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第1巻 第6話 怪物を憎んだ村

第1巻 第6話 怪物を恐れる村


集落全体が、突然、静寂に包まれた。


ほんの少し前まで、村人たちの静かな話し声があたりに響いていた。


だが今は、物音ひとつ聞こえない。


レンの目の前には、青いメッセージがまだ表示されていた。


【未知のエコーを検知しました。】


【発生源:近傍。】


レンはそのメッセージを、しばらくじっと見つめた。


それから、ゆっくりと尋ねた。


「未知のエコー……?」


彼は金色の瞳を持つ生き物に目を向けた。


「これが何を意味するのか……知っているんだろ?」


金色の瞳を持つ生き物は、すぐには答えなかった。


その金色の瞳が塔からレンへと移り、やがてレンをじっと見つめた。


そのとき、背後から怯えた声が響いた。


「そいつに近づくな!」


何人もの村人が、すぐさま後ずさった。


一人の男が塔を指さした。


「塔があの生き物に反応したんだ!」


別の村人が、不安そうに口を開いた。


「こんなに強く反応するのは、今まで見たことがないぞ」


さらに別の者が言った。


「普通のエコーであるはずがない」


レンは周囲を見回した。


誰もが、まるで自分がとんでもなく危険な存在であるかのように見つめていた。


小さな子供が、母親の後ろに隠れた。


レンはその様子を見た。


(ほんの数日前まで、俺は普通の人間だったのに……)


(今じゃ、村全体が俺を怖がっているのか)


レンは小さくつぶやいた。


「そんなに怖い見た目じゃないと思うんだけど……」


金色の瞳を持つ生き物がレンを見た。


レンは少し苛立った。


「何だよ? ただ思ったことを言っただけだろ」


二人の間に、気まずい沈黙が流れた。


すると、一人の村人が金色の瞳を持つ生き物の前に立ちはだかった。


「どうしてそいつをここへ連れてきた?」


金色の瞳を持つ生き物は、落ち着いた様子で答えた。


「森に一人で放置するのは、正しいことではなかったからだ」


男はレンに目を向けた。


「だが、そいつが何なのか、本当にわかっているのか?」


金色の瞳を持つ生き物は、少し考えた。


「いくつかわかっていることはある」


村人はすぐに尋ねた。


「なら教えろ。そいつは何の種族なんだ?」


金色の瞳を持つ生き物は、しばらく黙っていた。


やがて、こう答えた。


「それは、まだわからない」


村人たちの間に、ささやき声が広がった。


「わからないだと?」


「それなのに、どうして連れてきたんだ?」


「塔が反応したんだぞ。危険な存在かもしれない!」


レンは、そのすべてを聞いていた。


とうとう、彼は口を開いた。


「俺は誰も傷つけていない」


その場にいた全員が、レンを振り返った。


レンは少し居心地の悪さを感じた。


「……何だよ?」


一人の男が答えた。


「今のところは、な」


レンは男を見つめた。


「それは安心できる説明だな」


金色の瞳を持つ生き物がレンに目を向けた。


その金色の瞳には、真剣な光が宿っていた。


それから、村人たちに向き直った。


「塔がエコーに反応したからといって、その生き物が危険だと証明されたわけではない」


村人の一人が、すぐに尋ねた。


「なら、どうして塔はあんな反応をしたんだ?」


金色の瞳を持つ生き物は、しばらく黙り込んだ。


そして、答えた。


「それを調べようとしているところだ」


レンは彼を見た。


(こいつも、何もかも知っているわけじゃないんだな……)


その事実に、レンは不思議な気持ちになった。


これまで彼は、金色の瞳を持つ生き物なら、自分についてすべて知っているのかもしれないと思っていた。


だが、そうではないのかもしれない。


彼が知っているのは、レンの名前。


普通ではないエコー。


そして、おそらく「アークライト」という名に結びついた、古い何か。


しかし、レンのすべてを知っているわけではなかった。


彼自身でさえ、まだ真実を知らないのだ。


そのとき、村の老人が前に進み出た。


「エコー塔は、何の理由もなく建てられたものではない」


その場にいた全員が老人に目を向けた。


老人は塔を見上げた。


「遠い昔、この村の周辺では、異常なエコーによって地域一帯が危険にさらされる事件が起きていた」


レンは注意深く耳を傾けた。


「だからこそ、塔が建てられたのだ。その役目は、誰かが善か悪かを決めることではない」


老人はレンを見た。


「塔はただ、異常なエコーの活動を検知するだけなのだ」


レンは尋ねた。


「じゃあ……塔は、俺が危険だと言っていたわけじゃないのか?」


老人は首を横に振った。


「違う。塔は、お前のエコーが自分にとって未知のものだと知らせただけだ」


レンは少しだけ安堵した。


「それなら、どうしてみんな俺をそんな目で見るんだ?」


老人は答えなかった。


代わりに、別の村人が口を開いた。


「理解できないものを恐れるほうが、簡単だからだ」


レンはしばらく黙っていた。


その気持ちは、彼にも理解できた。


すると、別の村人が金色の瞳を持つ生き物に目を向けた。


「だが、お前自身もそいつのことをすべて知っているわけではないんだろう? それなのに、どうしてそいつを信用できる?」


金色の瞳を持つ生き物は、その男を見た。


「今すぐ信用する必要はない」


彼は一度言葉を切った。


「だが、理由もなく敵として扱う必要もないはずだ」


集落は再び静まり返った。


そのとき初めて、レンは気づいた。


金色の瞳を持つ生き物は、ただ自分をここまで連れてきた見知らぬ存在ではなかった。


彼は、レンをかばってくれているのだ。


そのとき――。


一人の小さな少女が、母親の後ろからゆっくりと姿を現した。


少女の目は、レンに向けられていた。


母親はすぐに少女の手をつかんだ。


「そっちへ行ってはだめよ」


少女は尋ねた。


「でも……この子、悪い子なの?」


母親は答えなかった。


レンは少女を見た。


そして、ゆっくりと尻尾を動かした。


少女の目が、少し大きくなった。


「尻尾が動いてる……」


レンは慌てて自分の尻尾を見下ろした。


(……あ。)


彼自身も驚いていた。


金色の瞳を持つ生き物がレンを見た。


その顔に、ごくかすかな笑みが浮かんだ。


レンは彼をじっと見つめた。


「今、笑っただろ?」


「いや」


「顔がそう言ってるけど?」


金色の瞳を持つ生き物は何も答えなかった。


少女はゆっくりと尋ねた。


「近くまで行ってもいい?」


母親はまだ迷っていた。


だが、老人が口を開いた。


「少し離れたところからなら、構わない」


少女はゆっくりとレンに近づいた。


レンは動かずに待った。


少女は少し離れた場所から、彼を見つめた。


「あなた……お話しできるの?」


レンは答えた。


「ああ」


少女の目が輝いた。


「人間じゃないの?」


レンは少し黙った。


それから、自分の四本の脚を見下ろした。


「見ればわかるだろ」


少女はくすくすと笑った。


この集落に来てから初めて、レンの心は少しだけ軽くなった。


だが、そのとき――。


ドガァァン!


村の外から、大きな音が響いた。


全員が一斉にそちらを振り返った。


金色の瞳を持つ生き物のかすかな笑みが消えた。


その金色の瞳は、森のほうを鋭く見据えていた。


レンも警戒を強めた。


「何があったんだ?」


金色の瞳を持つ生き物は、静かに答えた。


「何かが村の近くまで来た」


警備にあたっていた男の一人が、武器に手を伸ばした。


「塔の反応に引き寄せられてきたのか?」


金色の瞳を持つ生き物は答えなかった。


彼はしばらく森を見つめ続けた。


やがて、レンに目を向けた。


「俺のそばを離れるな」


レンは尋ねた。


「どうして?」


金色の瞳を持つ生き物は、声をひそめて言った。


「塔の反応を感じ取ったのは、村人たちだけではないと思う」


レンの目が、わずかに見開かれた。


「それって……」


金色の瞳を持つ生き物は森へ目を向けた。


「ほかにも、お前の存在を感じ取った何かがいる」


レンは何も言わなかった。


森の奥深く、暗闇の中に――二つの小さな光る目が現れた。


そして今度は……。


その目は、レンを見つめていた。


第6話 終わり

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