【六章】第4話:次なる要件定義――カオス・ビルドの極致
既存の模倣をやめ、新しい「何か」を創る。
PMとハッカーによる、深夜の要件定義《壁打ちトーク》が始まります。
「……なぁ、マーク。これを見てくれ」
運営とのやり取りを終え、俺は『私立高校』のワールドで試作していた一枚のカードをマークに提示した。
「おっ、なんですか兄貴。『銀河系アイドル・ミリア』……。いいじゃないですか、可愛い。これならフィルターにも引っかからないし、完璧ですよ」
マークが萌え袖の先でコンソールを叩き、イラストを拡大する。だが、俺は首を振った。
「いや、これも危ないんだ。マーク、『学校』で『アイドル』だぞ? すでに何作も国民的なアニメが存在しているだろ。特定のキャラに似ていなくても、そのコンセプト自体が既存のIPを強く連想させてしまう」
「……う。確かに。学校とアイドルは、もはや一つの巨大な様式美ですからね。パクリと言われなくても、二番煎じの誹謗中傷が飛んできそうだ」
マークは退屈そうに欠伸をしたが、その瞳の奥には「じゃあどうすればいいんだ」という挑戦的な光が宿っていた。
「ならば、アイドルという枠組み《フレームワーク》を外そう。応援団はどうだ?」
「応援団? 泥臭すぎますよ兄貴。それなら……チアリーダーの方が、画像生成の映はいいはずです」
「だが、ただのチアリーダーじゃ普通すぎる。そこに……『戦国武将』の要素をマッシュアップしたらどうなる?」
俺の言葉に、マークの指が止まった。
「……戦国武将、コスプレ、チアリーダー……。何ですかそのカオスな仕様。武田信玄がポンポン持って踊るんですか?」
「いや、プロンプトに『ランダムな戦国武将名』を考えさせ、その甲冑の色や家紋をチア衣装にデザインさせるんだ。メインカラーも、生成のたびにランダムに設定させよう。よし、このシリーズで体力、知力、特殊、防御カードも全部揃えてオリジナルデッキを作ろうじゃないか」
「……面白い! それならAIの学習データにも『正解』は存在しない。既存の模倣じゃない、プロンプトの衝突が生む完全なオリジナルが生まれますね!」
マークのアイスブルーの瞳が、一瞬で演算回路の輝きを帯びた。
「特殊カードには『握手会』なんてどうだ? 武将がファンを鼓舞するんだ。攻撃力が指数関数的に跳ね上がる設定にしよう」
「最高です兄貴! じゃあ、体力カードは『兵糧丸スイーツ』、防御は『本陣パラソル』にしましょう。デザイン案、今から一気にビルドします!」
マークはもう眠たそうな顔をしていなかった。
猛烈な速度でキーボードを叩き、既存の壁をぶち破るための新しいコードを紡いでいく。
「伊達政宗モデル、青のチア衣装でデプロイ完了! どうですか!?」
「いいぞ! そのマッシュアップは天才的だ。承認だ!」
「次は真田幸村の赤で、防御スキルを実装しました!」
「素晴らしい、家紋の使い方が絶妙じゃないか。採用だ、すごいぞマーク!」
俺がことごとく承認を出し、手放しで褒めちぎると、マークは照れくさそうに、だが誇らしげに鼻を鳴らした。
『……ふふ。お二人とも、本当にクリエイター魂の塊ですね。見ていてこちらまでワクワクしてしまいます』
ゼノンが楽しそうに、二人の頭上でホログラムの火花を散らす。
「当たり前だろ。俺たちはエンジニアだ。誰かのコピーを創るためにこの業界に入ったわけじゃないからな」
正しい方向性さえ示せば、マークは無敵だ。
熱中する後輩の背中を見つめ、俺は確信した。こいつなら、権利の壁を飛び越えて、その先にある本当の自由を掴み取れるはずだ。
「学校×アイドル」から「戦国武将×チアリーダー」へ。
一見カオスなその要件は、模倣から脱却し、真のクリエイティブへと向かうための架け橋でした。
しかし、自由すぎる遊び場には、また別の「悪意」が潜んでいることも事実です。
次回、新たな問題――「性的表現のフィルター回避」にフォージ様が立ち向かう!
「戦国チア武将、見てみたいw」「二人の壁打ちが熱い!」と思っていただけましたら、
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