だが仕方ねぇよ…ボスちゃんの能力は勇者と相性が最悪レベルに悪すぎる
「残念なの…」
ボスちゃんはしょんぼりしながら帰っていった
……えっいいの!?こんな終わり方で!?
オマエ達って魔族と魔物の中でも勇者のコト敵として見てて今回勇者を潰すためにこの町襲って誘き出したんじゃなかったっけ!?
結局暴れるだけ暴れて、俺からしたらレイとの大切で貴重な時間を奪われて腹立つんだけど!?
ボスちゃんが俺を気に入ったコトで、もうこの先そちらさんがちょっかいかけてこないってんならまぁ…悪くはないが
そんな単純なコトじゃねぇだろ、気が遠くなるような年月がはい!なかったコトになります!気持ち切り替えます!なんてありえねぇもんな
「ボスちゃんはともかく…これからも面倒くさそうだな」
「間違いない」
「それじゃあ、とっとと帰るぞ
レイに早く会いたいしな
あっ、そういや魔物退治が終わったら勇者に話があるんだっけ?
帰り道だけなら代わってやってもいいぜ」
帰ったら真っ先にレイに会いに行くから!!
和彦は一瞬だけ考えた様子を見せて
「ちょうどいい、お前に協力してほしい事がある」
狂ったひとことを言う
「無理!!!!」
「セリくんを助けるためだ、お前が長生きするためなんだが?」
「むっ…!!りとは言えねぇコト言うじゃねぇか……
お前に協力するのは無理でも、俺は長生きしてぇ
少しでもレイと長い時間を過ごしたいからな」
「だろう?」
ふふっと和彦は笑う
笑うんじゃねぇ!いちいちムカつくな!
「一緒に来てほしい、お前の方が都合が良い」
「はっ?なんで俺が?
オマエと暫く一緒にいろって?最悪だろ、やっぱ無理」
「長生きしてレイと一緒にいたいだろ?」
ぐぬぬぬぬぬぬ……
レイの名前出せば俺が「うん」と言うと思いやがって
「うん!!!!!レイとずっと一緒にいたい!!」
この質問に「いいえ」はないだろ!?仕方なかったんだよ!!!
「ちょっと待てや!!うんとは言うが、ならレイも一緒に来てもらうってコトでここは譲ってやってもいいぜ?」
「今のレイは足手まとい」
和彦はバッサリと切り捨てる
レイのコトしか頭にない俺に現実を突きつける
その言葉で少し冷静になれた
本当のレイは足手まといなんかじゃない、今は力を失ってるだけで…
でも俺が存在している限り…本当のレイには戻れない
レイ自身も…弱い自分が大嫌いで…強さを取り戻したがってる
勇者をまた自分で守るために…
俺は長生きしたいけど…レイのためならいつだって消える覚悟はある
レイはそれを許してくれない、レイは自分の想いと俺の狭間で苦しんでる
「………本当のレイはオマエになんか負けねぇ」
「超遠距離の戦い方が出来るレイは、オレでも厄介だ」
「レイは世界一カッコイイんだ」
レイが勇者を守りたいなら、俺も協力したい
「お前のレイは世界一だよ」
当然だろ!!!
和彦のコト嫌いだけど…もしかしなくても良い奴ではあるのかも
俺のレイは世界一って認めてくれる
和彦自身は自分が1番だと思ってるし、勇者にもオレが1番だよな?って謎の自信があるのに
俺にはそれを押し付けてこないし、ちゃんとレイと俺を認めてくれる
優しくねぇのに優しいんだよな~…勇者が惚れるのもわからんでもねぇ
俺は1ミリも和彦に惚れねぇけど
「仕方ねぇな!俺が長生きするため(勇者を守るため)に付き合ってやるよ」
「……扱いやすい」
「あっ?なんか言ったか?」
そんなこんなで、和彦と俺の2人旅がはじまった




