第1巻 — 第16章 — エルファルーディア到着
静かな月の下にいる生き物
第1巻 —
第16章 — エルファルーディア到着
森の小道は、次第に開け始めていた。
高い木々の間に、いくつかの明かりが見え始めた。近くにある集落の家々や窓から漏れている光のようだった。
リアは期待に胸を弾ませながら、前方を見つめた。
「ほら、見えてきたよ! もう少しで村に着くからね」
レンはリアの腕の中から顔を覗かせ、遠くに見える明かりを眺めた。
(ようやく村に着くんだな。ここの人たち、僕を怖がったりしないといいけど……)
リアはレンに目を向け、微笑んだ。
「ん? レンのことを怖がる人なんているわけないでしょ?」
レンは彼女を見上げた。
(そうだといいけど……)
ケイルは何も言わず、前方の道を見つめながら歩き続けていた。
しばらくすると、村の入口が見えてきた。木と石で造られた門の周囲には松明が灯され、夜の闇の中を暖かな光で照らしていた。
入口の両側には、二人の門番が立っていた。
近づいてくる一行に気づくと、門番たちは警戒した。しかし、そのうちの一人がリアの姿を認めると、表情を和らげて笑顔を浮かべた。
「おお、リア! 戻ってきたのか!」
リアは嬉しそうに手を振った。
「うん! やっと帰ってきたよ!」
門番は続いて、リアの隣を歩くケイルと、彼女の腕の中にいるレンに目を向けた。そして最後に、黒く光る鱗に覆われた大きな体を持つヴェルソルに視線を移した。
門番は、その巨体をしばらく見つめた。
「今回は新しい仲間を連れてきたみたいだな。それに、その大きなやつは何者なんだ?」
リアはヴェルソルを見て微笑んだ。
「この子も一緒についてきたんだよ。森で一人でいるところを見つけたの」
もう一人の門番はレンに目を向け、小さく微笑んだ。
「それに、ずいぶん可愛らしい小さな仲間も見つけたようだな」
リアはレンを少し持ち上げた。
「この子の名前はレンだよ」
最初の門番は微笑んだ。
「そうか。もう遅いし、早く中に入るといい」
リアは頷いた。
「うん、そうするね。ありがとう! またね!」
二人の門番は脇へ退き、一行が通れるように道を開けた。
リア、ケイル、ヴェルソル、そしてレンは門を通り抜け、村の中へと入っていった。
---
村の中は穏やかな雰囲気に包まれていた。
すでに夜も遅かったため、ほとんどの家は扉を閉めていた。いくつかの窓からは暖かな光が漏れている。ところどころでは、夕方から続けていた家事を終えようとしている住民や、家の中へ入る前にランプの火を消している人たちの姿が見られた。
遠くで、どこかの扉が閉まる音がした。
レンは興味深そうに周囲を見回した。
(ここは森とはずいぶん違うな。家がたくさんあって、窓から明かりが漏れていて、人々が普通に暮らしている様子が伝わってくる)
リアは村に戻ってこられたことが嬉しいのか、楽しそうに歩き続けていた。
しばらくすると、彼女はレンに視線を落とした。
「あっ、レン! そういえば、まだ村の名前を教えてなかったね!」
レンは彼女を見上げた。
「うん、まだ聞いてなかったよ」
リアは微笑んだ。
「この村の名前は、エルファルーディアっていうんだよ!」
その後、一行は大きくも質素で美しい一軒の家の前に到着した。
「ここが私の家だよ」とリアは言った。
彼女は扉を開け、中へ入った。
「おじいちゃーん! ただいま!」
家の中から、年老いた男性の声が聞こえてきた。
「リアか? お前なのか?」
数秒後、年配の男性が玄関に姿を現した。顔には年齢を重ねた様子が見られたが、その瞳は温かく、しっかりとしていた。
リアはすぐに彼のもとへ駆け寄った。
「おじいちゃん!」
彼は優しく微笑んだ。
「無事に帰ってきてくれてよかった。心配していたんだぞ」
リアは彼に抱きついた。
「おじいちゃん、体の具合はどう? もう大丈夫なの?」
「わしは何ともないよ。そんなに心配しなくていい」
リアは一歩下がり、持ってきた薬草を取り出した。
「見て! おじいちゃんのために薬草を持ってきたよ」
老人は薬草に目を向け、それから再び彼女を見た。
「リア、わしのためにそこまで苦労する必要はなかったんだよ。ほら、見ての通り元気だからな。お前は心配しすぎなんだ」
リアはまだ少し心配そうな顔をしていた。
「それでも、持ってきたかったんだよ」
彼は優しく微笑んだ。
「そうか。ありがとうな」
そこでようやく、リアは仲間たちの方へ振り返った。
「そうだ、おじいちゃん。新しい友達を連れてきたんだよ」
エリリアンの視線が彼らへと移った。
彼の目は、まずケイルの姿を捉えた。
その瞬間、彼の表情が変わった。
「ケイル?」
ケイルは彼を見て、軽く頭を下げた。
「お久しぶりです、先生」
老人は、見間違いではないか確かめるように、数秒間彼を見つめた。
「本当にお前なのか? ずいぶん久しぶりだな! まさか、またここで会えるとは思わなかったぞ」
ケイルは少し姿勢を正した。
「私も、ここで先生にお会いできるとは思っていませんでした。お元気でしたか?」
「元気にしているよ。年を取れば多少の不調は出てくるが、何とかやっている」
彼の顔に、かすかな笑みが浮かんだ。
「こうして再会できて、本当に嬉しいよ」
リアは二人を交互に見て、驚いた表情を浮かべた。
「えっ! 二人とも知り合いなの?」
エリリアンは小さく笑った。
「もちろんだ。ケイルは昔、わしの弟子だったんだ。若い頃、剣術を教えていたんだよ」
リアは目を大きく見開いた。
「えっ! ケイルって、おじいちゃんから剣術を習っていたの?」
エリリアンは頷いた。
「剣の扱い方を教えていたんだ。あの頃のケイルは、ずいぶん熱心に修行していたよ」
リアは祖父を見た。
「おじいちゃん、だったらどうして私には剣術を教えてくれなかったの?」
エリリアンは少し彼女を見つめてから答えた。
「お前は昔から弓に興味があっただろう。あまり興味のない武器を無理に学ばせたくなかったんだ。お前には、自分が好きだと思える道を進んでほしかったからな」
リアは少し考えた。
「でも、両方習うことだってできたのに」
エリリアンはかすかに微笑んだ。
「そうかもしれないな。だが、今から剣術を学びたいと思うなら、何も遅くはないぞ」
リアは一瞬だけケイルに目を向け、それから再び祖父を見た。
彼女はそれ以上何も言わなかった。
その間、レンは二人の会話を聞いていた。彼はリアを見て、それから年配の男性へと視線を移した。
「リア、おじいちゃんの名前は何ていうの?」
リアはレンを見た。
「エリリアンっていう名前だよ」
エリリアンはリアの腕の中にいるレンへ目を向けた。
「それで、この小さな子は誰なんだい?」
リアはレンを優しく抱き直した。
「この子の名前はレンだよ。私の新しい友達なの」
エリリアンは優しい表情で小さな生き物を見つめた。
「レンか。いい名前だな」
レンは彼を見返した。
エリリアンは部屋の方へ手を向けた。
「さあ、みんな中へ入りなさい。長い旅で疲れただろう。少し座って休むといい」
リアはレンを抱いたまま近くの椅子へ向かい、腰を下ろした。ケイルもその隣の席に座った。
しばらくして、ケイルはエリリアンに目を向けた。
「リアが私たちをここまで案内してくれました。家に迎えてくださり、ありがとうございます」
エリリアンは優しく微笑み、頷いた。
少し間を置いてから、再びケイルを見た。
「ところで、ケイル。何年も経ってから、どうしてここへ来たんだ? アルドリック王の命令でここへ来たのか?」
ケイルは一瞬黙った。
「いいえ。別の理由でここへ来ました」
エリリアンはしばらく彼を見つめた。
「それで、何があったんだ?」
ケイルは少し考えてから答えた。
「王から、レンを始末するよう命じられました」
数秒間、部屋に沈黙が流れた。
エリリアンは驚きに目を見開いた。
「何だと? この小さな生き物をか?」
彼はレンを見てから、再びケイルに目を向けた。
「なぜ、そんな命令を出したんだ?」
「王はレンを潜在的な脅威だと考えています。彼の能力については、誰も何も知りません。しかし、正体が分からないというだけで、彼を見捨てることはできませんでした」
エリリアンはしばらく黙っていた。
「それで、王の命令を拒んだのか?」
「はい」
「ケイル、お前は王の特別大臣の一人だった。王から信頼されていたんだ。命令に背けば、どのような結果になるか分かっているだろう?」
「分かっています」
ケイルの声は落ち着いたままだった。
「それでも、レンを一人にすることはできませんでした」
エリリアンは数秒間彼を見つめ、ゆっくりと息を吐いた。
「そうか……」
少し間を置いてから、彼は続けた。
「アルドリック王は、お前の決断を簡単には受け入れないだろう。命令に従わなかったことで、王はさらに警戒を強めるはずだ」
ケイルは何も言わなかった。
エリリアンは考え込むような声で続けた。
「少し前に、お前はレンの能力がまだ分かっていないと話してくれたな。それなら、王が心配するのも理解できる」
レンは静かに話を聞いていた。
エリリアンはケイルへ視線を向けた。
「古代の封印については知っているな?」
ケイルは頷いた。
「はい。よく知っています」
「なら、その封印の一つでも弱まり始めた場合、どれほど深刻な事態になるかも理解しているだろう」
「理解しています」
エリリアンは少し間を置いてから、再び口を開いた。
「だが、それはレンが罪を背負うべきだという意味ではない。未知のものに警戒するのは自然なことだ。しかし、理解しようともせずに判断するのは正しくない」
彼はケイルをまっすぐ見つめた。
「わしはお前の決断を尊重する。望むだけ、ここにいていい」
ケイルは軽く頭を下げた。
「ありがとうございます、先生」
リアはレンを優しく抱きながら、静かに座っていた。二人の男性が話している内容の多くは彼女には馴染みのないものだったが、口を挟むことはなかった。
やがてエリリアンは彼女に目を向けた。
「もう遅いな。長い旅で、みんな腹も減っているだろう。夕食を用意しよう」
リアは頷いた。
「ありがとう、おじいちゃん」
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しばらくすると、夕食が運ばれてきた。
料理は質素なものだったが、心地よい香りが部屋いっぱいに広がった。長い旅の後だったこともあり、誰にとっても嬉しい食事だった。
リアはレンを膝の上に座らせ、彼の前に少しだけ料理を置いた。
「はい、レン。あなたも何か食べてね」
レンは料理を見つめた。
(やった! 今日もまた月の実だけで過ごすことになるのかと思ったよ)
リアはレンに優しく一口食べさせてから、自分も食事を始めた。
「どう? おいしい?」
レンは嬉しそうに頷いた。
リアは微笑み、もう一口差し出した。
エリリアンは二人の様子を、かすかな笑みを浮かべながら眺めていた。
「どうやら、お前はこの小さな友達がずいぶん気に入ったようだな」
リアは愛おしそうにレンを見た。
「だって、とっても可愛いんだもん」
レンは、リアに食べさせてもらいながら彼女を見上げた。
エリリアンはその様子を見て微笑んだ。
食事の間、エリリアンとケイルの会話は落ち着いた穏やかなものだった。リアはほとんどレンの世話に集中していたが、ときおり二人の方へ目を向けていた。
しばらくして、リアはレンを見下ろした。
「明日の朝、村にいる私の友達を紹介してあげるね」
レンは彼女を見た。
「みんな、あなたに会えたら喜ぶと思うよ」
リアは笑顔で付け加えた。
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夕食が終わると、夜はさらに静けさを増していった。
エリリアンは皆に休むよう勧めた。長い道のりを旅してきたのだから、これ以上起きている必要はなかった。
リアはレンを抱き、小さくて居心地のよい部屋へ連れていった。
部屋の中には柔らかな寝床があり、近くの小さなテーブルにはランプが置かれていた。その明かりが壁を暖かく照らしていた。
リアはレンをそっと寝床に下ろした。
「今夜はここで休んでね。何か必要なものがあったら、いつでも呼んでいいから」
彼女はレンの頭を優しく撫でた。
「それじゃあ、また明日の朝ね」
リアはランプの明かりを少し暗くし、部屋を出ていった。
扉は静かに閉じられた。
レンはしばらく周囲を見回した。
外では村の物音が少しずつ遠ざかっていた。ときおり、かすかな足音や、窓のそばで風に揺れる何かの音が聞こえてくる程度だった。
レンは小さな体を寝床の上で楽な姿勢にした。
(とても静かで、穏やかな場所だな)
彼は森で過ごした夜を思い出した。冷たい風、聞き慣れない物音、そして茂みの向こうに何かが潜んでいるのではないかという絶え間ない恐怖。
あの場所では、いつ何が起きるか分からず、常に警戒していなければならなかった。
しかし、この部屋は暖かかった。頭上には屋根があり、周りの人たちも自分に優しく接してくれた。
レンはゆっくりと目を閉じた。
(少なくとも今夜は、安心して眠れそうだ)
今はただ、体の力を抜いて休むことにした。
レンは少しだけ寝返りを打ち、目を閉じた。
外では、村の静けさが続いていた。
つづく……




